現ロッキード・マーチン社のスカンクワークスは、米国初のジェット機P-80、世界最速のSR-71や世界初のステルス機F-117ナイトホークを産み出してきました。
スカンクワークスは主に軍用機の開発をしていますが、SR-71やF-117について調べてみると、一見実現不可能なことを実際に何とかしてきたチームなのではないかと考えています。
ここでは、以下の主にロッキード・マーチン社のWebサイトの情報からスカンクワークスのモノづくりや「ケリーの14のルール」などについてまとめています。
スカンクワークスのアプローチ方法(取り組み姿勢)
スカンクワークスには、創業者のケリー・ジョンソン(Kelly Johnson)さんが考案した、ケリーの14のルールがあり、現在もこの14のルールは生きているようです。
ここでは、主に以下のWebサイトからの情報をまとめています。
まずは、スカンクワークスのこれまでの実績をいくつか紹介します。
世界最速の有人ジェット機SR-71
詳細は以下のページにまとめていますが、現在は退役していますが、世界最速マッハ3.2で最高高度25,000mを巡航できるジェット機というよりは、宇宙機?(Space Plane)と呼んでもよさそうな偵察機です。
図1 SR-71B in Flight with F-18 Chase Aircraft
引用先:NASAホームページによるCenter(NASA Armstrong SR-71 Image Gallery)からの画像
偵察機として運用されただけでなく、NASAなどによりSR-71の極限環境(高高度、超音速)での飛行実験にも使われました。
世界初のステルス機F-117ナイトホーク
ステルス機とは、航空自衛隊でも導入されているF-35やF-22です。第5世代戦闘機F-22の研究開発に携わっています。
初のステルス機として実践投入されたのがF-117です。
図2 F-117:Bombs over Baghdad
出典:HOLLOMAN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
8 Collier Trophies
スカンクワークスは8個のCollier Trophiesを受賞しています。
Collier Trophiesとは全米航空宇宙境界が毎年、前年にアメリカの航空または天文学で最も偉大な業績を上げた人に授与するものです。
Collier Trophiesは、航空宇宙に関する技術的なことを調べていると目にすることがあります。私は航空宇宙については個人的に興味を持っているだけで実感としてはよく分からないのですが、歴史のある賞のようです。
11 X-Planes:先進開発機
スカンクワークスの特長の1つにラピッド・プロトタイプの製作に優れるということがあります。
SR-71であれば、軍の要求に対し、アイディアを形にして試作機を実際に作り、飛ばして、SR-71という実運用機を短期間で作りあげています。
私の個人的なイメージですが、ホンダジェットが航空機業界としては考えられない少人数で何もない状態からビジネスジェットを販売しているケースに通じる何かがあるように感じています。
エピソード:米国初のジェット戦闘機P-80
米国初のジェット戦闘機開発は、1943年6月に米国陸軍の航空戦術サービスコマンド(ATSC)が、当時のロッキード航空機会社(Lockheed Aircraft Corporation)に、ドイツのジェット機の脅威に対抗することについて説明するために接触したことから始まりました。
ドイツのメッサーシュミットMe262のことのようです。
ATSC:The U.S. Army’s Air Tactical Service Command
そして1か月後、クラレンス・ケリー・L・ジョンソンさん(後のスカンクワークス創業者)率いるエンジニアとメカニックのチームは、XP-80シューティング・スター・ジェット戦闘機の提案をATSCに提出しています。
図3 P-80だと思います
出典:pixabayから。
その後まもなく、ロッキード社は、米国初のジェット戦闘機開発を開始することになりました。これがケリー・ジョンソンさんによるスカンクワークス誕生となります。
ちなみに、XP-80の正式な契約書がロッキード社に届いた時、すでに作業開始から4か月が過ぎていた1943年10月16日です。
スカンクワークスは、ケリーの指揮のもと、XP-80の設計・開発を顧客要求より7日間短縮し143日間で行いました。
