設計者から、次の様なことを聞かれたらなんと答えますか?
- 材料について何から学べばよいのでしょうか?
- お勧めの本やセミナーを教えてください。
私にとっては、今でも答えにくい質問です。
なぜ答えにくいか、自分の経験も含めて考えまとめてみました。
知っていることと教えることとの間には、聞かれて初めて気づく大きな壁があります。
設計初心者が知りたい材料知識と書籍やセミナーのミスマッチ
書籍だけでなくセミナーも同様だと思うのですが、材料に関する書籍や教科書には、JIS規格、金属組織、金属組成といった専門用語が並んでいます。いずれも設計者に必要な知識だとは思いますが、初めて部品を設計する設計者(初心者)が学ぶには、敷居が高すぎるのではないでしょうか。
材料に関する専門書やセミナーは、材料や加工の専門家の方が重要だと考えることをまとめたものです。これを設計初心者に受け止めろというのも少々厳しい話だと考えています。
また、設計者としては、設計者の視点から書かれた本やセミナーが望まれているのですが、外部セミナーの案内などをみても、材料の専門家や加工のプロからの視点でまとめられえており、設計者の視点、つまり、設計する場合に必要となる材料知識を、できればやさしいところから段階的に学べるようなものは少ないようです。
そこで、金属製の部品をすることになった設計初心者を想定して、材料選択の基礎的な知識について説明を試みたいと思います。
材料選択もQCD(品質・コスト・納期)で判断
モノづくりでは、QCD、品質、コスト、納期が重要です。
材料を選ぶということは、限られた条件の中で最適な材料を選択するということです。
言い換えれば、材料選択で、品質、コスト、納期(材料の入手性)が大きく変わってしまうということです。
部品設計を例に具体的に考えてみると、
- 求められる品質を満足することを前提に、
- 限られた予算(コスト)の中で、
- 納期(材料の入手性)を満足する材料を選択する。
ことになります。
その会社でベテランと呼ばれる設計者であれば、普通にその時の状況に応じて適切な材料選択をしているのでしょうが、その時の材料選定の理由などを新人の設計者に説明することになれば、やはりとまどうのではないでしょうか。
モノづくりメーカーであれば、ある程度設計するモノの形状や材料は限られたものになっていることが多いかと思います。だからといって、材料選択が簡単になる訳でもなく、過去の図面からコピペした材料を選択すればよいということにもなりません。
設計初心者が迷わず材料を選択できる、その会社独自の材料標準のようなものがあればよいとは思いますが、文書化されていなくても材料選択のポイントとなることもあるようです。
次項で基本的な材料について考えてみます。
基本的な材料とは何か
繰り返しになりますが、材料選定では、必要な品質を前提に、コストと納期で考えることがポイントになります。
設計のプロ(ベテラン)であれば、どの様な種類の材料でも、限られた予算・納期の中でよりよいものを選べるのでしょう。
設計に使われている材料は、会社でも、社内でも様々ですが、設計者が選ぶ基本的な材料には、次のようなものがあります。
材料の種類・形状・大きさ
- 材料の種類:鉄、ステンレス
- 材料の形状:板材、角材、丸材、アングル材
- 材料の大きさ:標準サイズ
例えば、材料の標準的なサイズは決まっていますので、入手性を考えると自ずと使える材料は絞られてきます。
金属材料の物理的性質
- 金属材料の物理的性質:比重、縦弾性係数、横弾性係数、熱伝導率、熱膨張率
- 金属材料の機械的性質:降伏点、引張強さ、硬さ
設計上考慮する項目
- 用途
- コスト
- 入手性
CAEで使う材料特性
- 比重
- ヤング率(縦弾性係数)
- 横弾性係数
- ポアソン比
材料選択の標準となるものが必要です
以上、設計者の材料選択について思うところをまとめてきました。
会社ごと、場合によっては、同じ会社内でも「標準的な材料」については意見が分かれるかもしれません。
モノづくりメーカーでも材料選択の標準が明確に決まっているケースは決して多くないようで、次の様な場合が少なくないようです。
- 材料選択について分からないので、ベテランに聞く。
- (ベテランに限りませんが)聞いた人は、類似形状の設計例を真似るように指示する。
- 過去の図面からコピペしてくる。
- そのうち、上記の状態に慣れて類似の図面データからコピペを始める。
しだいに、
- 材料選択について考えないことに疑問を持たなくなる。
- つまり、なぜその材料を選んだのか分からないまま図面を描く。
そして、
- クレームにならなければよい。
- 材料選定について社内や社外(外注先やお客様)に質問されなければそのままでよい。
となり、負のスパイラルが回り始めてしまいます。
結果、
- ノウハウどころか、過去の図面は材料からチェックしないと使えない。
と実に困った状況になってしまいます。
ではどうするか?
- 新しい設計者に設計させる製品から、
- 材料選択について現状を確認する。
- 見直して標準的な選定方法を記録に残す。
ことから始めるのがよいのではないでしょうか。
PDCAのPではなく、
- 小さなDoから短期間でできることを始める。
これが初めの一歩だと考えています。
まずは、よく使う材料を例にして、上記項目について現状を確認してみてはいかがでしょうか。
まとめ
材料選択は設計の品質、コスト、納期(生産期間)に直接影響数重要なプロセスです。しかしながら新人の設計者に対し、類似製品の過去データからのコピペで済ませている場合が少なくないようです。
ここでは、材料選択の標準について、以下の項目でまとめています。
- 設計初心者が知りたい材料知識と書籍やセミナーのミスマッチ
- 材料選択もQCD(品質・コスト・納期)で判断
- 基本的な材料とは何か
- 材料の種類・形状・大きさ
- 金属材料の物理的性質
- 設計上考慮する項目
- CAEで使う材料特性
- 材料選択の標準となるものが必要です