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ハンマリング試験:計測対象物の支持方法

ハンマリング試験

ここでは、「振動計測(ハンマリング試験)」に必要な基礎的な知識として、計測対象物の支持方法について説明します。

はかせ
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ハンマリング試験について計測から簡易的な振動モード形の作成までを以下のページにまとめました。(2019.6.24)

バットのハンマリング試験で始めるモード解析入門(体験実習ガイド)
実験の経験が少ない新入社員などへの体験学習を想定し、金属バットを対象に振動の計測と可視化を体験して学ぶ内容をまとめています。ハンマリング試験によりバットの周波数応答をFFTアナライザで計測し、実験データから振動モード形を作成し考察します。

対象物の支持の重要性

振動計測をするためには、対象になる物(部品、機械や構造物などの小さいものから大きなものまで)を何らかの方法で固定する必要があります。

対象物の固定(支持)方法は、計測結果に大きな影響を与えるため、目的に合わせ対象物をきちんと固定(支持)する必要があります。インパルスハンマを使って計測対象を加振する場合、対象物の支持状態により結果が異なることがあるからです。

例えば、バットの伝達関数の計測では、グリップエンド部分を吊るして自由支持とする場合と、グリップエンド部分を固定した場合とでは、得られる振動モード形状が異なってきます。

加振ごとに支持条件が変化してしまうような場合には、計測データの精度や解析結果にも影響を与えてしまいます。

このため、振動計測においては、計測条件(FFTアナライザの設定条件など)だけでなく、どのような状態で加振したのかも含め記録として残しておくことにより、再計測(再実験)や解析の際に役立ちます。

特に計測対象物の固定(支持)方法やハンマリングの方法・様子は写真で残しておくことをおすすめします。

今ならばデジタルカメラを利用するなどして、対象物を含む全体の写真、加振方法、支持部(固定部)の写真などを残しておくことも簡単にできますので、面倒がらずに記録を残すことがポイントです。

最近のデジカメで撮る写真や動画は高解像度ですが、必要以上にデータサイズが大きいと後で使う際にかえって時間がかかりますので、事前に適切な解像度をつかんでおくことをおすすめします。

対象物の固定条件は、自由、固定、弾性支持の3つに分けることができます。以下、それぞれについて説明します。

自由支持

自由支持とは、理想的には空間に浮かんだ状態で対象物が自由に動ける状態のことです。CAE(FEM)では簡単に設定できますが、実験では重力の影響で実現することができません。

しかし、実用的なレベルでは、比較的簡単にCAEなどの境界条件自由の状態を再現することができます。

例えば、対象物を吊ったり、空気バネを使ったり、ウレタンのようなスポンジ状の物の上に載せたりする方法により、自由支持とすることがあり、実際に使われています。

このときの注意点を以下に列挙します。

  • 対象物を支持する物は、できるだけやわらかいものを選ぶこと
  • 対象物に対して付加される質量や減衰の影響をできるだけ小さくすること
  • 計測が安定してできるように対象物を支持すること
  • 吊った場所やウレタン(スポンジ)などとの接触点が、固定のような特性を示す影響があるので、計測データ及び振動モード形状を見る際には、この点を考慮すること

自由支持の例を下図に示します。左側の図がウレタン上に置いた場合、右側の図が、対象物を吊ったイメージ図です。

自由支持の例

自由支持の例

図 自由支持の例

固定支持

CAE(FEM)では、対象物の固定点の自由度をゼロに設定するだけで、固定支持を簡単に実現できますが、実験での実現は難しいため自由支持ほど一般的ではありません。

実計測で固定支持を実現するためには、質量と剛性が非常に大きい(理論的には無限大)物体に、対象物が一体になるよう溶接して取り付ける必要があります。

しかし、この方法は現実的には無理であるため、基礎や定盤のような物体にボルト締めをした状態を固定支持とみなしたりします。

この際の注意点を以下に列挙します。

  • 基礎の一部または全体が、対象物と一緒に振動し付加質量としての挙動を示す場合があること
  • ボルト固定をした場合、見掛け上は剛性が高そうでも、振動的には剛性の不足や接触面の粗さなどの影響による局部的な支持になっている場合があります。
    • 実験モード解析をする(振動モード形を描いてみる)と完全固定になっていないことを確認できます。
  • 接触面では締め付けと直角方向の剛性が低下します。
  • 基礎の弾性振動の影響により、主に高周波で連成振動が発生する場合があります。

このように、固定支持は自由支持よりも実現が困難であるため、振動計測ではできるだけ固定支持を避け、自由支持をする方が望ましいと言えます。

例えば、吊るしの状態を自由支持と近似することはできても、大きい基礎に対象物を設置したから固定支持になるとは限りません。

また、自由支持の結果から固定支持の結果を導くことは、自由支持の振動試験の結果から自由度を減らすことなので実現可能と言えますが、固定支持の結果から自由度を増やすことは現実的にはできないという側面もあります。

弾性支持

弾性支持は、対象物に対しバネなどを介して固定する方法です。

設置方法が難しい(構造的に複雑になる)ため、積極的に弾性支持を再現することは少ないようです。

ただし、実際の対象物が、構造上弾性支持のような固定方法になっている場合があります。

この様な場合の実験モード解析は、バネにより対象物が拘束されるため、自由振動だけでなく強制振動の要素も含まれることに注意が必要となります。

まとめ

ここでは、ハンマリング試験に必要な基礎的な知識として、ハンマリング試験について、計測対象物の支持方法について、以下の内容について説明しました。

  • 対象物の支持の重要性
  • 自由支持
  • 固定支持
  • 弾性支持
はかせ

サイト管理人で記事も書いているモノづくり会社の品証の人。
振動制御で工学博士なれど、いろいろ経験して半世紀。
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