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CAEの考え方:飛距離を伸ばすゴルフクラブって何だろう

はじめてのCAE

ホームランを打った時の手応えの無さやバットの根本でつまった時のしびれ感を振動から解析した様に、ゴルフクラブの振動解析をしたことがあります。

はかせ
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ホームランを打った時の手応えの無さやバットの根本でつまった時のしびれ感を振動から解析した例については、以下のリンク先をご参照ください。

バットにも形状の違いはありますが、ゴルフクラブと比べれば単一形状と言えますし、素材も限られています。

ゴルフクラブはシャフトとヘッドの組み合わせがありますし、ヘッド形状もドライバー、アイアン、パターと用途に応じ様々です。

ゴルフクラブの振動解析では、ドライバーを対象に行いました。なぜドライバーかというと当時、「ゴルフクラブが売れるかどうかは、ドライバーの飛距離しだい。1ヤードでも飛ぶようになるなら売れる。」と聞いていたからです。

実際にやってみると、振動計測1つとっても試行錯誤していたのですが、ゴルフクラブを吊った状態で、ドライバーのボールが当たる面をインパルスハンマーで加振し、グリップ付近で振動を計測していたところ、加振してもクラブの揺れが小さい場所があり、これがドライバーのスイートストップなのかと思ったことを思い出します。

そこで、ドライバーヘッドの加振点(インパルスハンマで叩く点)を変えて計測してみたところ、意外にスイートスポットが広いことに驚きました。

さて前書きが長くなりました。

この記事では、飛距離が伸びるゴルフクラブを作るためのシミュレーションをする場合、自分ならどのように取り組むかについてまとめました。

結果的にまとまりのない記事になってしまいましたが、私の思考過程(どの様なことを考えていったか)が分かるかと思い時系列でまとめています。

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シミュレーションの目的:何のためのシミュレーション

シミュレーションモデルを作る前に、まずは、シミュレーションの目的について考えます。

シミュレーションの目的が具体的にならないと、何をしているか分からなくなってしまうからです。

シミュレーションの目的について考える際には、以下の2つが基本となります。

  • シミュレーションしたい現象をシンプルにする。
  • 仮説を立てる。

はじめのうちは、シミュレーションの目的がぼんやりとしたイメージしか浮かばないかもしれませんが、シミュレーション対象について観察したり、何を解析するのか具体的に考えていくことにより、しだいにシミュレーションの目的が具体的なものになっていきます。

また、シミュレーションの目的が具体的になってきたら、次の様なイメージで段階的にシミュレーションの詳細度を高めていきます。

  • シンプルな条件(単一素材にする、一定力を加えるなど)で傾向をつかむ。
  • シミュレーション対象の現物に近づける(より詳細な形状にしていく)。

下図は、ゴルフスイングのイメージ図です。

ドライバーでのショットをシンプルな運動に例えると、少々極端ですが、「ティーアップしたゴルフボールの前後10cm程度をヘッドが地面に平行に移動する運動」と考えることができます。

ゴルフスイングのイメージ

ゴルフスイングのイメージ

図1 ゴルフスイングのイメージ

例えば、ゴルフで飛距離を伸ばすといっても、

  • 飛距離には、スイング、クラブ、ボールが関連しています。
  • クラブだけにしても、シャフトとヘッドの組み合わせ、シャフトの形状も単純なパイプではありません。
  • クラブに、使われている材料(素材)の種類も様々で、形状も単なるパイプではありません。

現象や対象物を以下にシンプルにしていくかが、シミュレーションのモデリングそのものにも直接影響しますので、シミュレーションの目的に対しできるだけシンプルなモデルや条件から解析を始めることが重要です。

シミュレーションしたい現象をシンプルに

例えば、飛距離の出るドライバーをシミュレーションで探したいとします。

この時考慮する対象は、次の3つに分けられます。

  • スイング
  • ゴルフクラブ
  • ボール

ここでは、ゴルフクラブを対象とするので、スイングとボールをシンプルなものにします。

実際のボールは単一素材ではありませんし、スイングをシンプルにすることで、次の様な理由でボールの素材や形状を無視することができます。

ボールに力が加わるのは、ドライバーのヘッドがボールに当たった瞬間です。

この時、

  • ドライバーのヘッドは、微小距離を考えると一定速度で地面に対し水平移動している。

と考えられます。

これを、

  • ボールが当たるドライバーのヘッドのある点に、ヘッドスピードに応じた加速度(あるいは力)が加わる。

と考えていきます。

スイングをシンプルに

次に、スイングをシンプルにしていきます。

まず、スイングを実際に人がスイングをするのをそのままシミュレーションするのではなく、シンプルにすることを考えていきます。

シミュレーションの目的である「飛距離の出るドライバーを探す」ことを頭の隅に置いて、スイングを分解していくと、次の様な状態があると考えられます。

  • ドライバーが静止状態からボールに当たるまで
  • ドライバーのヘッドにボールが当たってから離れるまで
  • ドライバーのヘッドからボールが離れ飛んでいった後

また、実際にドライバーで打っている様子を観察すると、

  • ドライバーがボールに当たるまで、ヘッドの重さによりクラブのシャフトがしなっている。

ことが分かります。(プロのヘッドスピードが無いとビデオ撮影をしても分からないレベルの話です。)

