ここでは、振動現象の解析(固有値解析)の流れのうち、振動解析を効果的に行うための注意点とそのノウハウについて説明します。
FreeCADによるFEM(有限要素法)の固有値解析と基本的な知識については、以下のページをご参照ください。
振動解析を効果的に行うための注意点とそのノウハウ
シミュレーションのメリットには、
- 計測できない部分のデータを知ることができる。
- 実際にできない条件での試験、見えない現象を見えるようにする。
- 設計変更とシミュレーションを試作を作らずにできる。
- 可視化(3D表示やアニメーション)により、解析結果を分かりやすく表現できる。
などがあります。
実験・計測同様、シミュレーションのメリットを活かすためにもノウハウがあります。
ここでは、CAEによる解析を効果的に行うための基本的なポイントについて説明します。
CAEを効果的に使うためのポイント
解析モデルの詳細度
例えば、3D CADによる形状モデルを作成する場合において、対象物全体の振動モードの形状を確認したい場合には、対象物の細部を思い切って省くなどして形状モデルを簡素化すると、解析モデルのサイズが小さくなり、計算時間の短縮や解析結果の表示(3D描画)が軽くなるため、見たい部分の現象を確認しやすくなります。
例えば、自動車の車体全体の振動モード形を知りたい場合にはドアミラーを省くといったイメージです。
一方で、次のようなケースもありますので、解析モデルを簡素化する際は注意が必要です。
- 走行時の空気抵抗や風切り音を調べたい際にドアミラーを省くことは避ける。
- 曲げ部品などのR部は、応力の解析結果に大きく影響する。
単位系の確認
振動解析(固有値解析)は、FEM(有限要素法)の動解析の1つです。
解析対象の材料の重さを設定しますが、重量密度で入力するのか質量密度で入力するのか、密度や単位系が間違っていないかを確認します。
解析前には、単位系や数値の桁数が間違っていないか確認するために、簡単な形状のモデルで事前に確認することもあります。
境界条件(拘束条件)
解析対象がどのような状態(条件)で固定(拘束)されているか設定します。
CAEでは、6自由度(X、Y、Zの併進で3自由度と各軸周りの回転で3自由度)あります。いわゆる座標軸です。
固有値解析で、境界条件をフリーとした場合には、6個の剛体モードも解析結果に含まれています。低い周波数、つまり1次から6次までの6個です。
拘束条件により解析結果は異なってくることにも注意が必要です。
実際の拘束条件を再現することは、難しいことが多いと思います。境界条件の例を列挙します。
- 厳密には完全固定というのはほとんどなく、ある程度のばね支持になっていることが多い。
- 床に置かれている対象物の場合、完全固定よりもピン支持やすべり面支持の方がより妥当な場合がある。
- 拘束条件を与えず、完全フリー状態で解析した方が実際と合う場合もあります。例えば、バットの固有値解析では、バットのグリップエンドを糸で吊っていますが、境界条件をフリーとして固有値解析をしても実験とよく合います。
荷重条件
実験では難しい荷重の設定が自由にできるのもシミュレーションのメリットの1つです。
荷重に加える外力場合に、解析対象物にとって外力が、
- 強制変位なのか力なのか
- 周期的なのか衝撃的なのか
- 変位量か速度か加速度か
を明確にする必要があります。
また、設定した荷重の種類と値は必ず確認します。
減衰条件
減衰は、実験や計測も難しく、それだけで1つの学問とも呼ばれるほど奥の深い分野になります。
減衰の有無は解析結果に対し大きな影響を与えますが、減衰の値そのものにはこだわり過ぎない方が賢明だと思います。正確な減衰値を予め入力することは、今でも難しいことだからです。
しかし、おおよその減衰値はこれまでの知識や経験により分かっていることが多いのではないでしょうか。
減衰値は物により様々で一概には言えませんが、ブッシュなどの緩衝材などを特に使っていない組立部品で、数%(0.01~0.1)です。
形状モデルから解析モデル作成(要素分割、メッシング)
3D CADで作成した形状モデルを、FEMの要素に分割(メッシュ切り、メッシュ分割)します。
