航空機が音速を超えると発生する衝撃波とはなんだろうと疑問をもち調べはじめると、
- 航空機が音速を超えると衝撃波が発生する。
- 衝撃波が地上に与える影響がソニックブームとよばれる。
ことまでは分かりましたが、その先に進もうとするとなかなか難しいです。
難しさもありますが、シミュレーションと試験(実機テスト)が密接に関連しているのが航空機ならではの面白さもあると思います。
航空機が音速を超えると発生する衝撃波、現象としては空気の流れや圧縮が関わってきます。
衝撃波を可視化するには、シュリーレン現象を利用した写真や映像がありますが、実験装置というよりは研究施設で取り扱う大掛かりな設備です。
ここでは、航空機の衝撃波について私が理解できたと思う内容について、以下の項目で説明しました。
航空機の衝撃波とは
衝撃波の例に、音速を超えて飛行する航空機による衝撃波があります。
衝撃波について調べてみると、衝撃波が発生する理論的な説明や実際の衝撃波をどの様に確認するかなど、難しいだけでなく幅も広く、ちょっと勉強すれば分かるというものではなさそうです。
流体力学だけでなく、空気中の現象なので圧縮性流体力学にも関連するので、専門書を開いてみると数式が山のように出てきます。
知りたいのは、理論的な裏付けではなくてどの様な現象なのかなのですが、「振動とは何ですか?」と聞かれるのと同じ様に難しいイメージを持っています。
それでも、興味のあるうちにと思い、調べたことや分かったことについて説明します。
音の速度について
音速を超える(マッハ1を超える)と衝撃波が発生します。
衝撃波は、航空機の速度がマッハ1を超える前にも発生します。これは、機体の速度がマッハ1に近づくにつれ、翼の表面の一部では機体速度よりも空気流の速度が速くなる部分が発生するためです。
航空機の速度域とマッハ数との関係を以下に示します。
- 極超音速:マッハ5以上
- 超音速:マッハ1.2~5
- 遷音速:マッハ0.75~1.25
- 亜音速:マッハ0.75
音の伝わる速度についての詳細は、以下の記事をご参照ください。
衝撃波とソニックブームのイメージ
航空機による衝撃波とソニックブームは、同じ様な意味合いで使われている場合もあるようですが、違う現象です。
衝撃波とは、
- 航空機(の周りの空気の速度)が音速になると発生します。
- 連続的にというよりは、次々と発生するというイメージです。
- 衝撃波を境に、温度、空気の圧力(密度)、空気の速度が急激に変わります。
- 圧縮性の気体(空気)と流れが関連する圧縮性流体による非線形現象です。
ソニックブームとは、
- 衝撃波により発生した大きな圧力(音)が、空気を伝わって地上に影響を与える現象です。
- 航空機を頂点として発生した衝撃波は、円錐状に広がり地上まで達すると様々な影響を与えます。
航空機による衝撃波のイメージを図を使って説明します。
航空機の音速がマッハ1になるまでは、高速飛行する航空機により発生する音は、下図の様に波紋のように広がっていきます。
- 波紋とは、波の内水面に物を落とすと、落ちた場所から波が広がっていく様子です。
- 下図は、航空機が矢印方向に進んでいるので、前方の空気が圧縮されているイメージを示しています。
- 航空機の速度がマッハ1に近づいていくと、下図左側の波紋の間隔が狭くなります。これは、航空機の前方の空気が圧縮されていくことでもあります。
図1-1 衝撃波の発生イメージ:マッハ1未満では
航空機の音速がマッハ1になると、航空機と音の速さが一致します。
- 下図の様にマッハ1で飛行する航空機の先端と波紋の開始点(下図左側)が一致すると、衝撃波が発生します。
図1-2 衝撃波の発生イメージ:マッハ1になると
さらに、航空機の速度が上がり、マッハ1を超えると、音速よりも航空機の方が速くなります。
- 下図の赤線は、衝撃波です。図なので平面的ですが、円錐状に広がっていくのでマッハコーンともいわれます。
- 衝撃波は、空気中を伝わりながら減衰(小さく)なっていきますが、何らかの理由で衝撃波が十分に減衰しない場合には、地上の建物の窓ガラスを割るような場合もあるようです。
図1-3 衝撃波の発生イメージ:マッハ1を超えると
マッハ1を超えて飛行する旅客機としてコンコルドが実用化されましたが、ソニックブームのため、超音速飛行は海の上だけだったそうです。
また、マッハ2を超える軍用機もありますが、超音速飛行が可能なエリアは限定されています。
