第1話:ATF(先進戦術戦闘機)プログラムから生まれたF-22

1981年、F-22ラプターの始まりとなる、ATF(Advanced Tactical Fighter)プログラムが正式に始まりました。

F-22の開発プロジェクトは、技術的な面だけでなく米国の戦闘機開発プロジェクトの進め方についても参考になります。また、1つの開発物語として読んでも面白いと感じました。

この記事は、主に以下の記事をDeepLで翻訳したものを意訳しています。私の理解した内容となっていますので正確なところは原文をご確認ください。

出典:Lockheed Martin社のCODE ONE ARCHIVEの「Design Evolution Of The F-22 Raptor」より

まずは、ATF(先進戦術戦闘機)プログラムの始まりから。

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ATF(Advanced Tactical Fighter)プログラムの正式な始まり

F-22の始まりは、1981年のATF(Advanced Tactical Fighter:先進戦術戦闘機)プログラムにさかのぼります。

1981年:米国空軍航空システム部(ASD:USAF Aeronautical Systems Division)が先進的な戦術的戦闘機のコンセプトに関する情報要求を出しました。

もっとも、ATF(Advanced Tactical Fighter)という言葉そのものものは、さらに約10年前の1972年、ASDがコントラクターに発行した一般運用要求書に登場していました。

この要求書は、新型の空対地戦闘機F-15を補完する新しい空対地戦闘機に関するものであり、老朽化したF-4やF-111の後継機となるものでした。

ちなみに、F-15の米国空軍への初号機納入は1974年、日本への初号機納入が1981年です。そして、2021年現在、F-15EXが米国空軍に納入されています。

飛行中のF-15EXイーグルII:AF’s first F-15EX arrives at Eglin

Lt. Col. Richard Turner, 40th Flight Test Squadron commander, and Lt. Col. Jacob Lindaman, 85th Test and Evaluation Squadron commander, deliver the first F-15EX to its new home, Eglin Air Force Base, Florida, 11 March, 2021. The 40th FLTS took possession of EX1 and the 85th TES will own EX2 upon its arrival. Squadron aircrews and testers will work together to complete the combined developmental and operational testing simultaneously. (U.S. Air Force photo by Tech. Sgt. John McRell)

図1 飛行中のF-15EXイーグルII:AF’s first F-15EX arrives at Eglin

出典:EGLIN空軍基地(米国空軍)のWebサイト<HOME > NEWS > PHOTOS>からの画像

F-4ファントム:F-4 Phantom II

Holloman AFB F-4 Phantom II

図2 F-4ファントム:F-4 Phantom II

出典:HOLLOMAN AIR FORCE BASEHOLLOMAN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイトHOME>ABOUT>FACT SHEETS>DISPLAYからの画像

F-111:General Dynamics F-111F Aardvark

General Dynamics F-111F Aardvark Published July 28, 2015 DAYTON, Ohio — General Dynamics F-111F at the National Museum of the United States Air Force. (U.S. Air Force photo)

図3 F-111:General Dynamics F-111F Aardvark

出典:NATIONAL MUSEUM OF THE UNITED STATES AIT FORCE(TM)(米国空軍)のWebサイトHOME>VISIT>MUSEUM EXHIBITS>FACT SHEETS>DISPLAYからの画像

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ATFのコンセプト検討開始するもF-16登場で中断となる

ATFのコンセプト検討は、ASDからゼネラル・ダイナミクス社とマクドネル・ダグラス社に発注されました。

マッハ2.5で高中高度を飛行し、戦車などの地上目標を破壊するスタンドオフ兵器を搭載できる空対地戦闘機を要求していましたが、この機体は実現しませんでした。

空対空戦闘機として設計されたF-16ファイティング・ファルコンが、空対地戦闘機の役割を果たすことになり、ASDが新たな戦闘機プログラムに着手するまでに、約10年待つことになります。

F-16:Tankers fuel Sentry Savannah

An F-16 Fighting Falcon departs after being refueled by a KC-135 Stratotanker during Sentry Savannah 16-3, Aug. 3, 2016. The F-16 is highly maneuverable and has proven itself in air-to-air combat and air-to-surface attack. (U.S. Air Force photo/Senior Airman Solomon Cook)

図4 F-16:Tankers fuel Sentry Savannah

出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<HOME > NEWS > PHOTOS>からの画像

その後、新型戦闘機の研究はASDから米国空軍飛行力学研究所(USAF Flight Dynamics Lab)に移り、飛行力学研究所(Flight Dynamics Lab)では、1970年代に先進的な戦術戦闘機の研究開発を行いました。

1975年:空対地先進技術研究

1975年にゼネラル・ダイナミクス社とマクドネル・ダグラス社が「Advanced Technology Ground Attack Fighter(空対地先進技術研究)」と題した研究を始めています。その後、6社がこの研究に参加しました。

