組織観察と言えば、中学生の頃だったと思いますが、顕微鏡で玉ねぎの細胞を観察をした覚えがあります。
ある金属製部品(鋳物)の組織観察をすることになり、金属(鋳物)の製造工程と組織観察についてまとめました。
金属に限らないと思いますが、組織観察では、観察倍率を上げるほど観察範囲が狭くなるため、全体の観察結果と共に考察することがポイントです。
金属の組織とは
金属の組織とはどのようなものか、言葉では説明が難しいので1例を紹介します。
下図は、ダクタイル鋳鉄の代表的な黒鉛形状です。
図1 ダクタイル鋳鉄の代表的な黒鉛形状
引用先は、以下になります。
中小企業総合事業団[現:(独)中小企業基盤整備機構]
図は、以下のテキストの「1.《ダクタイル鋳鉄の代表的な黒鉛形状:黒鉛球状化率(ISO法)》」のもので、上図では4つの図を横にならべています。
平成10年度 ものづくり人材支援基盤整備事業-技能の客観化、マニュアル化等-
銑鉄鋳物生産技術標準マニュアル-溶解作業(誘導炉)-
平成11年5月 中小企業事業団 情報・技術部
なお、きれいな写真がキーエンスのWebサイトにあります。
自動車・航空関連業界 金属組織の観察方法と観察・計測の合理化
<https://www.keyence.co.jp/ss/products/microscope/vhx-casestudy/automobile/metallographic-structure.jsp>
一番下の「黒鉛球状化の観察・面積率計測」に「黒鉛球状化」の写真があります。
素材から最終製品になるまでに変化する金属の組織
金属の組織は、金属の種類や、金属に含まれている成分だけでなく、素材から最終製品までの間にも、素材(原料)から圧延等の成形、加工、熱処理などにより変化します。
ある鋳物製品ができるまでの工程の1例を示します。
- 溶解1原料投入鋳物の原料(鉄やアルミ)を電気炉に投入します。
- 溶解2成分調整製品に必要な成分を電気炉に投入します。
- 溶解3出湯鋳物の原料に必要な成分が溶け込んだ金属(溶湯と呼びます)を電気炉から取鍋(とりべ)に移します。
- 造型1模型鋳物製品の形を型から砂型に移します。
型には金属性、木製などがあります。
- 造型2型込め型枠に模型を置いて砂を詰めていきます。
製品の形と共に湯口(湯を流し込む穴)も作ります。
鋳型の砂により製品の出来具合も変わるため鋳物工場では基準を決まて管理しています。
- 造型3中子(なかご)入れ製品に空洞部分がある場合に使います。
- 造型4型合わせ砂型の上型と下型を合わせます。
- 鋳込み注湯溶けた材料(溶湯)を取鍋(とりべ)から砂型に流し込みます。
電気炉から取り出した材料(溶湯)の温度はどんどん下がりますでの、注湯は定められた時間内で終えます。
この時サンプルも一緒に作り、硬さや成分の試験を行います。
- 解枠1砂バラシ鋳物が冷めて固まったら、砂型を崩し製品を取り出します。解枠(かいわく)。
- 解枠2砂落とし製品の表面についた砂を落とします。
砂落としには、ショットブラストを使います。
- 解枠3鋳仕上げバリや不要な鋳物(湯道等)を取ります。
ハンマー、グラインダー、ショットブラストなどを使います。
- 仕上げ仕上げ加工製品仕様で定められた機械加工をします。
- 検査検査外観や寸法を検査します。
加工しやすさと最終製品の強度
例えば、次の2つの要求がある場合。
- 製品を作るためには加工しやすくしたい。
- 最終製品は強度を上げたい。
加工しやすくするためには、次の方法があります。
- 焼き鈍し(やきなまし)をして軟らかくする。
- 金属組織から見ると、(変形しやすい方向に)結晶の向きを揃える。
一方、強度を上げるためには、
- 強度を上げる材料を混ぜる。
ことが必要となります。
つまり、作りやすくするための加工性と最終製品の強度とのバランスを取る必要があります。
材料選択には、コスト要求も無視できない、むしろ大きな選定理由となる場合が多いようです。
金属組織の観察とは
金属の組織観察が必要な理由としては、
- 金属材料に含まれる成分が規格を満足しているか確認し、保証するため。(品質保証)
- 製品不具合(ヒビやワレ)の原因を調べるため。
の大きく2通りかと考えています。
ここでは、金属の組織観察のうち、マクロ組織とミクロ組織について説明します。
