技能オリンピック(技能五輪全国大会)というのは聞いたことがありましたが、「若年者ものづくり競技大会」というのもあることを知り調べてみました。
設計初心者が設計を学ぶヒントにもなると思い、「若年者ものづくり競技大会」について調べたことをまとめました。
「若年者ものづくり競技大会」とは
「若年者ものづくり競技大会」は、厚生労働省とJAVADA(中央職業能力開発協会)が主催する大会です。
- 対象:職業能力開発施設、工業高等学校等において技能を習得中の若年者(原則20歳以下)であり、企業等に就業していない者
- 目的:技能競技を通じ、これら若者に目標を付与し、技能を向上させることにより就業促進を図り、併せて若年技能者の裾野の拡大を図ること
JAVADA(中央職業能力開発協会) https://www.javada.or.jp/
「若年者ものづくり競技大会」は、2005年から始まり様々な分野がありますが、設計の参考になるのは「機械製図(CAD)」になります。ちなみに、競技職種は15ありますが、全ての協議が毎年行われているわけではないようです。
- 競技職種:メカトロニクス、機械製図(CAD)、旋盤、フライス盤、電子回路組立て、電気工事、木材加工、建築大工、自動車整備、ITネットワークシステム管理、ウェブデザイン、業務用ITソフトウェア・ソリューションズ、グラフィックデザイン、ロボットソフト組込み、造園
「機械製図(CAD)」の内容は、試験当日に課題が示され、図面を作成、印刷するまでです。
なお、試験の詳細は、JAVADA(中央職業能力開発協会)Webサイトの「若年者ものづくり競技大会」の記事で確認できます。
CADによる図面作成のプロセスフロー
以下、基盤整備センターのWebサイトで公開されている「技能と技術2020年2号」の「若年者ものづくり競技大会「機械製図」職種の指導法」から、私が設計初心者が設計を学ぶヒントになると考えた部分について説明します。
引用元:
特集 技能競技に対する取り組み
若年者ものづくり競技大会「機械製図」職種の指導法(PDFのリンクです)
作者名:清本 達也
作者所属施設/企業:北陸職業能力開発大学校
以下の図面作成フローは、「機械製図(CAD)」の課題の場合です。
- 課題:課題として提示された組立図の中の1つの部品を抜き出し、形状、寸法、公差、指示や注記等を記入し、部品図を完成させる。
メーカー等で図面を描く場合とは、材料の選定や強度計算などのいわゆる設計については含まれていませんが、製品の図面を描くことについては基本的に同じフローになります。
図面作成の事前準備
- 尺度を確認し図面枠を開く。
- 新規なら(図面共通なので)テンプレートを使う。
- 類似図面データのファイルを開く。
- 指示事項を確認し断面図と外形図のメモを記入する。
- 社内ルールに従い必要な情報を記入する。
- テンプレート化されている場合もあります。
課題の確認
競技であれば以下の通りです。社内でルールあるいは手順化されている場合もあります。
- 課題図に穴情報を記入する。
- 輪郭線、中心線を作図する。
- 表題欄を作成する。
- 抜き出す部品を確認し必要なら蛍光ペンで書き出す。
- スケールと円のテンプレートと分度器を使用し課題図を測定する。
実際に図面を描く場合であれば、設計しながら形状や寸法などを決めていきます。
図面を作成する(図を描く)
- 測定しながら正面から外形形状(正面図)を描き出す。
- 正面図から基準線を飛ばし平面図を作成する。
- 正面図と平面図から左側面図を作成する。
作成した図面の整合性を確認する
- 整合性の確認
- 正面図と平面図の整合性
- 正面図と側面図の整合性
- 平面図と側面図の整合性
- 相貫線の確認を行う場合は3次元CADを用いて確認する。
- 外形形状が完成した時点で検図(セルフチェック)を行う。
