3D CADが使えるようになればモデラーになったことになります。2Dと3Dとでは、同じ形状を作るにも考え方や手順が全く違います。2Dが平面図の組み合わせと考えていますが、3Dモデルでは、ブーリアン演算といった言葉がでてきて面食らったことを思い出します。
ここでは、設計者になるための知識として簡単な部品を設計することを例に、3D CADの形状モデル(図面)とリアルなモノ(部品)との違いや設計上の注意点について説明します。
なぜ設計では応力解析(シミュレーション)をするのか
部品の設計をする際、部品の1か所(1点)に応力が集中しないように設計します。
これは、応力集中による破壊(クラック発生から破断)を防ぐ設計をするということです。
応力集中とは、部品の特定の部位に応力が集中することで、部品の特定部位に応力が集中してしまうと、その部位から部品が壊れてしまうため、応力が特定の部位に集中しないよう設計することが求められます。
以下、L字金具を例に、形状と応力について説明します。
- FreeCADは、バージョン0.18を使っています。
L字金具は、下図のように棚の補強に使う金具です。
図 L字金具の使用例:棚
L字金具の基本形状
FreeCADのスケッチ(ワークベンチ)で、下図の寸法のL字金具を作成しました。
- L字金具の厚さ:2mm
- 材料:アルミニウム合金(AlMg3F24)
図1 L字金具:初期形状
図2 L字金具:初期形状+R追加
図3 L字金具:初期形状+ネジ穴追加
図4 L字金具:初期形状+Rとネジ穴追加(最終形状)
L字金具による形状の比較
FreeCADのメッシュを切ったモデルを下図に示します。
- メッシャー:NetGen
- 要素:4面体2次要素
- Second orderにチェックが入っている。
- メッシュ粗さは、Moderate(中程度)
応力解析の詳細は次項で説明します。
図5 L字金具のメッシュ:初期形状
下図は、L字金具の内側部分にRを追加した場合のメッシュです。
左側のモデルでは、L字金具の内側部分の角度は90度です。
しかし、実際に作られるL字金具の内側部分には、加工の際にRがつき90度とはなりません。
図6 L字金具のメッシュ:初期形状+R追加
下図は、初期形状にネジ穴を追加したメッシュです。
実際のL字金具は、ネジ穴にネジを通して固定されますので、応力解析をする場合にはネジ穴は必要になります。
図7 L字金具のメッシュ:初期形状+ネジ穴追加
下図は、L字金具の1辺(下図の左下の長辺)に面取りを追加したメッシュです。
実際のL字金具では面取りがされていますが、L字金具全体の応力解析に必要かは検討の余地があります。
ちなみに、下図の様に面取りを追加すると、面取りのサイズ(R、半径)がL字金具全体に対し小さいため、メッシュの要素数が10倍以上となります。結果として、解析時間もかかりますし、解析結果を見る際にもムダに画像表示の処理が重くなってしまいます。
ムダにメッシュを細かくしてしまうと、PCの処理能力の無駄遣いになってしまいます。
図8 L字金具のメッシュ:初期形状+面取り
精密な応力解析が必要なのであれば、メッシュを細かくする必要性がでてきますが、上記の様なL字金具の形状による応力分布の違いを比較するのであれば、面取りは不要ですし、L字金具の内側部分のRとネジ穴は必要になります。
このため、基本的な形状による応力解析結果とリアルなモノの応力分布について、設計者は知っておいた方がよいと考えています。
以下、L字金具の形状による応力分布の違いについて、解析結果例を説明します。
L字金具の変位と応力:初期形状
L字金具の応力解析では、
- L字金具の固定方法(拘束条件)
- L字金具に加える荷重(荷重条件)
の設定が必要です。
しかし、設計や解析を始めたばかりで拘束条件や荷重条件を決めることは簡単ではありません。
ここでは、L字金具の形状と応力分布の違いを比較することが目的で、実際の応力値を求めることが目的ではないため、まずは固有値解析による応力解析結果を行います。
以下の図において、左側の図が変形量、右側の図が応力分布を示しています。
赤色の部分は、左側の図の変形量が大きい部分、右側の図の応力が大きい(集中している)部分となっています。
下図において、L字金具の変形は金具の両端部が大きく、応力はL字金具の内側の角部に集中していることが分かります。
図9 L字金具の変形と応力分布:初期形状:7次モード
下図において、L字金具の内側の角部に応力が集中していることが分かります。
