ヒットした新製品や設計開発の成功理由の話には、「設計思想」という言葉が出てくることが多いと感じています。
設計思想の言葉の意味を調べてみると、文字通りフィロソフィー、アイディア、あるいは、コンセプトなどであり、何となくわかったような気にはなりますが、イメージはあいまいです。
「設計思想が重要です」とか、「設計思想がしっかりしている」とかいうこともありますが、そもそも設計思想とはどの様なものなのでしょうか?
これまで、商品企画や設計・開発、モノづくり、品質管理やアフターサービスなどを経験してきましたが、「設計思想は重要なものらしい」ということは何となく理解しているような気がします。
しかし、「設計思想について教えてください」といわれると、正直なところ困ってしまいます。
設計思想の説明になるとも思えませんが、設計思想とはどのようなものか考えるヒントになると思い、好きな戦闘機を例に説明します。
ここでは、戦闘機界のベストセラーF-16ファイティング・ファルコンを例に、設計思想について考えてみました。
設計思想が優れていれば成功するようです
製品が成功した(ロングセラー等)理由を考え整理したら、設計思想について何か分かるかもしれないと思い、
- 開発した製品が成功したのは、「設計思想が優れていたから成功した」
と仮定します。
ロングセラーになるということは、長く売れているだけでなく、長く作り続けることができるということです。
設計・開発の視点では、基本設計が優れていれば、
- 長期間(10年以上)にわたり、
- 基本設計を大きく変更することなく、
- 環境の変化や新たな要求に対応し、
- 新しい技術などを取り入れることができる。
といえます。
基本設計が優れているとは、
- 設計思想も時の流れと共に陳腐化しない。
と考えることができそうです。
以下、戦闘機界のベストセラーといわれるF-16ファイティング・ファルコンの基本設計に注目しながら、設計思想について考えます。
戦闘機のベストセラーF-16ファイティング・ファルコン
ロングセラーの製品として、基本設計に優れた戦闘機といわれている、F-15イーグルシリーズとF-16ファイティング・ファルコンを取り上げます。
F-16ファイティング・ファルコンは、F-15イーグルと同時期に開発された機体で、同じエンジンを採用しています。
初代F-16は、1970年代に初飛行していますが、今でも現役で第一線で使用されています。
F-16ファイティング・ファルコンの最新型はブロック70/72です。
- なお、自動車は、車体とエンジンを同一メーカーが開発・製造をするのが一般的ですが、航空機の場合は、機体とエンジンの開発・製造は別メーカーです
機体の基本設計に優れており、中身は段階的にアップグレードされています。
外観は、ブロック化による更新に伴い変更はありますが、基本的には同じ機体形状です。
F-16ファイティング・ファルコンとF-15イーグルとの設計上の違いは、
- F-16ファイティング・ファルコンは、フライ・バイ・ワイヤ・システムなど当時の先進的な技術を取り込んだ設計
- F-15イーグルは、マッハ2超を要求する保守的な設計
- 両機とも同じエンジンを採用しており、F-16ファイティング・ファルコンは1基、F-15イーグルは2基搭載
となっています。
戦闘機界のベストセラーF-16ファイティング・ファルコン
F-16ファイティング・ファルコンは、戦闘機界のベストセラーです。
F-16ファイティング・ファルコンは、F-15イーグルと同じエンジンを1基搭載したシンプルで軽い機体です。
下図は、F-16ファイティング・ファルコンの写真です。
図1 F-16ファイティング・ファルコン
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
初代F-16ファイティング・ファルコンは、1970年代に初飛行しています。
その後、ブロック化による段階的な性能向上を前提とした開発が行われており、2024年11月現在の最新型は、F-16ファイティング・ファルコン ブロック70/72です。
機体の基本設計に優れており、アビオニクスなどはブロック化により段階的にアップグレードされています。
外観は多少の変更はありますが、大きな設計変更を伴うような変更はないようです。
F-16ファイティング・ファルコンは、当時の最新技術の1つであるフライ・バイ・ワイヤ・システムなどを積極的に採用しています。
一方、同時期に開発されたF-15イーグルが、最高速マッハ2超、武装搭載量、航続距離を要求されており、保守的な設計となっています。
F-16ファイティング・ファルコンの詳細は、以下の記事をご参照ください。
F-16ファイティング・ファルコン:戦闘機界のベストセラー
F-16ファイティング・ファルコンを例にブロック化について
フライ・バイ・ワイヤ・システムのメリット
F-16ファイティング・ファルコンは、当時の最新技術の1つであるフライ・バイ・ワイヤ・システムなどを積極的に採用しています。
一方、同時期に開発されたF-15イーグルが、最高速マッハ2超、武装搭載量、航続距離を要求されており、保守的な設計となっています。
フライ・バイ・ワイヤ・システムを採用することで、コンピュータによる操縦が可能になります。
下図は、F-16ファイティング・ファルコン(NF-16D)をベースとしたX-62A VISTA(Variable In-flight Simulator Aircraft)の写真です。
- 実際の戦闘機を使ったシミュレータとして使ったり、自動操縦やSkyborgの研究に使われています。
図2 X-62A VISTA
出典:EDWARDS AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
最新のF-16ファイティング・ファルコン ブロック70/72
下図は、F-16ファイティング・ファルコンのブロック70の写真です。
