図面に寸法線を入れることは、部品の寸法を決めるだけではありません。公差を決めたり加工後のバラツキにも影響があります。寸法線の入れ方は設計者の意思を示す(公差を決める)ことになります。
前回は、寸法の入れ方と公差について説明しました。
公差を決める際には、加工方法や加工精度を考慮します。
例えば、公差±1といっても、「100±1」と「1000±1」とでは、モノづくり(加工)は大違いです。当然コストも納期も大きく違ってきます。
ここでは、直列と並列の寸法記入法による公差の違いと加工によるバラツキについて説明します。
なお、バラツキは、「ばらつき」が正しい言葉ですが、強調するため「バラツキ」を使っています。
寸法配置(直列か並列か)によるバラツキの違い
部品の公差について次のことが言えます。
- 公差から外れると検査不合格となり、不良品となる。
- 寸法(長さ)を大きくする場合、公差を変えないと加工精度を上げる必要がある(加工が難しくなる)。
例えば、長さ寸法(中級)の普通許容差は、下表の様になります。
寸法が大きくなると公差も大きくなっていることが分かります。
基準寸法の区分 |
0.5以上 3以下 |
3を超え 6以下 |
6を超え 30以下 |
30を超え 120以下 |
120を超え 400以下 |
---|---|---|---|---|---|
許容差 | ±0.1 | ±0.1 | ±0.2 | ±0.3 | ±0.5 |
下図は、同じ部品の直列寸法記入法と並列寸法記入法に公差(普通許容差)を入れた図です。
(通常、普通許容差の場合、図面には記入しません。)
図1 直列寸法記入法と並列寸法記入法と公差
部品全体の長さ
上図の部品の全体の寸法(長さ)に注目します。
直列寸法記入法の場合、
- 全体の寸法は、「140=20+50+20+50」
並列寸法記入法の場合、
- 全体の寸法は、直接指定されている「140」
となります。
部品の一部(青色部分)の寸法
上図の青色の部分の寸法に注目します。
直列寸法記入法の場合、
- 青色部分の寸法は、直接指定されている「20」
並列寸法記入法の場合、
- 青色部分の寸法「20」は、「20=90-70」から求めます。
直列寸法記入法と並列寸法記入法とで同じ寸法となります。
部品の一部(青色部分)の公差
上図の青色の部分の公差に注目します。
直列寸法記入法の場合、
- 青色部分の公差は、直接指定されている「±0.2」
並列寸法記入法の場合、
- 青色部分の公差は、寸法「90」と「70」の公差「90±0.3」と「70±0.3」から、「20±0.6」になります。
つまり、青色部分の公差は、寸法記入方法により次の様に違ってきます。
- 直列寸法記入法:19.8~20.2の範囲でのバラツキはOK
- 並列寸法記入法:19.4~20.6の範囲でのバラツキはOK
公差の求め方については、以下をご参照ください。
寸法記入方法と全体の寸法公差
直列寸法記入方法と並列寸法記入法とでは、公差が違ってくることが分かりました。
直列と並列寸法記入法の違いは、下表の様に公差に影響があります。
直列寸法記入法 | 各寸法公差が累積する。他の寸法公差の影響を受ける。 |
---|---|
並列寸法記入法 | 各寸法公差が独立している。他の寸法公差に影響を受けない。 |
次に寸法記入方法による違いを上図の部品全体の寸法で確認します。
直列寸法記入法による全体の公差
下図は、直列寸法記入法の図面に公差を入れた図です。
図2 直列寸法記入法と公差
上図において、全体の寸法と公差は、次の通りです。
- 全体の寸法は、「140=20+50+20+50」
- 全体の公差は、「20±0.2」、「50±0.3」、「20±0.2」、「50±0.3」から「140±1」
並列寸法記入法による全体の公差
下図は、並列寸法記入法の図面に公差を入れた図です。
図3 並列寸法記入法と公差
上図において、全体の寸法と公差は、図面で直接指示されており次の通りです。
- 全体の寸法は、「140」
- 全体の公差は、「140±0.5」
全体寸法の公差の違い
上述の通り、
- 直列寸法記入法の公差は「±1」、バラツキは139~141の範囲
- 並列寸法記入法の公差は「±0.5」、バラツキは139.5~140.5の範囲
となり、並列寸法記入法の方が公差が厳しいことが分かりました。
つまり、
- 直列寸法記入法よりは加工精度が厳しい。
- バラツキが小さいことを要求されている。
ことになります。
公差と加工精度
これまで説明してきたことから、公差を決める際には次のことを考慮する必要があります。
- 加工(モノづくり)方法を考慮して公差を決める。
- 仕様(機能)上必要な部分には、必要な公差を指定する。
モノづくりは、QCDのバランスが重要であり、品質とコストの80%を決めるのは設計だと言われています。
公差を決める際には、使用だけでなく、モノづくりのコストを考慮する必要があるということです。
設計者が図面を描く際には、必要な公差を決めてから寸法線を入れることが重要です。
公差に関するエピソード
公差(普通許容差)は、一般的な加工精度に比べると十分に大きい(幅がある)ため、公差ギリギリまで加工寸法がバラツクことはないと言われています。
しかし、部品の製作数が1万個とか10万個と増えていくと、偶発的に寸法がバラツクものが出てきます。この際、次の様に寸法公差が問題になることがあります。
- その部品を使うと組立ができない。(当然、不良品扱い)
- その部品単品は、公差内で良品。
原因は設計であることは明確なので、
- 設計者は原因と対策を考える。
- 図面の変更対応をする。
- しかも、原因不明な状況なので製造(ライン)が止まっているため、急ぎの対応が求められる。
設計者の気持ちの中に、「1万個の1個で偶発的なものなのだから、良品部品と交換して終わりにしてくれないかな・・・。」と思いたくなる気持ちも分かります。
しかし、製造側にしてみれば、(発生する確率はとても低いが)再発すれば製造側の責任になってしまうし、設計の問題なのだからきちんと対応して欲しいのも事実です。
1個だけだからと品証に泣きついても、「図面通りなので、組立できない部品でも、その部品は良品なので設計で対応してください。」と言わざるえない。
結局、設計者が図面の品質向上を積み重ねていくしかないということです。
ちょっと身も蓋も無い話になってしまいましたが、「継続は強し」は事実なので設計の力量を上げていきましょう。
まとめ
図面に寸法線を入れることは、部品の寸法だけでなく公差を決めることも必要です。
公差は、加工方法や加工精度を考慮して決めます。例えば、公差±1といっても、「100±1」と「1000±1」とでは、モノづくり(加工)は大違いです。当然コストも納期も大きく違ってくるからです。
ここでは、直列と並列の寸法記入法と加工によるバラツキについて以下の項目で説明しました。
- 寸法配置(直列か並列か)によるバラツキの違い
- 部品全体の長さ
- 部品の一部(青色部分)の寸法
- 部品の一部(青色部分)の公差
- 寸法記入方法と全体の寸法公差
- 直列寸法記入法による全体の公差
- 並列寸法記入法による全体の公差
- 全体寸法の公差の違い
- 公差と加工精度
- 公差に関するエピソード