出社すると仕事をしていて、定時になっても帰る気配がない技術部署というのは珍しい話ではないようです。
設計に関するクレーム対応で、設計者にヒアリングをする機会があり、日頃見聞きしていることを合わせて整理しました。
一般的な話ではないのかもしれませんが、悩める設計初心者や設計を教える立場の方の参考や、設計品質の向上のヒントになれば幸いです。
笑えない設計現場の現実
ここで紹介する設計現場は、
- 多品種・少量・短納期の仕事
- 見積を取る場合、製作(加工)を始める場合には図面必須
となっている、モノづくりメーカー(製造委託含む)でのお話です。
とある技術部の日常、
営業担当者や調達担当者からTelやメール、急ぎになると直接やってきて、
- 「図面まだ?」
- 「この図面のこの部分は、どうなっているの?」
忙しそうではあるが、設計担当者はどうかというと、
- マイペース(に見えるが、実際は図面作成が終わらずあせっている。)
- ミスがあると「すいません」と、直ぐに修正作業を始める。
手が離せないと、
- 「今、この急ぎの案件で手が離せないんです。」
- 「いつまで延ばせますか?」
設計者がやっていることは、
- 必要な図面の量に、図面作成能力(量)が追い付いていない。
- 手間暇かかって作成した図面なのに、ほとんどの図面は1度限りのモノづくりでお蔵入り
どこぞやのソフトウェア開発現場でも見たことがあるデス・マーチの様な現実です。
この影響は、当然のことながら後工程や出荷にも影響がでます。
- 発注図面で加工できない(ので、問い合わせが発生し納期遅れ)
- 図面誤りの結果、図面通りで検査合格なのに出荷できずに再製作
図面品質の面からは、
- 図面品質が低い(正しい図面ではない場合が珍しくない)ため、過去データをコピペすると劣化コピーとなり、さらに図面品質が落ちる。
- 過去データを探し修正した図面の完成度が低いので、手戻り(図面修正)による工数増加
- 手直しが当たり前のモノづくりが当たり前になってしまう。
次は、この様な現実が見えてみた2年目の設計技術者の相談です。
入社2年目の設計者からの相談
ある設計者から、図面のミス(設計だけでなく、ケアレスミスを含め)について話を聞いていると、ぽつぽつと語り始めました。
- 設計者として採用され指示されたことは、「似ている形の図面データをコピーしてきて図面を作るように」ということだけです。
- 検図で何やら言われるのですが、その根拠が「昔からそうだった」、「誰々さんがそう言った」等技術的にあいまいなので結局同じことを何度でも聞くことになる。
- 実は聞かれた人も教わったわけではなく、忙しさに理由を調べたりも先送り、自分の経験で語ることになっているようです。
- 「自分で考えろ」と言われても、モノづくり初心者の自分では何をすればよいのか分からない。
- 書籍やセミナーは、はじめて設計する自分には難しすぎる。例えば、目次やアジェンダでさえ知らない言葉がいくつも出てくる。
それでも、見よう見まねで図面を描いてきたが、設計者として2年目となったが、どうやら次の様なことが現実にある様です。
- 設計はOJTと称して自ら学べということのようですが、そもそもの設計の標準がない。
- 例えば、同じような形状の部品を設計する場合、材料選定も形状も過去図面のコピペで済ませている。新規部品についても、明確な判断基準があるわけではなく、「誰々さんがOKならOK」ということになっている。
社内的に、調達担当や品証の検査担当者から、
- 「図面が分かりにくい」
- 「これでは検査できない」
- 「そもそもよくこの図面で作れるな」
と言ったことを聞くし、言われると自分自身でもそう思います。
そして、
- 設計者として何をすればいいのでしょう?
と逆に質問されてしまったのでした。
この様な設計者が1人だけでないという厳しい現実もあり。
悩める設計者とのお話
設計がはじめての設計者とのお話で分かったことを列挙してみると、以下の様になります。
- 設計初心者は、何を質問すればよいか分からない。
- ベテラン設計者は、何をどうやって教えればよいか分からない。
- ベテランは教わったわけではない。
- そもそも、自分でできると、教えることができるとの間には壁があります。
- 設計者の数だけ設計のマイルールがあるのだから、教えたとしても独自ルールとなる。
- 設計担当者によって図面が違うという笑えない現実が生まれる原因の1つです。
- OJTと称した過去の図面データをコピーして図面を書けば、普通に劣化コピーとなる。
- 設計データの再利用をするための準備が必要です。
- さらに話を聞いていると、「図面を書いているのであり、設計していないのではないか?」に気づく。
そして、現実(実際の現場)は、
- 次から次へと図面の作成依頼がきて、設計者はいつまでも図面を作る作業から解放されず。
- 頑張って作った図面は一度しか使われず。
- 感謝される間も無く次の図面作成依頼がやってくる。
なかなか厳しい現場ということになりますが、何もしなければ何も変わりません。
何かできないことはないか考えてみました。
図面の役割について考えてみる
お客様の依頼内容(要求)とリアルなモノをつなぐのが設計であり、それを表すものが図面であると考えることができます。
設計者や設計者と図面で直接やり取りをする調達や検査の担当者の話を聞いてみると、モノづくりに図面が必要なことは分かっているけれど、多品種・少量・短納期のモノづくりにおいて、毎度毎度(コピペしているとは言え)図面を新規に作成し、せっかく作った図面を1度しか使わないことに、何かおかしいのではないかということに、関係者が薄々感づいてきています。
でも何をすればよいかに正解はないし、この課題(命題:図面は必須だが、1度しか使わない)に首を突っ込めば大変なことだけは分かるだけの察知力は持っているので、とりあえず現状維持となっているのが現実です。
この現状を打破する(改善する)ためには、私は、ぼんやりと設計がポイントではないかと考えているのですが、「考え初めると途中で行き詰まり、放置、リセット」といったことを繰り返しています。
そこで、技術者の教育(工学的な基礎知識)が必要なことは明白なので、設計者をゼロから育てる方法を、カリキュラムの様なイメージで考えをまとめる方向で考えてみようと思います。
これも、CAE入門は設計初心者向けにまとめまたおかげで、「設計者が図面を作るだけで忙しい問題」の考えを一歩前に進めることができた要因の1つだと考えています。
以下の2冊のKindle本は、このブログの記事をまとめたものです。おかげさまで、設計やCAEの初心者や教える立場の方の参考にもなっているようです。
FreeCADを使い、CAEの基本である応力解析などについてまとめています。
Amazonへ:「FreeCADで始めるCAE設計入門」
実験にも興味のある方には、ホームランを金属バットの実験とシミュレーションで考察しています。
Amazonへ:「ハンマリング試験から始めるモード解析入門」
そもそも設計していない。やってることは劣化コピーという現実もある様ですが、これについては以下をご参照ください。
まとめ
定時前から仕事をしていて、定時になても帰る気配のない技術部署というのは珍しくないようです。設計クレーム対応で設計者にヒアリングする機会があり、日頃見聞きしていたことと合わせて、以下の項目で説明しました。
悩める設計初心者や教える立場の方の参考や、設計品質向上のヒントになれば幸いです。
- 笑えない設計現場の現実
- 入社2年目の設計者からの相談
- 悩める設計者とのお話
- 図面の役割について考えてみる