2000年頃の話です。ケータイの落下試験をしたいという相談がありました。落下試験ということは、落下して床に落ちた際の衝撃実験をするということでもあります。
ここでいうケータイは、iPhoneのようなスマホとは違い、i-modeメールが主流だった頃の携帯電話(ガラケー)のことです。
2000年頃の話ですが、製品開発では、いわゆるデザインや仕様だけでなく、不注意などによる落下試験なども行われています。
スマホはバッテリ内蔵となっていますので、バッテリが外れる力を利用する手は使えなくなっています。
スマホが大型化・薄型化しているので新たな難しさもあるのかもしれません。
ケータイを落とす実験(落下試験)の問い合わせ
ケータイを作っているメーカーかケータイのパーツメーカーかは分かりませんが、
ケータイを落とす実験(落下試験)をしたい。
という問い合わせがあったそうです。
そこで、ケータイを落とす実験(落下試験)とはどのようなものなのか聞いていくと、どうやら次の2つについて実験で確認したいという要望のようです。
- 落下した時にどのような力(衝撃)がケータイに加わるのか実験で確かめたい。
- ケータイがどの様に落下していくか実験で調べたい。
ここで言っているケータイは、下図の落下イメージのような一体型のケータイです。
ちなみに、ケータイを落とした際に地面とぶつかった時の衝撃を吸収する対策の1つとして、
- ケータイの下部に一番重いパーツであるバッテリを設置する。
- 落下時にはバッテリの重さでケータイの下側が先に地面にぶつかる。
- 地面にぶつかった衝撃は、バッテリが外れることで分散する。
といった対策がされていて、落下時にケータイ本体が壊れることを防いでいるとのことでした。
ケータイを落とすとバッテリが外れやすいことは知っていたので、なるほどと感心した覚えがあります。
ケータイの落下試験とはどんな実験か考える
ケータイの落下試験の問い合わせ内容は、次の2点です。
- ケータイが落下して床にぶつかったときの力(衝撃)を調べたい。
- 落下した時にどのような力(衝撃)がケータイに加わるのか実験で確かめたい。
ケータイが落下して床にぶつかったときの力(衝撃)を調べたい
まずは、
- ケータイが落下して床にぶつかったときの力(衝撃)を調べたい。
という要求について考えていきます。
要求を具体的かつシンプルにしていきます。
- ある高さから落とす
- 初速、ケータイに加わる初期の外力はなし。
- 落下させるときのケータイの向きは、とりあえず垂直方向とする。
- 落下
- 自由落下で地面と衝突する。
この時、実験で欲しいデータは落下時の衝撃力なのですが、センサーを考えると次のような考慮事項が出てきます。
- 力センサーを使えば、落下時の力は検出できそうだが、力の向きや変化量は分かるのか?
- 加速度センサーを使えば、落下中と落下後の加速度の変化は検出できそうだ。
ひとまず、加速度センサーを使うことにして、さらに具体的に考えていくと次のようになります。
- 加速度の方向を知りたいので3軸の加速度センサーが必要(高いのに、1回で壊れるかも)
- 小さい3軸の加速度センサーをケータイに設置できるか?
- センサーの個数は、ケータイ本体の4隅に設置する4個
- 計測器のチャンネル数は、3軸x4個で12チャンネル必要。
- 多チャンネル同時計測になるので、ハンマリング試験とは違い一発勝負の計測
- 事前の計測も難しいな
- さらに、外れる部品(バッテリ部分)のデータも欲しい
- さらに3軸センサーを追加で3軸x4個
- 計測器のチャンネル数も12チャンネル分追加
- 落下時の様子をビデオで撮りたい
- ひとまずビデオ撮影は計測系から外しておこう。
こうなってくると、実験や計測の難易度ももちろん問題なのですが、多チャンネル同時計測である上に、1回の実験でセンサーが壊れることも考慮する必要があり、コストも一気に膨れ上がります。
ケータイがどのように落ちていくのか調べたい
次に、
- ケータイがどの様に落下していくか実験で調べたい。
という要求について考えていきます。
まずは、現状どこまで分かっているのかを聞いてみます。
答えが、
ケータイがどのように落ちていくのかは分からないので、試しに落としてみて確認したい。
ということは、どんな風に落ちていくのかゼロから観察していくことになるということです。
どのように落下するのか実験で調べるということは、
- まずは、どのように落下していくのか観察する。
ということなので、センサー云々の前にビデオ撮影と画像分析により分析していくことになるのですが、そもそも同じように落下していくのかさえ実際にやってみないと分からない。
どのように落下するか傾向がつかめてから、上記の落下時の衝撃を調べる方法と同様に、センサーを取り付けて計測を始めることになります。
加速度センサーを使って、調べられそうではありますが、コストを超えるメリットがあるのかは・・・。
そしてご提案(お問い合わせへの回答)
最終的に次のような提案になったそうです。
「いきなり実機での実験をするのではなく、まずはケータイの落下試験モデルを作っては、いかがでしょうか?」
例えば、落下試験モデルは、
- 形状は直方体ベースとする。
- 重心位置は、実機と同じにする。
実験する際には、
- センサーを本体内に設置する。
- ケーブルは、外出しにする。
その他にも検討する必要があることをいくつか挙げてみます。
- 落下時の、センサーの座標軸系と絶対座標(外部の座標系)との関係をどのようにして決めるか。
- 落下試験の場合衝撃によりセンサー本体が壊れたり、ケーブルの断線が予想されます。
- 計測やデータ処理についても傾向をつかむまでは試行錯誤が予想され、計測データ量も多く分析にも時間がかかります。
上述のような説明をした後、お問い合わせの回答としてまとめると、
お問い合わせの内容は、地道な実験結果の積み重ねが必要なことなので、最初から実験を委託しようとしないで、まずは自分でやってみることをおすすめします。
となりました。
なお、理論的な観点では、衝撃の世界の話(実験)なので、ハンマリング試験や実験モード解析とは、計測もシミュレーションも違う世界です。
流体の実験や解析などと同じ様に、コストだけでなく、設備やノウハウも必要です。
教訓:仮説やシミュレーションも目的や目標設定が重要
仮説と検証と簡単に言いますが、
- 仮説をシミュレーションで検証(確認)する。
- シミュレーションを実験で検証(確認)する。
その結果、初めて仮説を検証したことになると考えています。
あれもこれもと欲張ると、ゴール(検証)まで辿り着けなくなってしまいます。
実験もシミュレーションもその目的を明確かつ具体的にして、まずは小さな目標を達成し、ゴールすることがポイントだと考えています。
まとめ
ここでは、ケータイ(i-mode全盛の頃のケータイす)の落下・衝撃実験について、
- ケータイを落とす実験(落下試験)の問い合わせ
- ケータイの落下試験とはどんな実験か考える
- 提案(お問い合わせへの回答)
についてのエピソードを紹介しています。
仮説、シミュレーション及び実験も目的や目標設定が大切です。