- 2023年3月の写真で、F-16ファイティング・ファルコンの最新型です。
- 写真のキャプションには70とありまあすが、複座なのでブロック72だと思います。
- 上図の写真と比べると機体上面中央の形状や全体的に大型化しています。
図2 F-16ファイティング・ファルコン ブロック70
出典:EDWARDS AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
F-16ファイティング・ファルコンとフライ・バイ・ワイヤ・システム
F-16ファイティング・ファルコンは、当時の最新技術の1つであるフライ・バイ・ワイヤ・システムを採用しています。
フライ・バイ・ワイヤ・システムについて簡単に説明します。
飛行中に進行方向を変える場合、パイロットは操縦桿を動かして機体の進行方向を変えることができます。
従来、進行方向を変える時に機体側は、パイロットが操縦桿を動かした分だけ、通常のケーブルやリンケージにより補助翼が動き、機体の進行方向が変わります。
フライ・バイ・ワイヤ・システムを採用すると、パイロットが操縦桿を動した分の(ケーブルやリンケージの代わりに)電気信号が伝わり、アクチュエータが補助翼を動かし、機体の進行方向が変わります。
フライ・バイ・ワイヤ・システムにすることで、ケーブルやリンケージが電気信号を伝えるケーブルに代わるため、軽量化と機体内の省スペース化につながります。
同時代に開発されたF-15イーグルは、保守的あるいは正統派といえる設計・開発の進め方だったため、第4.5世代機ともいわれるF-15EXイーグルIIで採用されています。
F-16ファイティング・ファルコンの開発では、フライ・バイ・ワイヤ・システムなどの当時の最新技術を積極的に採用する設計だったと考えられます。
参考:F-16ファイティング・ファルコンの諸元
F-16ファイティング・ファルコンの諸元を下表に示します。
全長 | 14.8 m |
---|---|
全高 | 4.8 m |
全幅 | 9.8 m |
エンジン |
|
重量 | 16,875 kg(燃料なしでは、8,936 kg) |
最大離陸重量 | 16,875 kg |
速度 | 2,414 km/h (マッハ2) |
高度 | 15,000 m以上 |
航続距離 |
3,221 km以上
|
F-16ファイティング・ファルコンの設計思想とは
Webサイトの製品紹介には、製品のセールスポイント(優れた点など)が説明されています。
そこで、F-16ファイティング・ファルコンのWebサイトを調べてみました。以下、意訳なので正確ではないことご了承願います。
F-16ファイティング・ファルコン ブロック70/72のキャッチコピーを列挙します。
- 最新かつ最先端のF-16、第4世代を次世代に変革
- 新しく、先進的で、比類のない機能(高度なレーダー、戦場認識強化、パイロットを救う残存性、様々な武装の統合、拡張された構造・機能)
- 統合サプライチェーンパートナーシップ
キャッチコピーから、F-16ファイティング・ファルコン ブロック70/72への要求は、
- 第4世代戦闘機から次世代にむけたアップグレード(アビオニクスは最新に、構造的な強化・長寿命化など)
- 将来を含めたサポート
になると考えています。
見方を変えれば、
- 機体の基本設計を大きく変更することなく、将来のアップグレードは機体の中身を新たなブロック化に更新することで対応できる。
ということになります。
つまり、初代F-16ファイティング・ファルコン(F-16シリーズ)の基本設計が、
- マルチロール機として対応できる機体設計
- アップグレードは、内部システムを更新できるシステム設計
となっているといえますので、これが設計思想といわれるものなのではないかと考えています。
優れた設計思想とは、モノにより違い、時の流れによる陳腐化を受けにくい設計の考え方のようなイメージです。
参考:なんでこうなったのかF-2支援戦闘機
F-16ファイティング・ファルコンをベースに開発されたのがF-2支援戦闘機です。
一見するとF-16ファイティング・ファルコンと同じ機体形状に見えますが、F-16とは似て非なる機体となっています。
事情は分かりませんが、いろいろとあって生まれた機体のようです。
下図は、航空自衛隊のF-2支援戦闘機の写真です。
- 2024年現在、F-2支援戦闘機の後継は、F-35AライトニングIIと考えています。
図3 F-2支援戦闘機
出典:MISAWA AIR BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
F-2支援戦闘機の詳細は、以下の記事をご参照ください。
まとめ
ヒットした新製品や設計開発の成功理由の話には、「設計思想が重要です」とか、「設計思想がしっかりしている」などといわれます。
そもそも設計思想とはどの様なものなのでしょうか?
「設計思想は重要なものらしい」ということは何となくわかりますが、しかし、「設計思想について教えてください」といわれると、正直なところ困ってしまいます。
設計思想とはどのようなものか考えるヒントになると思い、戦闘機のベストセラーともいわれるF-16ファイティング・ファルコンを例に、設計思想について以下の項目で説明しました。
- 設計思想が優れていれば成功するようです
- 戦闘機のベストセラーF-16ファイティング・ファルコン
- 戦闘機界のベストセラーF-16ファイティング・ファルコン
- フライ・バイ・ワイヤ・システムのメリット
- 最新のF-16ファイティング・ファルコン ブロック70/72
- F-16ファイティング・ファルコンとフライ・バイ・ワイヤ・システム
- 参考:F-16ファイティング・ファルコンの諸元
- F-16ファイティング・ファルコンの設計思想とは
- 参考:なんでこうなったのかF-2支援戦闘機