2022年12月18日に、東海道新幹線で停電による運転見合わせがありました。
原因は、共振によるちょう架線の断線でした。
共振による不具合事例は、ニュースになることが少ないと思いますので、東海旅客鉄道(JR東海)Webサイトの以下の情報(資料)から、共振による不具合についてまとめました。
出典(PDF):「東海道新幹線 豊橋駅~三河安城駅間下り線におけるちょう架線断線の原因について」(令和5年2月22日 東海旅客鉄道株式会社)
東海道新幹線への電力供給設備について
下図は、この記事のアイキャッチにも使っている写真です。
新幹線の停車駅での写真ですが、新幹線に電力を送るために、車両の上方には、様々な形の金物や線があります。
図1 新幹線の車両と送電設備:停車駅
出典:Pixabayの画像(加工しています)
記事冒頭で紹介した資料によると、「ちょう架線が断線した」とあります。
下図は、新幹線の車両に電力を供給する主な部品です。
- ちょう架線:トロリ線を吊っている線
- ハンガ:トロリ線を吊るための金具
- トロリ線:車両に電力を供給する線
図2 新幹線に電力を供給する部分
ハンガ折損の原因と対策
記事冒頭で紹介した資料の「2.原因」から抜粋すると、
- 「ハンガの下部が金属疲労により折損し・・・」
- 「ハンガの振動の振幅が大きくなる「共振」という現象が列車通過毎に発生し、金属疲労が促進されたため」
とあります。
東海道新幹線の通過本数は、1日300本以上、しかも毎日休みなく続きます。じわじわとハンガに金属疲労によるダメージが蓄積され、最終的に折損したということです。
もう少し詳しく原因を見ていきます。
資料の別紙1の折損した原因の図を以下に引用します。
下図から、折損原因は、ハンガの上下端を固定した1次の振動モードによる共振によるものと読み取れます。
1次の振動モードであれば、上下どちらも折損の可能性はありますが、今回の例では、トロリ線を把持しているハンガ下部が折損しています。
図3 折損した原因の図
出典:出典(PDF):「東海道新幹線 豊橋駅~三河安城駅間下り線におけるちょう架線断線の原因について」(令和5年2月22日 東海旅客鉄道株式会社)の別紙1より。(図だけ切り抜いています。)
上述の原因に対する対策は、応急的な暫定対策と、根本的な対策を行う恒久対策があります。
暫定対策(いわゆる応急処置)
暫定対策(いわゆる応急処置)は、以下の3つです。
①ハンガの全数を新品に取替(完了)
②そのうえで、太いハンガ(径6mm→7mm)に順次置き換え、強化
③10日に1回の巡視点検による、列車通過時の振動状況等の確認
①は、新品に交換しました。
②は、共振による折損なので、ハンガの径を太くすることで、共振周波数を高い方向にシフトさせ、ハンガの長さや吊上げ力が特定の条件に合致しないようにすることです。
③は、②の置き換えが終わるまで、異常がないか点検しますということです。
恒久対策
恒久対策の「ハンガが共振しやすい条件を回避するため、ハンガの長さを最適化する架線構成に改修」については、ハンガの長さを短くするようです。
ハンガの長さを短くするということは、ハンガの共振周波数を高くして、共振を避けるということになります。
どの程度短くするかは、実際に共振が発生する原因や現象そのものをどの程度具体的に把握できているかによると考えています。
ハンガの振動現象のモデルから折損原因を考察
ここでは、ハンガ下端が折れた場合の原因について、考え方の1例を説明します。
ここでの考察は、実際の取付状態や列車通過によるハンガの挙動などの情報がないため、ハンガが設置されている写真から推測した考察の一例です。
振動問題を調べる際には、現場の観察と仮説に基づく計測による振動現象の確認が必要になります。シミュレーションの条件と現場が一致しているとは限りませんので。
ハンガが折れた原因
ここでは、ハンガが折れた原因は、一時的な衝撃ではなく、加振状態が連続して発生したことによる疲労破壊による折損と考えます。
