内部監査員をしている若手技術者と設計品質について話をする機会がありました。
設計の品質やよい設計とは何だろうかと話をしていて、例えば図面の品質を上げることは、よい設計とは何かにも関係していることが分かってきました。
ここでは、設計の品質レベルとよい設計について、設計者と設計者をマネジメントする立場で説明します。
設計の品質レベルではなく、区分のような感じもしますが、レベルとしています。
設計の品質レベルは3段階に分けられる
設計の品質レベルが高い、あるいは、質の高い図面とは何だろうか、設計品質を上げるためにはどうしたらよいのか、何が必要なのかなどについて、内部監査員でもある若手技術者と話をする機会がありました。
ぼんやりとしたイメージではあるのですが、設計の品質レベルを下表の様にAからCの3段階に分けることができます。
レベル | 設計の品質のイメージ |
---|---|
A |
よい設計: ・顧客にとってよい設計 |
B |
図面通りに作れる設計: ・顧客から受注し製品を提供する供給側にとって |
C |
図面として形になっているか: ・誤りのない、正しい図面になっているか |
レベルA:顧客にとってよい設計
Aの顧客にとってよい設計とは、
- 顧客要求のQCD(品質、コスト、納期)を満足している。
- 顧客のやりたいことができる。
ことが最低限のレベルであり、顧客イメージを超えることができれば、単なる購入者からファンへの一歩につながります。
レベルB:供給者にとってよい設計
Bの供給者側にとってよい設計とは、顧客要求を満足することは前提として、
- 供給者側の利益が大きくなる(より少ない材料、工数など)設計
- 製造ミスが少ない、起きにくい設計
といえます。
レベルC:図面そのものの品質
Cの図面として形になっているかとは、
- 製作するモノを図面で正しく表現(作図)できている。
ということです。
設計の品質を上げる手段
レベルA、B、Cについて、品質を上げるにはどうすればよいか説明します。
レベルA:顧客にとってよりよい設計にするには
Aの顧客にとってよい設計、例えば、顧客の期待をよい意味で裏切るよりよい設計を実現する機会は少ないと思います。
顧客によってよりよい設計を実現するために不可欠なのが、デザインレビューー(DR)です。
設計者、技術部門だけでなく、技術部門以外の協力をDRという手段で得ることで、よりよい設計を実現するヒントが得られ、よりよい設計に近づくことができます。
レベルB:供給者にとってよりよい設計にするには
Bの供給者側にとってよい設計は、モノづくりの会社のビジネスとして利益を上げるために必要な設計です。
QCDを満たすことは前提(制約)条件であり、材料の選定、加工方法、組立などについて、供給者側としてのQCDの視点で選定することです。
設計者は、顧客要求を満足することに注意しがちですし、知識や経験なども個人の力量に限られます。
このため、設計部門として、検図や承認において設計をレビューすることがポイントになります。
レベルC:図面そのものをよりよくするには
Cの図面として形になっているかというのは、例えば設計者が図面を作成した時に自己レビューをどこまでやっているか、言い換えると、設計者により異なることが多い自己レビューの質と量と時間をどこまで実施するかということです。
設計の品質「図面そのものの品質」を上げるには
上述のAの顧客にとってよい設計やBの供給者側にとってよい設計は、ISO9001のQMS、品質マネジメントのDRを含むレビューにより追い求めることができます。
ここでは、Cの図面として形になっているかについて、設計者個人では改善が難しく、他の設計者を巻きこんだり、技術部門としてのマネジメントについて説明します。
設計者は図面を作成すると、検図を依頼します。
この時、次のような作図上の誤りを繰り返し指導される設計者がいます。
- 同じ様なことを繰り返し指導されている。
- 誤記や記入漏れを指導される回数が減らない。
客観的にみていると、
- 同じことを繰り返したり、誤記等を繰り返す設計者は、自分の図面を自己レビューをする力量がない。
ということになります。
PDCAに例えるならば、
P:図面の作図方法(手順)
D:作図
C:自己レビュー
A:改善(ミスや指導を受けたことを繰り返さないためのアクション)
となります。
Pの図面の作図方法(手順)は、技術部門としてのルールとしてあるべきものですが、これは設計者全員にとって同じ条件です。
Dの作図は、設計者個人の力量そのものです。
Cの自己レビューとAの改善が、設計者により違ってきます。
自己レビューで改善しない理由
同じミスを繰り返す設計者を観察していると、
- 自己レビューをしていない。
- そもそも自己レビューで何をすればよいか分からない。
ケースがあります。
同じミスを繰り返すため、検図者から「自分でチェックしてきたのか」と強めの指導をされる設計者もいますが、改善されることがありません。
ヒアリングしても本当のことを聞くのは現実的に難しいので、推測になりますが、
- 図面を作成すること、検図に早く出すことを図面品質を上げるよりも優先している。
- 検図者が見てくれるからと、自己レビューはさっとやって終わりにする。
といった事がある様です。
自己レビューが改善されないのでこうした例
Cの自己レビューが改善されないと、自己レビューをしている設計者や技術部門全体への影響が出てきます。
自己レビューが改善されない設計者の図面品質が低いと、次のような理由で、図面品質の高い設計者への負荷が増えていきます。
- 図面品質の低い設計者は、手戻り(修正のための工数)が増える。
- 図面品質が高い設計者への依頼が増える。
技術部門のマネジメントで解決すべき課題ではありますが、早急にどうなるものでもありません。
そこで、次のようなことをはじめた技術部門がありました。
- 検図を検図者だけでなく、図面品質が(相対的に)高い設計者による検図を行うようにした。
期待していたかどうかは別にして、目に見える効果を列挙します。
- 図面品質の低い設計者は、検図者にだけ指導された時よりは、検図前のチェックで同じ設計者にミスを指摘されることで、自己レビューをするようになった。
- 分からないことは、検図者などのベテランに聞く前に、設計者に聞くようになった。
- 検図や承認で、設計そのものについて指導する時間が増えた。
また、設計者が集まり、疑問等を持ち寄れる場を設けることをはじめました。
立ち上がりは、なかなか大変だったようですが、根気よく続けることで、同じミスを他の設計者がしないようにしたり、顧客要求などを共有する場としても機能しているようです。
まとめ
内部監査員をしている若手技術者と設計品質について話をする機会がありました。
設計の品質やよい設計とは何だろうかと話をしていて、例えば図面の品質を上げることは、よい設計とは何かにも関係していることが分かってきました。
ここでは、設計の品質レベルとよい設計について、設計者と設計者をマネジメントする立場で以下の項目で説明しました。
- 設計の品質レベルは3段階に分けられる
- レベルA:顧客にとってよい設計
- レベルB:供給者にとってよい設計
- レベルC:図面そのものの品質
- 設計の品質を上げる手段
- レベルA:顧客にとってよりよい設計にするには
- レベルB:供給者にとってよりよい設計にするには
- レベルC:図面そのものをよりよくするには
- 設計の品質「図面そのものの品質」を上げるには
- 自己レビューで改善しない理由
- 自己レビューが改善されないのでこうした例