1980年:空対地戦闘機と空対空戦闘機研究

1980年には、次の2つの研究がすすめられました。

  • 空対地戦闘機の研究
    • 「Tactical Fighter Technology Alternatives(戦術的戦闘機技術代替案)」
    • ボーイング社とグラマン社
  • 空対空戦闘機の研究
    • 「1995 Fighter Technology Study (1995年戦闘機技術研究)」
    • ゼネラル・ダイナミクス社とマクドネル・ダグラス社

ロッキード社によるスーパーステルスの研究

またこの頃、ロッキード社は、アメリカ海軍向けの「スーパーステルス空対地攻撃機」の最初の研究に参加していました。

なお、スーパーステルス設計(superstealth design)とは、航空機のステルス性を大幅に向上させることを意味しています。

これは、海軍の高等戦術機プログラムへの提案や、アメリカ空軍の空対地仕様のスーパーステルス設計にもつながりました。

当初、いくつかのアイデアはありましたが、実証されたものはなく、どうやってスーパーステルスを実現するのか分かりませんでした。

これらの初期の研究における運用研究により、スーパーステルスがいかに強力であるかが明らかとなりました。しかし、ロッキード社はF-117プログラムに持てる資源を集中させていたため、スーパーステルスの研究は休眠状態となりました。

F-117:Bombs over Baghdad

An F-117 Nighthawk flies over the Nevada desert. The unique design of the single-seat F-117 provides exceptional combat capabilities. The fighter can employ a variety of weapons and is equipped with sophisticated navigation and attack systems integrated into a digital avionics suite that increases mission effectiveness and reduces pilot workload. (U.S. Air Force photo/Staff Sgt. Aaron D. Allmon II)

図5 F-117:Bombs over Baghdad

出典:HOLLOMAN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像

ボーイング社の様々な空対地戦闘期の研究

ボーイング社は1970年代、さまざまな空対地戦闘機を研究していました。

ボーイング社では、比較的小型の単発機から大型の双発機まで、さまざまな機体を研究しており、超音速から亜音速まで多岐にわたっていました。

例えば、次のようなものがあります。

  • 従来の低空飛行ができない飛行機
  • 本当に低空飛行ができる飛行機
  • B-2爆撃機のような全翼機(flying wings)
B-2 Spirit

FILE PHOTO — The B-2 Spirit is a multi-role bomber capable of delivering both conventional and nuclear munitions. A dramatic leap forward in technology, the bomber represents a major milestone in the U.S. bomber modernization program. The B-2 brings massive firepower to bear, in a short time, anywhere on the globe through previously impenetrable defenses. (U.S. Air Force photo by Bobbie Garcia)

図6 B-2 Spirit

出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<HOME > NEWS > PHOTOS>からの画像

ゼネラル・ダイナミクス社の先進的なコンセプトと派生機の検討

ゼネラル・ダイナミクス社は、先進的な戦闘機のコンセプトや既存の戦闘機の改造などを幅広く検討しました。

F-16、F-15、F-111の先進的な派生機が、同じミッションで新しいコンセプトと競い合うことになります。

その中には、次のような機体がありました。

  • 「Plain Jane」と呼ばれる通常の航空機
  • 超音速のステルス
  • 「Bushwhacker」と呼ばれる安価な小型戦闘機
  • 長距離空対空ミサイルを多数搭載できる「Missileer」と呼ばれる大型戦闘機
  • 「Sneaky Pete」と呼ばれる高度なステルス性を持つ全翼戦闘機

これらは最終的に海軍のA-12アベンジャーIIにつながりましたが短命でした。

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次世代戦闘機の設計コンセプトと実現技術の特定

これらの研究の基本的な動機(motivation)は、次世代戦闘機の潜在的な任務や役割に対して、最も有望な設計コンセプトと実現技術を特定することでした。

当時の時代背景

当時のソ連での新世代戦闘機の開発は、米国でのこうした取り組みを強化するものでした。

・1970年代初頭、ソ連はMiG-29とSu-27の開発に取り組んでいました。

・MiG-29の試作機は1977年10月に初飛行

・Su-27の試作機(より最終設計に近い2号機)は1981年4月に初飛行

また、地対空、空対空ミサイルの技術も急速に進歩させていました。

MiG-29 Fulcrum

A MiG-29 Fulcrum takes off from Starokostiantyniv Air Base, Ukraine, Oct. 9 as part of the Clear Sky 2018 exercise. The exercise promotes regional stability and security, while strengthening partner capabilities and fostering trust. (U.S. Air National Guard photo by Tech. Sgt. Charles Vaughn)

図7 MiG-29 Fulcrum

出典:144TH FIGHTER WING(米国空軍)のWebサイト<HOME > NEWS > PHOTOS>からの画像

Sukhoi Su-27

A Sukhoi Su-27 flies over the flightline during the opening ceremony of exercise Clear Sky 2018 at Starokostiantyniv Air Base, Ukraine, Oct. 8. The exercise promotes regional stability and security, while strengthening partner capabilities and fostering trust. (U.S. Air National Guard photo by Tech. Sgt. Charles Vaughn)

