2022年10月に行われたF-15EXイーグルIIの音響試験の例を紹介しました。
この音響試験では、多数のマイクロホンを利用したマイクロホン・アレイを利用しています。
騒音計測でよく使われるのが騒音計です。1つのマイクと計測・表示ユニットからなり、現場の音の計測に使われています。
ここでは、音の計測について、人間にはどの様に聞こえるのかを含めて説明します。
騒音や振動と計測の基礎知識
日常生活で振動や騒音を意識することは少ないと思います。
意識していないからこそ気づかない、あるいは、最初は気になったものの時間の経過と共に慣れてしまい気にならなくなることもあります。
そうかと思えば、例え小さな音や振動でも、いったん気になり始めるといつまでも聞こえたり、感じたりすることもあります。
音や振動が問題になるというのは、「うるさい」「気になる」といった人の主観によるものです。対策をするためには、これをまず客観的な物理量(騒音レベルなど)に置き換える必要があります。
実際に、振動や騒音の対策を実際にどの様に進めるか時系列で説明します。
- 問題となっている音や振動を特定(主観があるのでなかなか難し)
- 音や振動をどの程度小さくするか、できるのかを分析(計測が重要)
- 定量化した音や振動のレベルとどこまで下げるか決める
- 音や振動の対策(いわゆる防音や防振対策)
- 対策の効果を定量的に判断
この様に、振動・騒音対策は、「気になる音や振動」を判断する人にも関係するため、音や振動についての知識も、経験も、時間も必要なのです。
騒音計のdBAのAとは(人の耳で聞こえる音について)
騒音計は、空気を伝わってくる音をマイクロホンで計測します。
騒音計で表示される数値の単位に[dBA]があります。
下図では、「71.6」の右下に「dBA」と表示されています。
- [db]は、デシベルと読み、音の大きさ(レベル)を表す単位です。
- [A]は、A特性を表しています。
図1 騒音計のイメージ
出典:Pixabayからの画像(加工しています)
A特性について説明する前に、人の耳と音との関係には次の様な特性があります。
- 人の耳では、低い音(低い周波数)から高い音(高い周波数)まで均一に(一様に)聞こえるわけではありません。
- 低い周波数や高い周波数の音は、聞こえにくいという特性があります。(会話に使う周波数範囲ではよく聞こえるということです。)
これを数値的に表したのがA特性です。
下図の青線が、A特性のグラフです。
赤線がフラット(補正なし)、青線がA特性の補正を加えたグラフです。
人が良く聞こえる範囲の周波数範囲外では、ゲイン(音の大きさのレベル)が小さくなっています。
- 騒音計のA特性の補正値についての詳細は、「JIS C 1509 電気音響-サウンドレベルメータ(騒音計)」をご確認ください。
- 人が聞き取れる周波数範囲(音域)は、20Hz~20kHz(20,000Hz)と言われています。(個人差が大きいです。)
- 日常会話に使われる音域は、500~2000Hzと言われています。
- 健康診断での聴力検査は、1000Hz(低音域)と4000Hz(高音域)の音が聞こえるかどうかを調べています。
図2 A特性のグラフ(10Hz~20kHz)
マイクロホン・アレイについて
マイクロホン・アレイとは、複数のマイクを配置して、同時に音を計測することで、音の方向や空間内でどのように音が広がっているかなどを確認することできます。
1つのマイクロホンでは、マイクロホンのある1点での音しか計測することができません。
複数のマイクロホンを配置して、同時に音を計測し、複数の計測点のデータを解析することで、平面や空間内の音の分布や流れを可視化することが可能になります。
さらに計測したデータから音源を探る(音源探査)も可能です。
マイクロホン・アレイによるデータ処理や解析について、ここでは説明しませんが、参考書として以下の本を紹介します
マイクロホン・アレイの種類
マイクロホン・アレイのマイクロホンの配置方法は、目的やノウハウにより様々です。
代表的な配置を下図に示します。
マイクロホンを同心円上に配置する場合でも等間隔でなかったり、等間隔で配置した場合にはデータ処理に工夫(可視化するとありえない場所に音源が表示される。鏡像のイメージ。)が必要だったりします。
下図の右側の様に配置するとそれだけマイクロホンの数も増えますので、目的を達成できるようなマイクの配置についても研究(実験ノウハウ含め)されています。
図3 マイクロホン・アレイのマイク配置例
F-15EXイーグルIIの音響試験のけるマイクロホンの配置
以下のF-15EXイーグルIIの音響試験の写真から、マイクロホンの配置を紹介します。
のF-15EXイーグルIIの音響試験の詳細は、以下の記事をご参照ください。
下図は、F-15EXイーグルIIの音響試験で使われたマイクロホンの写真です。
- 計測用マイクロホンは、防風スクリーンの中にあります。見えている銀色の部分は、センサであるマイクの信号を電気信号(電圧)に変換するアンプです。
- 防風スクリーンは、マイクロホンに風などが当たると雑音(自己ノイズ)となるのを防ぐためのものです。
- 同時多点計測では、計測データにより様々な解析が可能ですが、計測用ケーブルの処理は設置を含めなかなか大変です。
図4-1 F-15EXイーグルIIの音響試験から:計測用マイクロホン
出典:EGLIN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイトからの画像(加工しています。)
下図のF-15EXイーグルIIの左側に並んでいるのが計測用マイクロホンです。
設置の際には、マイクロホンの固定、マイクスタンドの固定、ケーブルの固定など、地味ですがミスすると計測失敗につながるため、慎重かつ確実な作業が必要です。
外での試験では、天候の影響をまともに受けますし、試験スケジュールの設定や調整も難しそうです。
図4-2 F-15EXイーグルIIの音響試験から:マイクロホン・アレイによる計測(その1)
出典:EGLIN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイトからの画像
また、F-15EXイーグルIIの騒音計測はジェットエンジンの騒音計測なので、排気による圧力に加え排気音への配慮も必要です。
下図は、アフタバーナー使用時の音響試験の写真です。
近くに人がいますが、安全管理とデータの取得、なかなかバランスが難しい問題でもあります。
図4-3 F-15EXイーグルIIの音響試験から:マイクロホン・アレイによる計測(その2)
出典:EGLIN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイトからの画像
下図は、「An F-15EX Eagle II zooms over an antenna of microphones」とあるので、いわゆる通過騒音計測の写真です。
この時の音響試験では、一定高度を通過する場合と計測ポイントから急上昇した際の計測が行われたようです。
図4-3 F-15EXイーグルIIの音響試験から:通過騒音の計測
出典:EGLIN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイトからの画像
まとめ
2022年10月に行われたF-15EXイーグルIIの音響試験に使われたマイクロホン・アレイシステムに加え、騒音形で計測するデータ(dBA)から人の耳で聞こえる音についての補正であるA特性について、以下の項目で説明しました。
音の計測には、振動とはまた違う難しさやノウハウがあります。
- 騒音や振動と計測の基礎知識
- 騒音計のdBAのAとは(人の耳で聞こえる音について)
- マイクロホン・アレイについて
- マイクロホン・アレイの種類
- F-15EXイーグルIIの音響試験のけるマイクロホンの配置