この際の設計・開発を実現した組織的な取り組み方が、「ケリーの14のルール」と呼ばれるもので、ケリーさんの哲学を表してもいます。
エピソード:スカンクワークスという名の由来
ケリーさん率いるチームがXP-80の設計・開発を極秘案件として進めようとした時代は戦時中です。ロッキード社の種瀬につはこのプロジェクトを進めるスペースがなく、サーカスのテントを借りて設計・開発を進めたのですが、隣接する工場からの強い悪臭がテント内に充満していたそうです。
ケーリーさんのチームメンバーは、XP-80の設計・開発(製造)を極秘で進め、チーム外でXP-80について話し合ってはいけない、電話の応対にも注意することを厳しく求められていました。
あるエンジニア(Irv Culver)はある新聞マンガのファンで、そのマンガを使ったジョークとして、「森の奥深くにある「スコンク工場(Skonk Works)」と呼ばれる謎の悪臭がする場所では、古い靴やその他の奇妙な材料から強力な飲み物が作られている。」と言われていました。
ある日、このエンジニアの電話で「スコンク・ワークスです」と電話に出ることがあり、エンジニア内では謎の部署名として「スコンク・ワークス」と呼ぶようになりました。その後、スコンク・ワークスがスカンクワークスとなりました。
スカンクワークスは、かつて非公式のニックネームでしたが、現在では同社の登録商標(®)となっています。
Kelly’s 14 Rules:ケリーの14ルール
ケリーの14のルールを紹介します。
一見当たり前のことのように思えるのですが、実行、徹底するとなるとなかなか難しいことでもあります。
「プロジェクトを成功させるためには、まずはチームメンバーを選ぶ。」ここから実践していると考えています。
1.スカンクワークスのマネージャー
- スカンクワークスのマネージャーは、あらゆる面でプログラムの実質的で完全な管理を委任されなければならない。
- 彼は部門長以上の者に報告しなければならない。
2.プロジェクトオフィス
- 強力ではあるが小規模なプロジェクトオフィスは、軍と産業の両方で提供されなければならない。
プロジェクトが大きくなるとスカンクワークスとは違うマネジメントが必要なのかもしれませんが、短期間で航空機をアイディアから形にするには、スカンクワークスのマネジメントの方が優れていると考えています。
3.プロジェクトメンバーの人数
- プロジェクトと関係のある人の数を厳しく制限すること。
- 少数の優秀な人を使うこと(いわゆる通常のプロジェクトと比べて10%~25%)。
4.柔軟に変更可能な図面と図面の変更管理システム
- 柔軟に変更できる、非常にシンプルな図面と図面のリリースシステムを提供する必要があります。
プロジェクト中に設計変更は当たり前に発生し、図面変更の量も質も大きい。図面の変更管理を人がやるのは不可能なので、システムの力を最大限に利用するということです。
5.報告書も必要だが、重要な仕事(ワーク)は徹底的に記録を残す
- 必要最低限の報告書は必要ですが、重要な仕事は徹底的に記録しなければなりません。
6.毎月のコストレビュー
- これまでに何が使われ、何が約束されたかだけでなく、プログラムの終了までの予測されたコストをカバーする毎月のコストレビューがなければなりません。
プロジェクト予算は有限であり、プロジェクトの目的達成には予算を適切に配分する必要があり、コストレビューが不可欠だということです。
7.入札
- 請負企業は、プロジェクトの下請けのために良いベンダーの入札を得るために委任され、通常以上の責任を負わなければなりません。
- 商業的な入札手続きは、軍事的なものよりも優れたものであることが非常に多い。
これは競争入札をすればよいという単純な話ではないことを述べていると考えています。
8.検査
- 現在、空軍と海軍の両方から承認を受けているスカンク工場で使用されている検査システムは、既存の軍事要件の意図を満たしており、新規プロジェクトで使用されるべきである。
- より基本的な検査責任を下請け業者やベンダーに押し戻すこと。あまりにも多くの検査を重複させてはいけない。
9.最終製品のテスト
- 請負業者は、彼の最終製品を飛行中にテストする権限を委任されなければならない。
- 彼は初期の段階でそれをテストすることができますし、しなければなりません。そうしなければ、彼は他の車両を設計する能力を急速に失うことになる。
10.ハードウェア仕様の契約前の合意