このシャフトがしなることを含めて飛距離が出るドライバーを考えていくと、

  • シャフトがしならない(剛性の高い)クラブよりは、シャフトの弾性力を利用した方が飛距離が伸びる。

と考えることができます。

この様に考えてくると、シミュレーションの目的である「飛距離の出るドライバー」とは、「シャフトの弾性力をうまく利用できるドライバー」だと考えられます。

飛距離を伸ばす方法について考える(少し寄り道)

ここで少し寄り道をしてドライバーの飛距離を伸ばす方法を考えてみます。

思いついたことを列挙します。

  • スイング:
    • スイングは、打点でヘッドスピードを最大にする。
    • ドライバーはティーショットなので、地面の影響(摩擦)は考慮しなくてもよい。
  • ドライバーのヘッド:
    • ドライバーのヘッドは硬く、ボールは相対的に軟らかい。
    • ヘッドの素材の違いによる反発力が打球の初速に影響する。
  • ドライバーのシャフト:
    • スイングにより発生する運動エネルギーをボールに伝える役割がある。
    • ドライバーのヘッドは、長いシャフトの先にある重量物なので、スイングによりシャフトの曲げは発生する。
    • シャフトの曲げとは、シャフトの弾性力のことでもある。

以上のことを整理すると、

「シャフトの特性(曲げ剛性や弾性力)が、飛距離に影響する」

と考えることができます。

つまり、「飛距離の出るドライバー」とは、次の様なクラブになります。

  • スイングにより発生する力(ヘッドにかかる遠心力)をできるだけボールに伝える。
  • スイングによる力に加え、シャフトそのものの弾性力を加えることができれば、さらに大きな力(初速)をボールに与えることができる。

寄り道の結果を取り入れる

ここで、次の様に仮定します。

(ボールの初速)=(スイングによる力)+(シャフトの弾性力による力)

この過程により、「飛距離の出るドライバーを探す」ことは、「シャフトの弾性力により、打点でのヘッドスピードが増える条件を探す」問題となります。

シャフトの弾性力について注目すると、次の様なことをシミュレーションで検討することになります。

  • シャフトとしては、どの様な曲げの形状になるのがよいのか。
  • シャフト外径は、グリップ部分が太く、ヘッド側が細くなっているが、厚さは均一でよいのか。
  • カーボンは、繊維方向や巻き方によりねじれが発生するが曽於の影響はあるのか。

などが疑問として浮かんできます。

さらに、シャフトの製造方法も関連してきますが、シミュレーション条件が複雑になると結果の評価も難しくなります。

このため、まずは、シャフト全体の特性をつかむために、材料は一定としシャフトの形状による比較をしてみます。

さらに考察を進めるとしたら

さらに考察を進めた場合に、思いつくことを列挙します。

ゴルフボールと弾道

飛距離はボールそのものと、弾道にも影響を受けます。

インパクトの瞬間に知りたいことを列挙します。

  • ゴルフクラブのヘッドがボールにどの部分に当たるかは、接触の問題
  • ボールの変形は弾性の問題
  • ゴルフボールとティーとの接触(摩擦抵抗)の問題
  • ヘッドの運動エネルギーがボールの運動エネルギーにどの程度伝わるかという問題

また、ヘッドからボールが離れると、

  • 空気中で最も飛距離が出る弾道はどこか
  • ゴルフボールのスピン量(ヘッドの一度、力が加わる方向による影響を受ける)
  • ゴルフボールが飛んでいる間の空気抵抗(ディンプルが影響)

と言ったように知りたいこと、調べたいことが増えていきます。

この様に知りたいことが増えてくると、これらの条件の中で、何が飛距離に対して有効か(支配的か)を調べていくことも必要になります。

参考:仮説について

シミュレーションや実験(試験)は、何らかの仮説を検証するために行います。

しかし、次の様な理由により、仮説は正解でなくても問題はありません。

  • 正解を知るための手段として仮説を立てます。
  • シミュレーションの結果から仮説が正しいか否かを判断します。

シミュレーションの結果を判断できなかったり、仮説に誤りや無理があると考えるのであれば、これまで検討してきたことをいったんリセットして、何のためのシミュレーションをしたいのか考え直してみることも有効です。

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まとめ

ホームランを打った時の手応えの無さやバットの根本でつまった時のしびれ感を振動から解析した様に、ゴルフクラブの振動解析をしたことがあります。

野球のバットと比べると、ゴルフクラブは形状も素材も様々です。そこで、「ゴルフクラブが売れるかどうかは、ドライバーの飛距離しだい。1ヤードでも飛ぶようになるなら売れる。」ということで、飛距離の伸びるドライバーのシミュレーションについて考えてみました。

結果的にまとまりのない記事になってしまいましたが、私の思考過程(どの様なことを考えていったか)が分かるかと思い、以下の項目で説明しました。

  • シミュレーションの目的:何のためのシミュレーション
  • シミュレーションしたい現象をシンプルに
    • スイングをシンプルに
    • 飛距離を伸ばす方法について考える(少し寄り道)
    • 寄り道の結果を取り入れる
  • さらに考察を進めるとしたら
    • ゴルフボールと弾道
    • 参考:仮説について
はかせ

サイト管理人で記事も書いているモノづくり会社の品証の人。
振動制御で工学博士なれど、いろいろ経験して半世紀。
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