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JAXAの共通技術文書「振動試験ハンドブック」で学ぶ宇宙機の振動試験

JAXAのモノづくり

振動というと難しそうだとか、試験(実験)は大変そうとか、製品開発での試験(実験)はCAEの検証試験だけといったマイナスのイメージもあるようです。

日本の宇宙開発の主役である宇宙航空研究開発機構(JAXA)で公開されている「JAXA共通技術文書」の中に、「振動試験ハンドブック」があります。

現職では振動試験に直接携わることがほとんどありませんが、実際の振動試験について説明するための資料としても分かりやすいですし、個人的は昔の経験を思い出したりして非常に興味深かったので紹介します。

また、「振動試験ハンドブック」ではロケットを対象にした振動試験について書かれていますので、一般的な振動試験について扱った書籍よりは、振動試験のイメージをつかみやすい資料です。

大学の工学系研究室でも実験をやる機会は少なくなっていますが、実験の面白さもありますので、この記事がモノづくりや試験(実験)に興味を持つきっかけになれば幸いです。

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振動試験ハンドブック(JAXA共通技術文書)とは

JAXA安全・信頼性推進部のWebサイトには、JAXA共通技術文書が公開されています。

JAXA共通技術文書の中から、「2.技術要求・ガイドライン文書」の「3.宇宙機」の1つに文書に、「JERG-2-130-HB003 振動試験ハンドブック」があります。

私は振動制御をやっていた頃のことを思い出しながら楽しく読みましたが、振動試験とはどのようなものなのか知るための参考にもなると思います。

「振動試験ハンドブック」の目的

「JERG-2-130-HB003 振動試験ハンドブック(C改訂)」のPDFは、155ページあります。

本文は半分ほどですが、それでもかなりの文書量になります。

ハンドブックながら表現が固いのですが、目的を引用します。

1.1 目的

本ハンドブックは、「宇宙機一般試験標準」(JERG-2-130)における振動試験を実施する際の考え方を解説したものであり、JERG-2-130をテーラリングする際の指針として活用されることを想定している。

本ハンドブックには、振動試験の目的、計画、実施方法、使用する設備、計測技術及び試験結果の評価方法から構成されており、海外の動向を反映し、またJAXA の宇宙機開発プログラムにおいて得られた経験、知見及び研究開発の成果を取り入れている。本ハンドブックに言及されていない知見や技術については、内容を検討の上、今後積極的に反映していくものとする。

出典:JAXA「JERG-2-130-HB003 振動試験ハンドブック(C改訂)」より

テーラーリングとは、品質保証プログラムに関することなので、以下をご参照ください。

「振動試験ハンドブック」の構成

「振動試験ハンドブック」は、以下の構成となっています。

2.振動試験に関連する事項

3.振動試験

4.振動試験結果の評価方法

「振動試験ハンドブック」を読んでみて

「振動試験ハンドブック」を読んで、私が気になった、参考になった、もう少し勉強した方がよいと思ったことについて紹介します。

「2.振動試験に関連する事項」について

打上げ時の振動環境として、ロケットの打ち上げシーケンスと打上げ時の主な振動環境については、以下の区分となっています。

  • リフトオフ:低周波過渡振動、高周波ランダム振動
  • 大気中飛行:低周波過渡振動、高周波ランダム振動
  • 1/2段分離:低周波過渡振動

それぞれの振動環境に構造的に耐えるだけでなく、機能発揮も必要になるなど、一言で振動試験といってもかなりの質と量が必要になることが予想されます。

ロケット打上げ時振動環境

液体ロケット特有の打上げ時振動環境にPOGO振動という自励振動があります。この自励振動は、液体ロケットの推進薬供給系の圧力変動とロケットの機体の縦振動とが関連して発生する振動です。

固体ロケット特有の振動環境は、固体ロケットモータに起因する振動現象のことです。ロケットモータ着火時の過渡的な振動現象や燃焼振動について説明されています。

振動試験の目的と種類

正弦波振動試験、ランダム振動試験、サインバースト試験、及び、モーダールサーベイ試験について試験方法を含め説明されています。

これらの試験では、打上げ時の振動環境に対する耐性、剛性、製造・組立に伴う欠陥の有無などの確認の他、構造数学モデル(CAEモデル)の確認を行います。

打上げ時と地上試験時の振動環境の違い

打上げ時と地上試験時の振動環境では、試験場の制約や自由度と加振の制約などがあることについて説明されています。

「3.振動試験」について

振動試験については、試験シーケンス、加振系と加振制御系、計測系、試験時の異常監視について興味深く読みました。

「4.振動試験結果の評価方法」について

振動試験結果の評価については、計測データの解析手法として、周波数応答解析、パワースペクトル解析、伝達関数解析、関連度関数解析について説明されています。

計測データの不確かさについては、計測データの評価でも考慮すべき理由についても説明されています。

付録について

付録のタイトルを以下に列挙します。本文もそうですが参考文献も明記されていますので、より詳しく知りたい場合に助かります。

  • Appendix A 正弦波振動環境条件の設定に関する一手法
  • Appendix B 掃引速度及び掃引方向と応答の関係
  • Appendix C 最小ワークマンシップレベル
  • Appendix D サインバースト試験
  • Appendix E モーダルサーベイ試験
  • Appendix F 多軸加振と単軸加振の基本的な違い
  • Appendix G 試験条件公差
  • Appendix H 動電型加振機の特徴及び制約
  • Appendix J 振動台上に発生する反共振点及び制御点の数
  • Appendix K 機器質量に応じたランダム振動スペクトラムの統計的予測方法
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まとめ

振動というと難しそうだとか、試験(実験)は大変そうとか、製品開発での試験(実験)はCAEの検証試験だけといったマイナスのイメージもあるようです。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)で公開されている「JAXA共通技術文書」の1つに「振動試験ハンドブック」があります。

実際の振動試験について説明するための資料としても分かりやすいと思います。

また、「振動試験ハンドブック」ではロケットを対象にした振動試験について書かれているため、一般的な振動試験について扱った書籍よりは、振動試験のイメージをつかみやすいのではないでしょうか。

大学の工学系研究室でも実験をやる機会は少なくなっていますが、実験の面白さもありますので、この記事がモノづくりや試験(実験)に興味を持つきっかけになればと思い、「振動試験ハンドブック」について、以下の項目で説明しました。

  • 振動試験ハンドブック(JAXA共通技術文書)とは
    • 「振動試験ハンドブック」の目的
    • 「振動試験ハンドブック」の構成
  • 「振動試験ハンドブック」を読んでみて
    • 「2.振動試験に関連する事項」について
      • ロケット打上げ時振動環境
      • 振動試験の目的と種類
      • 打上げ時と地上試験時の振動環境の違い
    • 「3.振動試験」について
    • 「4.振動試験結果の評価方法」について
    • 付録について
はかせ

サイト管理人で記事も書いているモノづくり会社の品証の人。
振動制御で工学博士なれど、いろいろ経験して半世紀。
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