エンジンを組み立てると、エンジンの試験を行います。そのための試験システムをエンジンベンチといいます。
現場での振動や騒音の問題は、実際の現象を確認してみないと何とも言えないのですが、ずいぶん前のことになりますが、産業用の車両に使うエンジン試験に関連して起きた振動問題についての失敗談?を紹介します。
現地に行くことで起きている現象を確認し、原因と対策について1つの考え方を説明できたのは幸運でした。
振動問題は、起きている現象をできるだけ正確に把握すること、仮説を立ててそのために必要なデータを計測し、分析することが重要です。
どの様な振動に困っていたのか?
とある工場で、次の様な問題が起きるようになったそうです。
- エンジン試験室で、エンジンベンチで試験を始めると、事務室が揺れる。(事務仕事ができない程に揺れる。)
これだけでは、何をすればよいのかあまりに漠然とし過ぎているので、いろいろ聞いてみると、次の様な事が分かりました。
- 工場の建屋自体は、かなり昔に建てられた。
- エンジン試験室もかなり昔に作られ、工場の一画(入口からみて一番奥)
- 事務室(2階か中2階)は、数年前に工場内に作られた。
- エンジン試験室と事務室とは、直接つながっているわけではないが、同じ並びにある。
そして、お客様からの要望は、
- エンジンベンチに問題がありそうなので、エンジンベンチの振動計測?をして欲しい。
と、これまた漠然とした内容しか分かりませんが、なぜか現地に行くことになりました。
念のため、これはコンサルティング・サービスではなく、営業活動の一環として話を聞かせて欲しいといった主旨での現場計測でした。
とりあえず現場に行けとの指示で現地に行くと
上述の情報だけで、「理屈はいいからとりあえず現場に行ってこい」との指示なので、
- FFTアナライザー
- 加速度計4個とインパルスハンマ
を手配して現地に向かうことになりました。
内心、エンジンに関する振動であれば、トラッキング解析が当たり前でしたが、残念ながらトラッキング計測の知識も経験もなく、これでいいわけないが説明しても行ってこいと言われるだけなので・・・。
いざ、現地に言ってお話を聞いてみると、新しい情報が得られました。
- エンジンベンチにエンジンを固定する部分(エンジンマウント部)を新規に製作している。
- 新しく作ったエンジンマウントを使うと、事務所が揺れる。
- 新しいエンジンマウントは、新設計で取り回しをよくするため軽量化した。強度的には問題のない設計としている。
さらに、お話を聞いていると、
- 使っていたエンジンマウントの設計や製作に携わっていた方は、すでに退職している。
と言う状況でした。
これらの新情報から推論すると、
- 新しく作ったエンジンマウントの重量が軽くなることで、エンジンベンチを稼働すると、エンジンが加振源の様な働きをしてしまい、建屋の構造(鉄骨構造)を揺らしている。
- エンジンマウントの設計や製作に関するノウハウが断絶してしまっている。
と、少々乱暴ながら仮説らしきものを立てることができました。
現場での振動計測
お客様には言えませんでしたが、事務所が揺れる振動問題の調査目的としては、すでに準備したFFTではどうにもならないことが分かりましたが、何もしないわけにもいかず、エンジンベンチの振動計測ということで、エンジンとエンジンベンチをつなぐシャフトの軸受け部の実稼働解析をしました。
実稼働解析結果については、できるだけ丁寧な説明を試みましたが実力不足で、「さっぱり分からん」と言われてしまい・・・。
トラッキング分析ができれば、もう少し、それらしい説明もできたかもしれませんが、これはどうしようもありません。エンジンの様に回転数を扱う場合には、そのための準備や経験も必要なのですが、後の祭りです。
その後のフォロー
どの様な経緯でとりあえず現場に行かせることになったのかは分かりませんが、会社に戻り上司に説明しても、「そりゃそうだよね。説明はしたのだけれど。」と言われ、どうやら、「振動制御の工学博士なら分かるはずだ。」と押し切られたらしい。
事務所が揺れる問題に有効なデータは得られませんでしたが、現地で聞いた話と、現場を観察した結果、次のことを説明しました。
- 事務所が揺れるのは、新しいエンジンマウントを使用した場合に起きる。
- 新しいエンジンマウントは軽量化されている。
- エンジンマウントを軽量化したことで、エンジン試験の振動が構造体(建屋の鉄骨構造)に影響を与えている。
- 古いエンジンマウントの設計や製作をした方は、だいぶ前に定年退職している。
つまり、対策としては、
- 新しいエンジンマウントを従来と同程度の重量になるよう再設計・製作する。
ということになります。
その後、営業経由で伝えたと聞きますが、定年退職された方に相談したとかしないとか、ちょっとほろ苦い経験でもありました。
後日、別の振動問題で、エンジン試験機の基礎部分を縁切りしなかったので、近くの幹線道路の振動がエンジン試験機上で検出されてしまうことを知り、振動の世界を少し知っているとはいえ、知らないことがまだまだあるなと再認識したことを思い出します。
まとめ
現場での振動や騒音の問題は、実際の現象を確認してみないと何とも言えないのですが、産業用の車両に使うエンジン試験に関連して起きた振動問題について、現地に行くことで起きている現象を確認し、原因と対策について1つの考え方を説明できたことについて以下の項目で説明しました。
振動問題は、起きている現象をできるだけ正確に把握すること、仮説を立ててそのために必要なデータを計測し、分析することが重要です。
- どの様な振動に困っていたのか?
- とりあえず現場に行けとの指示で現地に行くと
- 現場での振動計測
- その後のフォロー