- ハードウェアに適用される仕様は、契約の前に十分に合意されなければならない。
- スカンクワークスでは、重要な軍事仕様の項目が故意に遵守されないことを明記した仕様書のセクションとその理由を持つことを強く推奨しています。
ソフトウェアなら仕様変更できるわけではないのですが、ハードウェアの仕様変更は、設計の初期段階からのやり直しを意味することもあるため十分な合意が必要だということです。
11.資金調達(支払い)
- 請負業者が政府のプロジェクトをサポートするために銀行に走り続ける必要がないように、プログラムの資金調達はタイムリーでなければなりません。
今年度予算はあるが、執行は年度末ということになると、今年度の1年間の設計・開発費用は自腹(持ち出し)ということになりますが、この様なことを言っているのかと思います。
12.信頼関係とコミュニケーション(顧客と請負企業)
- 軍事プロジェクト組織と請負業者の間の相互信頼、非常に密接な協力と日常的な連絡がなければなりません。
- 信頼関係とコミュニケーションにより、誤解や対応を最小限に抑えることができます。
13.プロジェクト情報の管理
- プロジェクトへの部外者のアクセスとその職員は、適切なセキュリティ対策によって厳重に管理されなければならない。
詳細は分かりませんが、Appleの新製品開発などはここで言っていることの1例だと考えています。
14.プロジェクトメンバーへの報酬
- エンジニアリングや他のほとんどの分野では少数の人しかいません。
- 監督した人員の数ではなく、給与によって良い業績に報いる方法を提供しなければならない。
現在のロッキード・マーチンのスカンクワークス
以下のWebサイトの情報から現在のスカンクワークスについて説明します。
未来を定義する
Lockheed Martin Skunk Works®では、お客様の使命が私たちの目的を定義しています。私たちの献身的なエンジニアと科学者のチームは、それが可能であることを前提としています。
未来を見据えた先見性を持って、お客様と協力して、明日の能力のギャップや技術ニーズを予測し、今日の最も重要な国家安全保障上の課題を解決することを目指しています。
スカンクワークスは、これまでに培った遺産、独自の文化、仕事の進め方により、国の将来の成功に必要とされる中核的な能力の分野において、爆発的なソリューションを提供するために迅速に行動します。
具体的な取り組みの主なものを以下に列挙します。
1.インテリジェンス(知能)、監視と調査
想定される脅威が高度な領域へと進化していく中で、戦場における戦闘員に対し生き残るためのインテリジェンス(知能)を提供するために、生存可能で持続性のあるISR(Intelligence, Surveillance & Reconnaissance)システムが必要とされています。
このため、ステルス技術、スピード(処理速度など)、改良されたセンサーを組み合わせたソリューションに取り組んでいます。
2.オール・ドメインの作戦
戦場を横断する総合的な(統合した)ネットワークを構築するために、接続し、共有し、学習する技術を進化させています。
深海から宇宙の果てまで、私たちのエンジニアが持つ高度な技術ソリューションの豊富な専門知識が、全ての領域における作戦行動を支えています。
3.超音波(Hypersonics)
迅速かつ費用対効果の高い超音速ソリューションの開発において、国防総省と戦闘機をサポートしていることを誇りに思っています。
高速飛行におけるこれまでの経験と蓄積は、超音速ソリューションを可能にする最先端技術を開発している基盤となっています。
4.デジタル・スレッド
チームでの設計に、コストを削減し、開発を加速させる統合的なデジタルアプローチを採用しています。
人工知能やネットワーク化された工場からのデータ分析や拡張現実まで、デジタルスレッドは、チームが迅速に接続し、協力し、革新するのをサポートしています。
デジタル化された情報網のことを指していると考えています。
5.オープン・システム・アーキテクチャ
オープン・システム・アーキテクチャを採用することで、より迅速なシステム統合をもたらし、リーズナブルなハードウェアのコストと、ソフトウェアの再利用とアップグレードを実現し、現在と来るべき未来のための能力を構築するための強固な基盤を提供します。
6.超音速(Supersonics)
静かな超音速技術に関する20年以上の蓄積と進歩を活用して、超音速飛行の最も根源的な課題の1つであるソニックブームを解決しています。
