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金属材料の基礎:鋼の機械的性質(応力ひずみ線図)と金属組織(転移)

はじめての金属材料

鉄鋼の機械的な強さを調べる試験に引張試験があります。

ここでは、軟鋼の引張試験を例に、鋼材を引っ張るとどのような変形をするのか、金属組織と関連付けて説明します。

ここでは、鋼材に力を加える(引張試験をする)ことで、金属に起きる変形と内部組織との関係をイメージすることを目的としています。

なお、応力やひずみの詳細については、以下をご参照ください。

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金属材料の試験の1つ引張試験について

鋼の材料特性を調べる方法には様々な材料試験があります。ここでは、引張試験と鋼の性質について、軟鋼を例に説明します

引張試験の目的は、引張力に対する次のような特性(性質)を把握することです。

  • 降伏点
  • 引張耐力
  • 応力とひずみの関係
  • 伸びやひずみ
  • 破断や降伏の状態

引張試験は、試験片(JISに定められています。素材から平板か円柱の形に切り出します。)を1方向に引っ張ります。

参考:軟鋼とは

軟鋼について以下に列挙します。

  • 鉄骨、鉄筋、ボルト・ナット、針金、釘(くぎ)などに使われている。
  • 炭素鋼を硬さによって軟鋼、硬鋼などと分類した場合、炭素をおよそ0.18~0.30(質量%)含む。

参考:引張試験に関するJIS規格

  • JISZ2241:2022(ISO6892-1:2019) 金属材料引張試験方法(Metallic materials — Tensile testing – Method of test at room temperature)
    • 試験片についても定められています。
    • 「JISZ2241:2022/AMENDMENT 1:2023 金属材料引張試験方法(追補1)」が出ています。
  • ISO 6892-1:2019 金属材料-引張試験-第1部:室温における試験の方法(Metallic materials – Tensile testing – Part 1: Method of test at room temperature)

引張試験の概要

引張試験は、試験片に引張力を与え、破断に至るまでのひずみを加えることで、材料の機械的性質を明らかにします。

下図は、引張試験と応力を加えた際の試験片の状態のイメージ図です。

応力を加えることで、試験片は伸びていきやがて破断に至ります。

引張試験のイメージ

引張試験のイメージ

図1 引張試験のイメージ

ここで、下図の応力ひずみ線図(軟鋼のイメージ図です)を使い、引張試験に関する用語について説明します。

軟鋼の応力ひずみ線図のイメージ

軟鋼の応力ひずみ線図のイメージ

図2 軟鋼の応力ひずみ線図のイメージ

ただし、

  • 弾性率(%):
    • 弾性変形時の応力とひずみの関係
  • 絞り(%):
    • 試験中に発生した断面積の最大変化量
    • 破断後の断面積を原断面積に対して百分率で表した値
  • 応力(N/mm2):
    • 試験片に負荷された力を断面積で割った値
    • 応力(σ)=荷重(P)/断面積(A)
  • 引張強さ(N/mm2):
    • 試験中に加わった最大の力に対応する応力(図2のC点)
  • 降伏応力(N/mm2):
    • 金属材料が降伏現象を示すときの応力
  • 上降伏点(N/mm2):
    • 最初に力の減少が観測される瞬間の応力(図2のA点)
    • 降伏点が高いということは、塑性変形しにくいということ
  • 下降伏点(N/mm2):
    • 過渡的影響を無視した塑性降伏する間の応力の最小値(図2のB点)
    • 降伏点が低いと、塑性加工はしやすくなる。
  • 破断伸び(%):
    • 破断後の永久伸びを原評点距離に対して百分率で表した値
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引張試験と金属組織との関係