図10 L字金具の変形と応力分布:初期形状:8次モード
図11 L字金具の変形と応力分布:初期形状:9次モード
下図において、L字金具の内側の角部に応力が集中していることが分かります。
図12 L字金具の変形と応力分布:初期形状:10次モード
以上の解析結果から、L字金具の初期形状においては、内側の角部に応力が集中していると考えます。
L字金具の変位と応力:初期形状+R追加
ここでは、L字金具の内側の角部にRを追加した形状の解析結果を示します。
以下の図において、左側の図が変形量、右側の図が応力分布を示しています。
赤色の部分は、左側の図の変形量が大きい部分、右側の図の応力が大きい(集中している)部分となっています。
下図の右側のL字金具内側の角部を見ると、Rを追加する前に比べ赤色の部分が広がっている(応力が分散している)ことが確認できます。
図13 L字金具の変形と応力分布:初期形状+R:7次モード
上図同様、下図の右側のL字金具内側の角部を見ると、Rを追加する前に比べ赤色の部分が広がっている(応力が分散している)ことが確認できます。
図14 L字金具の変形と応力分布:初期形状+R:8次モード
図15 L字金具の変形と応力分布:初期形状+R:9次モード
上図同様、下図の右側のL字金具内側の角部を見ると、Rを追加する前に比べ赤色の部分が広がっている(応力が分散している)ことが確認できます。
図16 L字金具の変形と応力分布:初期形状+R:10次モード
以上の解析結果から、L字金具の内側の角部にRを追加することで、各部に集中してた応力を分散することができると考えます。
L字金具の変位と応力:初期形状+面取り追加
ここでは、L字金具に面取りを追加した形状の解析結果を示します。
以下の図において、左側の図が変形量、右側の図が応力分布を示しています。
赤色の部分は、左側の図の変形量が大きい部分、右側の図の応力が大きい(集中している)部分となっています。
下図の解析結果は、変形方向の向きが反転していますが、基本形状と同じ様なものとなっています。
下図において、面取り部分の色が黒っぽくなっていますが、これは面取り部分のメッシュが細かいことによるものです。このため実際にFreeCADで解析を行うと、PCでの計算時間が長くなるだけでなく、解析結果お画像表示の方向変更などをするたびに、表示するまでのタイムラグを感じることになります。
処理性能の高いPCを利用すればよいというあけではありません。ここでのL字金具は形状がシンプルですが、複雑な形状になるとメッシュも細かくなっていきますので、解析に不要なメッシュの細分化は避けた方がよいと考えています。
参考までに、初期形状と面取りをした場合のメッシュの違いを下表に示します。面取りにより要素数は10倍以上に増えていることが分かります。
初期形状 | 初期形状+面取り | |
---|---|---|
ノード数(節点数) | 4873 | 46,427 |
三角形状 | 1734 | 10,556 |
要素数 | 2265 | 26.496 |
図17 L字金具の変形と応力分布:初期形状+面取り:7次モード
図18 L字金具の変形と応力分布:初期形状+面取り:8次モード
図19 L字金具の変形と応力分布:初期形状+面取り:9次モード
図20 L字金具の変形と応力分布:初期形状+面取り:10次モード
L字金具の変位と応力:初期形状+ネジ穴追加
ここでは、L字金具にネジ穴を追加した形状の解析結果を示します。
以下の図において、左側の図が変形量、右側の図が応力分布を示しています。
赤色の部分は、左側の図の変形量が大きい部分、右側の図の応力が大きい(集中している)部分となっています。
下図の解析結果は、変形方向の向きが反転していますが、基本形状と同じ様なものとなっています。
また、以下の解析結果からネジ穴の周辺に応力が集中していることが分かります。
図21 L字金具の変形と応力分布:初期形状+ネジ穴:7次モード
図22 L字金具の変形と応力分布:初期形状+ネジ穴:8次モード
図23 L字金具の変形と応力分布:初期形状+ネジ穴:9次モード
図24 L字金具の変形と応力分布:初期形状+ネジ穴:10次モード
以上の解析結果から、L字金具のネジ穴は応力分布に影響があると考えます。
また、次項で拘束条件と荷重条件を加えてL字金具の変形や応力分布を解析しますが、ネジ穴部が拘束や荷重を加える部分となります。
解析例:振動モード形(固有値解析)と応力