FEMの要素もいろいろありますが、ソリッドモデルでは基本的なテトラ要素を使っています。
昨今のCAEツールは、オートメッシュが優秀なので、メッシュを切った後のモデル修正もほとんどない、簡単にできるようになっているそうです。
モード形状を正確に表現するためには、メッシュを細かくします。
基本的には静解析と同じように、メッシュ分割を変えても大きく解が影響受けなくなるまで、細かくしていきます。
高い周波数の振動モード形状まで考慮する場合には、モード形状も複雑になるためより細かいメッシュが必要になります。
振動モード解析手法の紹介
固有値解析
私は動解析という表現には違和感があるのですが、固有値解析はFEM(有限要素法)では動解析に分類されています。
バットの固有値解析は、実験データとも合いやすい例ですが、実験データで得られる振動モードの個数や、実験で得ることが難しい振動モード形状もシミュレーションでは簡単に得られることにも注意が必要です。
境界条件(拘束条件)の他、外力や自重なども考慮しなければならない場合もあります。何をどこまで考慮するかは、解析目的に合わせ決めていきます。
モーダル周波数応答解析
FFTアナライザで計測する周波数応答関数(伝達関数)を求めることができる解析です。
何次までのモードを対象とするかを決める場合、少なくとも加振周波数は考慮する必要があります。例えば、1~100Hzの加振源があったとすると、少なくとも100Hz以上(望ましいのは倍の200Hz程度)のモードを考慮します。
高い周波数のモードは、ばらつきが大きく基本振動との関係性は薄いため、やたらと高次まで含めればいいというものではありません。
周波数刻みは共振ピーク付近では細かくする必要がありますが、最初から細かくするのではなく、一度解析した結果を見て一番ピークの大きい周波数範囲のみを細かい周波数刻みで再度シミュレーションする方が効率的です。
解析結果の考察と実験との比較
実験モード解析と固有値解析の結果を比較した時に、モード形状自体が異なる場合は、拘束条件やモデル化の範囲などを確認します。
高次モードが異なる場合は、解析制度を上げるためメッシュ分割を細かくして再度解析して確認します。
固有振動数が異なる場合は、材料の物性値、荷重の有無等を確認します。
モード形状の相関が取れれば、基本特性はシミュレーションできていると考えられます。
荷重の振動数が低くなると、静的な挙動に近づくため、静解析の結果を参考のために確認することも有効です。
その他(コンピュータ資源、その他)
振動解析では、PCの計算時間やメモリー、ストレージ(ハードディスク)などを多く使用します。
使用するPCで解析した場合のモデルの大きさと計算時間を把握しておくと、次の様なメリットがあります。
- 急いで解析しなければならない場合などには助かる。
- 解析条件の設定ミスなどにも気づきやすくなる。
振動解析に限りませんが、シミュレーションをする場合には、必ず解析目的をはっきりさせ、精度と計算時間のバランスを取ることがポイントになります。
解析モデルのサイズが目的に対し大き過ぎたり、高過ぎる周波数まで解析すると、
- 計算時間が長くなるだけでなくデータ量が膨大となる。
- 解析結果から必要なデータを抽出するのに時間がかかる。
結局解析が間に合わなくなり、
- モデルを作り直す。
- 解析条件を再設定する。
つまり、
- 解析をやり直す。
こともあります。
この様に、解析目的に応じたモデルを作成することと、現象を理解するための実験的知見を積み重ねておくこともポイントになります。
まとめ
ここでは、振動現象の解析(固有値解析)の流れのうち、振動解析を効果的に行うための注意点とそのノウハウについて、以下の項目について説明しました。
- CAEを効果的に使うためのポイント
- 解析モデルの詳細度
- 単位系の確認
- 境界条件(拘束条件)
- 荷重条件
- 減衰条件
- 形状モデルから解析モデル作成(要素分割、メッシング)
- 振動モード解析手法の紹介
- 固有値解析
- モーダル周波数応答解析
- 解析結果の考察と実験との比較
- その他(コンピュータ資源、その他)