7.フューチャー・ファイターズ:将来戦闘機
デジタルエンジニアリング、オープンアーキテクチャ、アジャイル開発を通じ、新たな脅威と戦い、全領域の共同戦場での航空優位性を維持するための能力を向上させています。
この辺の概念はF-22で具現化され始めたのではないかと考えています。
8.次世代UAS(無人航空システム)
60年以上にわたる無人航空システムの専門知識を活用して、ステルス技術、オープンシステムアーキテクチャ、有人・無人のチーム機能を組み合わせた次世代のソリューションを開発し、戦場での戦力増強に取り組んでいます。
9.機密扱いされた仕事(Classified Work)
(スカンクワークスの)仕事の85%は、国の安全を守るために機密扱いされ、秘密裏に実行され、あらゆる武装勢力による脅威を上回る優位性を維持します。
10.ラピッドプロトタイピング
高度な開発に対する当社独自のアプローチは、迅速で、リスクに強く、スマートです。私たちは失敗を恐れず、革新的なソリューションの設計、開発、テストを迅速に行い、可能性の限界を押し広げます。
アイディアから実機を短期間で作り上げる能力は、強力な強みだと考えています。
11.次世代のエアモビリティ
今日の紛争において、戦場ではオペレーターは戦いに近づく必要があります。
当社は、オペレーターが期待する信頼性と多様性を提供する、残存可能なシェルター技術(survivable tanking solutions)への投資を通じて、次世代の航空移動手段に関する技術を推進しています。
この項目は具体的にイメージできなかったのですが、メーカーからの技術支援者が実際の戦場に近い地域で、航空機などの各種装備の運用サポートをするということかと思います。
12.革新的な技術
ロッキード・マーチン・スカンク・ワークスでは、不可能なことは何もありません。
私たちの科学者やエンジニアは毎日、世界で最も困難な問題のいくつかに取り組んでおり、画期的な先端技術のコンセプトに向けた急進的なアプローチを開拓しています。
ここでまで言い切るとは素晴らしいと思います。強烈な自負とプライドがあるということの1面だと考えています。
まとめ
ロッキード・マーチン社のスカンクワークスは、米国初のジェット機P-80、世界最速のジェット機SR-71や世界初のステルス機F-117ナイトホークを産み出してきました。
スカンクワークスは主に軍用機の開発をしていますが、SR-71ブラックバードやF-117ナイトホークについて調べてみると、一見実現不可能なことを実際に何とかしてきたチームなのではないかと考えています。
ここでは、スカンクワークス創業者ケリーさんの14のルールや現在のスカンクワークスについて、以下の項目で説明しました。
- スカンクワークスのアプローチ方法(取り組み姿勢)
- 世界最速の有人ジェット機SR-71
- 世界初のステルス機F-117ナイトホーク
- 8 Collier Trophies
- 11 X-Planes:先進開発機
- エピソード:米国初のジェット戦闘機P-80
- エピソード:スカンクワークスという名の由来
- Kelly’s 14 Rules:ケリーの14ルール
- 1.スカンクワークスのマネージャー
- 2.プロジェクトオフィス
- 3.プロジェクトメンバーの人数
- 4.柔軟に変更可能な図面と図面の変更管理システム
- 5.報告書も必要だが、重要な仕事(ワーク)は徹底的に記録を残す
- 6.毎月のコストレビュー
- 7.入札
- 8.検査
- 9.最終製品のテスト
- 10.ハードウェア仕様の契約前の合意
- 11.資金調達(支払い)
- 12.信頼関係とコミュニケーション(顧客と請負企業)
- 13.プロジェクト情報の管理
- 14.プロジェクトメンバーへの報酬
- 現在のロッキード・マーチンのスカンクワークス
- 未来を定義する
- 1.インテリジェンス(知能)、監視と調査
- 2.オール・ドメインの作戦
- 3.超音波(Hypersonics)
- 4.デジタル・スレッド
- 5.オープン・システム・アーキテクチャ
- 6.超音速(Supersonics)
- 7.フューチャー・ファイターズ:将来戦闘機
- 8.次世代UAS(無人航空システム)
- 9.機密扱いされた仕事(Classified Work)
- 10.ラピッドプロトタイピング
- 11.次世代のエアモビリティ
- 12.革新的な技術