ここでは、L字金具の基本形状にRとネジ穴を追加した形状モデルを使用し、拘束と解析条件を設定して応力解析を行った例を説明します。
L字金具の形状とメッシュを下図に示します。
図25 L字金具のメッシュ:初期形状+R+ネジ穴
固有値解析を使った結果を下図に示します。
以下の図において、左側の図が変形量、右側の図が応力分布を示しています。
赤色の部分は、左側の図の変形量が大きい部分、右側の図の応力が大きい(集中している)部分となっています。
L字金具内側の角部の応力がRに沿って分散されていることを確認できます。
図26 L字金具の変位と応力:初期形状+R+ネジ穴:7次モード
図27 L字金具の変位と応力:初期形状+R+ネジ穴:8次モード
図28 L字金具の変位と応力:初期形状+R+ネジ穴:9次モード
図29 L字金具の変位と応力:初期形状+R+ネジ穴:10次モード
解析例:拘束と荷重を加えた応力解析(静解析)
ここでは、L字金具の基本形状にRとネジ穴を追加した形状モデルを使用し、拘束と解析条件を設定して応力解析を行った例を説明します。
L字金具の形状とメッシュを下図に示します。
下図右側の図でL字金具奥側のネジ穴を拘束、手前側のネジ穴に荷重を加えています。
図30 L字金具のメッシュ:初期形状+R+ネジ穴:拘束と荷重
応力解析結果の1例を下図に示します。
下図において、L字金具右下のネジ穴を拘束、左端のネジ穴に荷重を加えています。
拘束条件、荷重条件の設定は、経験値はあればよいのですが、そうでない場合には、できるだけシンプルに考え設定した方がよいと考えています。
厳密なことを言い出すと、荷重や拘束は座標系の6自由度ありますし、L字金具であればネジ穴4つに荷重を設定したり、拘束条件も考えすぎると解析条件が複雑になるばかりで、解析結果を評価(正しいかどうかの判断)も難しくなってしまいます。
L字金具で固定した面に荷重を加わると、L字金具に加わる荷重は端部のネジ穴により大きくかかる、荷重によるL字金具の応力は下端部のネジ穴により大きくかかると仮定しています。
また、下図において、左側の図が変形量、右側の図が応力分布を示しています。
赤色の部分は、左側の図の変形量が大きい部分、右側の図の応力が大きい(集中している)部分となっています。
図31 L字金具の応力解析結果:初期形状+R+ネジ穴:拘束と荷重
上図より、L字金具内側のR部と拘束したネジ穴部に応力が集中していることがわかります。
応力は歪ゲージを使って計測することもできますが、計測できるのは歪ゲージの設置点のみです。基本的な形状の応力分布を知ると共に、形状による応力分布の違いを解析し比較できることは、3D CADを使う設計の大きなメリットだと考えています。
参考:FreeCADによる応力解析手順
備忘録も兼ねて、FreeCADで応力解析する手順を簡単に説明します。
(1)形状モデルを作る
- スケッチ機能
- 概略図形を書いて、拘束機能で形を仕上げる。
(2)ワークベンチでFEMを選ぶ
- アイコン「A」:新しい解析を選ぶ
- アイコン「◯」:材料設定
- アルミニウム合金製(AlMg3F24)
(3)拘束条件
- 拘束
- 荷重
- 固有値解析なら拘束なし(フリー)
(4)メッシュ
- NetGenを使用
- 要素:4面体2次要素
- Scond orderにチェックが入っていること
- メッシュ粗さ:Moderate(中程度)
(5)計算
- CalculiXTools
- inpファイルを作り、計算実行
まとめ
モデラーと設計者という言葉があるように、3D CADで形状モデルを作成し図面が作れるからといって適切な設計ができるとは言えません。
3D CADの仮想空間では、直角は丁度90度になりますがリアルなモノづくりで直角を作るには特殊な加工方法が必要ですし、90度のまま解析すれば応力集中が発生しリアルなモノと違う結果となってしまいます。
ここでは、L字金具の変形と応力解析について、以下の項目で説明しました。
- なぜ設計では応力解析(シミュレーション)をするのか
- L字金具の基本形状
- L字金具による形状の比較
- L字金具の変位と応力:初期形状
- L字金具の変位と応力:初期形状+R追加
- L字金具の変位と応力:初期形状+面取り追加
- L字金具の変位と応力:初期形状+ネジ穴追加
- 解析例:振動モード形(固有値解析)と応力
- 解析例:拘束と荷重を加えた応力解析(静解析)
- 参考:FreeCADによる応力解析手順