図8 Sukhoi Su-27

出典:144TH FIGHTER WING(米国空軍)のWebサイト<HOME > NEWS > PHOTOS>からの画像

なお、米国製戦闘機とソ連製戦闘機の交換レートの予測は、米国空軍のプランナーにとっても受け入れ難いものであったとの記述もあり、相当な危機感があったのではないかと感じました。

1970年代の研究成果:幅広いコンセプトとコンピュータモデルの充実

1970年代に行われたこれらの研究で、航空宇宙産業は幅広い航空機のコンセプトを開発することになります。

また、これらのコンセプトに基づいて、具体的な設計を迅速に評価するための複雑なコンピュータモデルが各社で開発されました。

はかせ
はかせ

当時、コンピュータモデルやシミュレーション技術が急速に進み、その後、スパコンやワークステーションから、パソコンの高性能化でF-22が実現されたのだと考えています。

ステルス設計であれば、平面主体のF-117とぬるっとしたF-22との機体形状に表れていると考えています。

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ゼネラル・ダイナミクス社の洗練された設計評価プロセス

ゼネラル・ダイナミクス社は、設計を評価するために非常に洗練されたプロセスを持っていました。

このプロセスでは、まずデザインコンセプトを作成し、全体的な配置や空力、構造、アビオニクス、武装、推進技術などを定義します。

その後、合成とサイジングのコンピュータモデルによって、幅広い機動性、速度、航続距離、その他の能力を持つデザインファミリーが作成されました。

さらに、これらの具体的な設計群は、ライフサイクルコストモデルや、地対空および空対空の脅威に対する各設計の影響力を決定する一連の有効性モデルに組み込まれました。

その他のモデルでは、意図したターゲットに対する各戦闘機の致死性を確認しました。

有効性モデルから得られたデータは、戦力構造、任務の割り当て、基地のコンセプト、脅威の分布、戦略、その他、戦域レベルのシナリオを定義する詳細を説明するキャンペーンモデル(戦闘モデル)に使用されました。キャンペーンモデルでは、各コンセプトの設計が全空軍の一要素に過ぎない戦争を戦いました。各デザインは、そのコストに比例した数だけキャンペーンに投入されることになりました。

このプロセスにより、技術者は性能レベルや設計上の特徴が、新しい航空機の軍事的有用性にどのように影響するかを知ることになりました。そして、戦域内の統合空軍の全体的な有効性への貢献度に応じて、技術や設計上の特徴を推奨できるようになりました。

その結果、各設計コンセプトが費用対効果を最大限に発揮するために必要な性能要件も明らかになった。

はかせ
はかせ

設計モデルと評価プロセスが、F-22の戦域での航空支配というコンセプトを実現させた技術ではないかと考えています。

F-22ラプター:戦域での航空支配という新しい戦い方を実現
F-22ラプターは、ロッキード・マーチン社とボーイング社が共同開発した第5世代のステルス戦闘機です。F-35と比べるとカタログ・スペックでは表せない、使用技術やステルス機としての性能そのものがF-22の方が優れていると考えています。
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まとめ

F-22ラプターの始まりは1981年のATF(Advanced Tactical Fighter)プログラムです。

その後も順調ではなく、F-16の登場、ステルス機のコンセプト、要求の大幅な変更、コンピュータモデルや評価プロセスなどの技術的進歩など、F-22の開発プロジェクトは、開発物語として読んでも面白いと思います。

ここでは、ATF(Advanced Tactical Fighter)プログラムの始まりから、次世代戦闘機の設計コンセプトと実現技術の特定までを以下の項目で説明しました。

  • ATF(Advanced Tactical Fighter)プログラムの正式な始まり
  • ATFのコンセプト検討開始するもF-16登場で中断となる
    • 1975年:Advanced Technology Ground Attack Fighter(空対地先進技術研究)
    • 1980年:空対地戦闘機と空対空戦闘機研究
    • ロッキード社によるスーパーステルスの研究
    • ボーイング社の様々な空対地戦闘期の研究
    • ゼネラル・ダイナミクス社の先進的なコンセプトと派生機の検討
  • 次世代戦闘機の設計コンセプトと実現技術の特定
    • 当時の時代背景
    • 1970年代の研究成果:幅広いコンセプトとコンピュータモデルの充実
  • ゼネラル・ダイナミクス社の洗練された設計評価プロセス
はかせ

振動制御を学んだおかげで、モデリングと制御系設計、実験・計測、CAEと幅広く学び、出会いとチャンスにも恵まれ工学博士になりました。
CAEが珍しくない今だからこそ、実験やリアルなモノづくりの体験がより重要になっていると考えています。

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