後述しますが、2D CADと3D CADとでは作図内容により適・不適があります。
2Dと3Dの使い分けは、設計者のCAD操作スキル以外に、CADソフトのライセンスやコストも関連しますので、設計対象に応じたCADの選択をできる環境は現実的には難しいかもしれません。
寸法等の記入
作図対象の形ができたら寸法を記入していきます。
製作図面であれば見やすいとか間違えにくくすることも必要になってきます。
設計担当者任せの場合、同じような品物なのにまるで別の図面といったことが普通に起こります。
- 3次元CADでモデリングを行うイメージで寸法を記入する。
- 言葉では簡単ですが・・・。
- 以下の寸法を記入する。
- 寸法補助記号
- 面取り寸法
- 半径寸法
- 許容限界(製造公差、組立公差、幾何公差)
- 表面性状(加工の指示)
- 穴寸法
- 寸法注記
見やすい図面、間違えにくい図面の説明は難しいのですが、加工するうえで分かりにくい図面、ミスをしやすい図面というのはあります。
設計者がどこまで加工のことを想像できるかにかかっているとすれば、一朝一夕には身につかないスキル(力量)ということになります。
スピードも求められるので図面品質は設計者にとって永遠の課題なのかもしれません。
検図(セルフチェック)
図面作製も人がやる以上、ヒューマンエラーは避けられません。
間違いにくい作図方法や、間違いをみつけやすい作図方法などは、ISOでいう組織の知識(ノウハウ)に相当すると考えています。
以下について確認します。
- 寸法の重なり
- 外形形状の見落とし
- 寸法の見落とし
- 2重寸法
上記の確認を、時間の許す限り繰り返します。
ミスをしないように作図することと、100点の図面を描くのではなく70点でよいから早く形にして確認を繰り返すことで仕上げていくといった考え方もあります。
図面完成
図面の完成は、
- データを保存し、印刷して完了
となります。
PDFに出力して完了とする場合もあれば、あくまで紙でくれといった場合もあります。
「若年者ものづくり競技大会」の課題と3次元形状のイメージ
「若年者ものづくり競技大会」の図面作成における難しい部分から、3次元形状をイメージする力について説明します。
トレーニングにより力量を向上させることができるようです。
上述の資料「若年者ものづくり競技大会「機械製図」職種の指導法」も参考にしてください。
例1 課題図(組立図)で書かれてない左側側面図の完成度
- 設計者が想像した3次元形状の精度により決まる。
- 形状を完全に把握しないと寸法を記入することができない。
組立図で明確に表現されていない部分は、部品図で確認することになりますが、競技で考えさせるために意図的にそうするのであれば理解できますが、実際の図面で組立図があいまいな表現になっていると、加工や検査で困ったことになります。
例2 曲面と角度のある平面が重なり混在する場合
言葉での説明が難しいので下図をご参照ください。
図13の立体図から2Dの投影図にする問題です。
この場合、2次元の投影図と3次元形状との関係を理解するのがとても難しくなります。
図1 立体図から2次元投影図への変換
出典:特集 技能競技に対する取り組み
若年者ものづくり競技大会「機械製図」職種の指導法(PDFのリンクです)
作者名:清本 達也
作者所属施設/企業:北陸職業能力開発大学校
ではどうするか、次の様なトレーニング(経験)を積むしかありません。
例えば、3次元の立体図を頭の中で小さな形状の積み重ねで(積み木のようなイメージで)表現して、それを2次元の投影図として表すことを繰り返します。
3D CADの強みと弱み、そして対策
3D CADは、2D CADに比べて図面作成に時間がかかります。
競技の様に1回限りの図面作成時間を競うのであえば、2D CADを選択する理由も分かります。
では、図面作成に時間がかかる3D CADのメリットは何でしょうか?