マクロ組織:目視
試料(対象品)全体の組織、小さい穴(ピンホールやピット)などの欠陥組織を肉眼やルーペで観察します。
ミクロ組織:顕微鏡
次の様な、試料(対象品)の特定部分の組織を金属顕微鏡などで観察します。
- 鋳造、鍛造、熱処理、溶接の状態
- 金属結晶粒の大きさ、介在物の有無と分布など
通常は鏡面研磨した後に腐食液で腐食した表面を、100~400倍程度で組織を観察します。
同じ製品から切り取った金属組織であっても、鏡面の程度、腐食液、腐食時間、観察するタイミング、写真の倍率などにより、見え方が大きく違ってくることに注意が必要です。
製品に対して相対的に非常に小さな部分(範囲)を観察することになるため、マクロ組織の観察結果と併せて考察することがポイントの1つです。
ミクロ組織を観察するための研磨や腐食は、熟練のいる作業です。
標準組織というものもありますが、あくまでも1例と考えた方がよさそうです。
金属の組織試験方法(ミクロ組織の観察)
ここでは、金属の組織試験の方法について説明します。
金属の組織試験では、製品や金属材料から試料(試験部位)を切り出し、鏡面状態に加工、エッチング(薬品処理)してから観察します。
このため、試料の組織変化を起こさないように試料を調整・加工して観察します。
私は実験で1度やっただけですが、金属材料の研究室にいた同期の話では、鏡面状態の加工などにやたら時間がかかるため、漫画や夜食については充実していたと言っていたことを思い出しました。
試料採取(試料の切り出し)
観察する部分を切り出し、加工します。
試料埋込
小さい物や表面処理品を観察する場合には、扱いやすくするため、熱硬化性樹脂やエポキシ樹脂により試料を埋込みます(試料を固定します)。
研磨
試料を耐水研磨紙で#400(400番)から始めて、#2000(2000番)程度まで研磨し、平滑にします。
その後、研磨剤を塗布したバフで鏡面に仕上げます。
研磨自体は機械を使用しますが、エッチングしないと仕上がり具合を確認できないのが悩ましいところです。
エッチング(腐食)
合金相や結晶粒界を明確に識別できるようにするため、研磨した面をエッチングします。
エッチングには、電解エッチングや化学的エッチングの他様々な方法があります。
組織観察
顕微鏡で組織を観察し、写真を撮ります。
組織観察・判定
監査した画像から、材質や熱処理の状態、欠陥の有無などを読み取ります。
金属組織観察のポイント
専門用語ばかりですが、金属組織を観察する場合のポイントとキーワードを列挙します。
雰囲気だけでも伝わるとよいのですが。
- 析出物
- 大きさ、形状、分散(散らばり具合)
- 線状組織
- 線の間隔・長さ、線のある場所
- 結晶粒
- サイズ(大きさ)、形状、均一性
- 粒界(結晶粒の境界部分)
- 大きさ、形状、
- コントラスト(顕微鏡画像のコントラスト)
- 単相(一様)か、偏析(偏りのある析出)、加工組織、再結晶組織
- 割れ
- 深さ、幅、粒界にあるか、粒内にあるか
- エッチングの影響
- 孔の有無
- 大きさ、粒界にあるか、粒内にあるか、連続しているか
雑学:日本語の組織、英語の組織
日本語で「組織」というと会社などの組織を思い浮かべますが、次の様な組織があります。英語は全く別の言葉になっていて、英語と日本語との違いを感じます。
日本語 | 英語 |
---|---|
金属組織 | metal structure |
細胞組織 | cellular tissue |
会社組織 | company organization |
まとめ
中学生の頃顕微鏡で玉ねぎの細胞を観察した覚えがあります。
金属製部品(鋳物)の組織観察をすることになり鋳物の製造工程と組織観察について以下の項目でまとめました。
観察倍率を上げるほど観察範囲が狭くなるため、全体の観察結果と共に考察することがポイントです。
ここでは、
- 金属の組織とは
- 素材から最終製品になるまでに変化する金属の組織
- 加工しやすさと最終製品の強度
- 金属組織の観察とは
- マクロ組織:目視
- ミクロ組織:顕微鏡
- 金属の組織試験方法(ミクロ組織の観察)
- 試料採取(試料の切り出し)
- 試料埋込
- 研磨
- エッチング(腐食)
- 組織観察
- 組織観察・判定
- 金属組織観察のポイント
- 雑学:日本語の組織、英語の組織