実際には、折れたハンガの断面を観察することで、疲労破壊によるものか一時的に急激な力が加わって破損したかを判断することができます。
また、折れたハンガ以外のハンガを調べることで、微小なクラックの発生有無を確認することも必要になります。
上記の事例では、暫定対策①として、「ハンガの全数を新品に取替」を行っていますので、外観の目視観察やカラーチェックなどによるクラックの調査が行われるのではないでしょうか。
ハンガの取付方法と動き
ハンガの取付方法とどの様に動くか考えていきます。
下図の左側の図で、ハンガとその周りの部品について説明します。
- ちょう架線は、トロリ線を吊っている線です。
- ちょう架線に保護カバーを通しハンガ上端を掛けています。
- ハンガ上端は、保護カバーを介してトロリ線を吊っています。
- ハンガの下端には、トロリ線を把持する金具が取り付け(かしめ)られており、トロリ線を把持(固定)しています。
図4 ハンガの取付方法
上図の右側の図は、ハンガに加わる力とハンガの動きのイメージ図です。
ハンガの上下端の拘束条件は、次の様に考えられます。
- 車両のパンダグラフとトロリ線は、接触しており、車両が動く(進む)とトロリ線を介してハンガが動く(加振される)と考えられます。
- ハンガの下端は、トロリ線と固定(拘束)されています。
- ハンガの上端は、保護カバーを介してちょう架線と接していますが、拘束はされていないので、ちょう架線に対して動きます(拘束条件としては自由)。
ここで、さらに簡素化して考えると、次の様になります。
- ハンガは、下端から加振される(ハンガ下端に加振機を着けたイメージ)。
- ハンガ上端は、ちょう架線により左右の移動量に制限があるが、動く(拘束条件は自由)。
図で表すと、ハンガの振動モデルは、下図の様になります。
図5 ハンガの振動モデル
上図は、片端固定(単純支持)の梁のモデルになり、共振の1次の振動モード形は、下図の様になります。
梁の上端が左右に振動し、応力は梁の下端に集中するため、この状態が続くと梁の下端(固定部分)にクラックが発生し、やがて破壊(折損)します。
図6 梁の1次の振動モード形のイメージ
基本的な振動モード形については、以下をご参照ください。
ハンガが折れた原因(考察)
上記の結果から、(あくまでも私見ですが)、ハンガが折れるまでのプロセスは、以下の様になります。
- ハンガは、トロリ線に固定された下端が固定され、上端のトロリ線側はある程度自由に動く状態である。
- 列車通過によりハンガが加振される。
- この時の加振状態は、列車の速度がほぼ一定と考えると、ある一定周波数で加振している状態と考えられる。
- ハンガの固有振動数(共振周波数)は、ハンガの長さにより決まる。
- 加振周波数とハンガの共振周波数が近くなると、ハンガが共振する。
- ハンガの共振(列車通過)により、ハンガ下端部分に応力が集中する状態が繰り返され、ハンガの金属疲労が進み、やがて破壊する。
参考:鉄道専門用語のWebサイト
エアセクションとか、高速ヘビーシンプル化とか、鉄道の専門用語については、JRTT鉄道・運輸機構のWebサイトに説明があります。
電車線については、以下をご参照ください。
まとめ
2022年12月18日に、東海道新幹線で停電による運転見合わせがありました。原因は、共振によるちょう架線の断線でした。
共振による不具合事例は、ニュースになることが少ないと思いますので、東海旅客鉄道(JR東海)Webサイトの以下の情報(資料)から、共振による不具合について、以下の項目でまとめました。
- 東海道新幹線への電力供給設備について
- ハンガ折損の原因と対策
- 暫定対策(いわゆる応急処置)
- 恒久対策
- ハンガの振動現象のモデルから折損原因を考察
- ハンガが折れた原因
- ハンガの取付方法と動き
- ハンガが折れた原因(考察)
- 参考:鉄道専門用語のWebサイト