衝撃波とソニックブームは、超音速飛行では避けることができませんので、次世代の超音速旅客機などでは、その影響を小さくしたりソニックブームを発生させないような研究が行われています。
航空機の主翼に発生する衝撃波
航空機が音速に達するとと衝撃波が発生し、機体に大きな抵抗力が発生すると共に、空気圧(密度)が高くなります。
航空機が音速に近づくと、機体は亜音速でも主翼の一部などでは音速を超えます。つまり、亜音速で飛行していても、衝撃波は発生しているということです。
ここでは、主翼に発生する衝撃波について、FAA(米国)の「パイロットハンドブック」を参考にして説明します。
「パイロットハンドブック」は、この記事の説明よりもさらに詳しいので、私が分かる範囲でまとめています。
FAA(米国)のパイロットハンドブックについては、以下の記事をご参照ください。
高速で飛行する航空機が速度を上げていくと、機体前方の空気は圧縮されていき、やがて、主翼上に衝撃波が発生します。
下図は、マッハ0.82において主翼に発生した衝撃波を示しています。
- 主翼表面の超音速の空気流により、主翼上面と主翼下面に衝撃波が発生しています。青い部分が超音速で空気が流れている部分です。
- 衝撃波は下図の黒い部分であり、衝撃波により音速を超えた領域と音速以下の領域とに分かれています。
超音速の空気の流れ(超音速流)が衝撃波を通過すると、
- 超音速から亜音速に減速する。
- 衝撃波のすぐ後ろの空気流の方向は変わらない。(主翼に沿って流れる)
- 衝撃波を通過することで、気流の圧力と密度が大幅に増加し、気流のエネルギーが大幅に減少することになります。
図2-1 主翼に発生する衝撃波:マッハ0.82
出典:国土交通省のWebサイト「諸外国等の安全情報サイト」の「(日本語訳) 第8章 飛行計器」の「図5-67. 衝撃波」の図を加工しています。
下図は、さらに速度を上げたマッハ0.95において主翼に発生した衝撃波を示しています。
- 音速に近づくと、超音速流の範囲が広がり、主翼後方に移動します。
図2-2 主翼に発生する衝撃波:マッハ0.95
出典:国土交通省のWebサイト「諸外国等の安全情報サイト」の「(日本語訳) 第8章 飛行計器」の「図5-67. 衝撃波」の図を加工しています。
下図は、さらに速度を上げたマッハ1.05における主翼に発生した衝撃波を示しています。
- 超音速流が音速を超えたことで、主翼前方の空気の圧力と密度が増加し、主翼前方の圧縮された範囲が前方に広がります。
- 気体は、音よりも速く飛行している状態です。
図2-3 主翼に発生する衝撃波:マッハ1.05
出典:国土交通省のWebサイト「諸外国等の安全情報サイト」の「(日本語訳) 第8章 飛行計器」の「図5-67. 衝撃波」の図を加工しています。
以上が、音速マッハ1を超えて衝撃波が発生するしくみです。
- 衝撃波を境に状態が急変する、非線形現象です。
さらに速度を上げていくと、おおよそ次のようなマッハ数で現象が変わっていくようです。
- マッハ1.4程度を超える
- マッハ2を超える
- マッハ5を超える
軍用機の場合、地上の停止状態から高高度のマッハ2超までを飛行することになるわけで、設計・開発、製造、メンテナンスを含む運用など、すべてを100%実施しないと性能発揮できないということでもあります。
衝撃波の可視化例
衝撃波についての説明は、技術的に十分理解できなかったので、航空機の衝撃波の写真を紹介します。
衝撃波の写真は、シュリーレン(Schlieren)現象を利用して可視化されます。
下図は、訓練機T-38Cタロンが、マッハ1.05で飛行する際の衝撃波を可視化したNASAの写真です。
- 撮影前の準備、実際の撮影、撮影後のデータ処理等、なかなか大変そうです。
T-38Cタロンについては、以下の記事をご参照ください。
図3 NASAによる衝撃波の写真
出典:NASAの「Shockwaves produced by a U.S. Air Force Test Pilot School T-38C」からの画像
まとめ
航空機が音速を超えると発生する衝撃波とはなんだろうと疑問をもち調べはじめると、
- 航空機が音速を超えると衝撃波が発生する。
- 衝撃波が地上に与える影響がソニックブームとよばれる。
ことまでは分かりましたが、その先に進もうとするとなかなか難しいです。
ここでは、航空機の衝撃波について私が理解できたと思う内容について、以下の項目で説明しました。
- 航空機の衝撃波とは
- 音の速度について
- 衝撃波とソニックブームのイメージ
- 航空機の主翼に発生する衝撃波
- 衝撃波の可視化例