図2(再掲)を使い、引張試験により金属組織がどの様な影響を受けているのか説明します。

軟鋼の応力ひずみ線図のイメージ

軟鋼の応力ひずみ線図のイメージ

図2(再掲) 軟鋼の応力ひずみ線図のイメージ

原点0~Aの範囲:弾性域

原点0からAまでは、一般的に弾性域と呼ばれます。

この線の傾きが鋼の変形のし難さを表す特性であり、剛性(抵抗特性)を意味しています。最も基本的な剛性がこの傾きであり、ヤング率と呼ばれます。

鋼のような材料を、一般に強いと言うことがありますが、強さは強度とは違う概念なので注意が必要です。また、硬い(硬さ)とも厳密には異なります。

なお、金属材料の設計範囲(許容応力範囲)は、下図の水色の斜線部分の様に弾性域の全てではなく安全率を考慮した範囲とします。

軟鋼の応力ひずみ線図と設計範囲

軟鋼の応力ひずみ線図と設計範囲

図3 軟鋼の応力ひずみ線図と設計範囲

A~Bの範囲:降伏、塑性域

A点及びA~Bの範囲での金属組織について説明します。

ここで、仮に原子が整然と並んでいる場合、原子間の引き合う力(抵抗力)は非常に大きく、破断するための応力は非常に大きいと考えられます。しかし、実際に引張試験を行うと、図2のAで急に応力が大きくならずに試験片が伸びていきます。つまり、抵抗が小さくなる現象を確認することができます。

A付近の現象を降伏、Aの応力レベルを降伏応力といいます。

ここで、金属組織(金属の原子レベルの内部構造)から降伏について説明します。

引張試験による試験片と金属組織のイメージを、下図に示します。

試験片と金属組織のイメージ

試験片と金属組織のイメージ

図4 試験片と金属組織のイメージ

上図では、金属組織が格子状に整然と並んでいますが、実際の金属では下図のような転位と呼ばれる格子欠陥が無数に含まれています。

金属組織におけるせんだん力と転移のイメージ

金属組織におけるせんだん力と転移のイメージ

図5 金属組織におけるせんだん力と転移のイメージ

格子欠陥は、それほど大きくない力(せん断力)で移動し、逆向きに力をかけると逆向きに移動します。これを転移といいます。

しかし、転位が単結晶の粒界や材料の表面に達すると、その部分の新しい表面となるため転移できなくなります。

  • 新しい表面が生じたということは、そこで表面からエネルギーが熱として放出されたと考えられます。
  • エネルギーを失うと、力を抜いたり逆向きに与えたくらいでは、飛び出した結晶面は決して内側には戻らなくなります(塑性変形)。

A~Bの範囲で荷重を取り除いた場合:塑性変形

図2のAからBまでの間では、上述の転位が表面や金属組織内で発生します。

このため、例えばA~Bに至る途中で荷重をかけるのを止めて荷重を取り除くと、伸びた金属片はAの方向に伸びが戻ることなく、ひずみが残ります。

つまり、全荷重を取り除いても変形が残り、この変形は時間が経っても変化しません。

塑性変形とは、このような時間変化の無い非可逆の変形です。

B~:硬化

図2においてBを過ぎると再び抵抗が大きくなります。

これは、金属組織内に転位が蓄積して動けなくなり、結果的に硬くなることを示していると考えられます。

はかせ
はかせ

硬さや硬さ試験については、別途説明したいと思います。

C~破断:強度

さらに荷重を増やしていくと、図2の最高荷重(C点)に達し、その後軟化して破断します。

このCでの最大応力レベルを引張強度といいます。

なお、図だけを見ると、あるピーク後に材料そのものが軟化して破断するようにも考えられますが、実際には、Cに達する少し前の段階で、試験片の実際の断面積は小さくなり始めています。

引張試験を実際に見ていると、最高荷重を示し破断に近づくと、試験片が急激に伸びて細くなり破断します。試験片の破断面は、ざらついた凸凹となっています。

はかせ
はかせ

金属材料を使う設計者は、よく使う材料の引張試験は、体験(もしくはじっくり観察)しておくと、設計やCAEでの解析結果の評価の際に役立つと考えています。

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まとめ

鉄鋼の機械的な強さを調べる試験に引張試験があります。

ここでは、軟鋼の引張試験を例に、鋼材を引っ張るとどのような変形をするのか、金属組織と関連付けて説明します。

ここでは、鋼材に力を加える(引張試験をする)ことで、金属に起きる変形と内部組織との関係をイメージすることを目的として、以下の項目で説明しました。

  • 金属材料の試験の1つ引張試験について
    • 参考:軟鋼とは
    • 参考:引張試験に関するJIS規格
  • 引張試験の概要
  • 引張試験と金属組織との関係
    • 原点0~Aの範囲:弾性域
    • A~Bの範囲:降伏、塑性域
    • A~Bの範囲で荷重を取り除いた場合:塑性変形
    • B~:硬化
    • C~破断:強度
はかせ

サイト管理人で記事も書いているモノづくり会社の品証の人。
振動制御で工学博士なれど、いろいろ経験して半世紀。
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