例えば、3D CADを利用すると、
- 部品モデルの再利用が可能
- CAEが利用可能(応力解析などの強度計算、材料による比較など)
が可能になります。
言葉を変えれば、次の様な場合には図面作成に時間のかかる3D CADを使う積極的な理由はないということになります。
- 多品種・少量・短納期の製品(類似の2D CADデータを修正する使い方が主)
- 形状が多少違っても、性能(強度)的に問題ないことが分かっている。
しかし、このような場合には、次の点に注意が必要です。
- 類似データが正しい図面とは限らない。
- 今の設計者に加え過去の設計者の分だけ同じ様な製品でも見た目の違う図面が増える。
3D CADによる効率的な作図方法の手段
3D CADによる効率的な作図方法について、説明します。
3D CADの操作性向上:必要最小限の機能変更
次の様な必要最小限の機能変更により操作性向上を図ることができます。
社内で共通の設定とすることが重要です。
- モデルタブ背景色の変更
- ツールバーの追加表示
- 画層の設定
- 文字スタイル管理の変更
- 寸法スタイル管理の変更と追加
- オブジェクトスナップ設定変更
- 極トラッキングの設定変更
- 仕上げ記号のブロック定義
- 幾何公差のブロック定義
- 注記のブロック定義
- 風船、矢印のブロック定義
- 印刷スタイル管理の設定(PDF含む)
- 注記スタイルの変更
- 図枠の作成
- 線種尺度の変更
- 作図、編集機能の追加
この機能変更、操作性向上のためとは言え、個人でバキバキにカスタマイズされてしまうと、次の様なことが起こり、新たな問題が生じます。
- 同じCADソフトを使っていても、他人のPCのCADソフトは使えない。
- 設計者の図面品質の向上(底上げ)にも支障がでます。
3D CADで多用する編集機能の習熟
これは、CADに限った話ではありませんが、Office系やグラフィック系のソフトでもよく使う編集機能には習熟するのが、操作性向上の近道です。
3D CADであれば、次の様な編集機能(コピー機能)に習熟することで、図面作成時間を短くすることができます。
- 複写
- 鏡像
- 配列複写
設計初心者のスキルアップのポイント
以下は、協議会に参加する学生向けの勉強会のポイントですが、仕事で設計業務をする場合にも共通しています。
- 競技内容の説明(何のための図面作成か)
- 説明文で注意すべき点(作図対象への要求)
- 作成する部品の把握(組立図と部品図)
- 投影図配置の注意点(加工しやすい。加工間違えしにくい)
- 表面性状の記入方法
- 記号注記の記入方法
- 時間配分(作図の段取り、図面作成、整合性確認、寸法等の記入、検図)
- 寸法記入のこつ(作図対象を表現する必要最小限の寸法記入)
- 検図の方法(セルフチェック、設計ポイントなどのチェックリスト)
- 情報交換(いつまでに、何を、どのレベルでなど)
結局、3D CADによる図面作成の力量を向上させるには、
- 作図する製品の3D形状をイメージ(想像)する力
を伸ばすために、
- 考えながら数をこなす。
ことだと考えています。
まとめ
技能オリンピック(技能五輪全国大会)というのは聞いたことがありましたが、「若年者ものづくり競技大会」というのもあることを知り調べてみました。
設計初心者が設計を学ぶヒントにもなると思い、「若年者ものづくり競技大会」について調べたことを、以下の項目で説明しました。
- 「若年者ものづくり競技大会」とは
- CADによる図面作成のプロセスフロー
- 図面作成の事前準備
- 課題の確認
- 図面を作成する(図を描く)
- 作成した図面の整合性を確認する
- 寸法等の記入
- 検図(セルフチェック)
- 図面完成
- 「若年者ものづくり競技大会」の課題と3次元形状のイメージ
- 例1 課題図(組立図)で書かれてない左側側面図の完成度
- 例2 曲面と角度のある平面が重なり混在する場合
- 3D CADの強みと弱み、そして対策
- 3D CADによる効率的な作図方法の手段
- 3D CADの操作性向上:必要最小限の機能変更
- 3D CADで多用する編集機能の習熟
- 設計初心者のスキルアップのポイント