設計初心者が設計知識や経験を積んでいく場合、最初は単一部品で形状もシンプルなものから手掛け、図面を描くこと(CADの操作)に慣れていくと共に、部品の形状を決める、つまり、寸法や公差をどの様に決めていくかが設計者としての課題(仕事)となっていきます。
部品の形状を決めることは、寸法と公差を決めていくことでもあり、単一部品であれば、JIS B 0405の普通公差を適用することが多いと思います。例えば、部品寸法に普通公差の4つある公差等級(精級、中級、粗級、極粗級)のどれを適用するか決めていきます。
JIS B 0405の普通公差については、以下の記事をご参照ください。
公差を厳しくする(高い加工後の寸法精度を求る)ことは、加工コストに直結しますので、設計者としては精度が必要な部分を明確に意識して、必要な公差を具体的に図面に指示することになります。
さらに複数の部品を組み合わせた組立品を設計する場合には、CAD上の理想的な形状ではなく、部品の形状や加工方法に加え、組立方法(組立られるか)にも配慮し、公差内に仕上げられた加工後の部品を組み合わせた組立品を具体的にイメージして形状や公差を決めていくことになります。
ここでは、公差に関するJIS規格のうち、金属製品に関する公差について紹介します。
金属製品の公差に関する代表的なJIS規格
JISの普通公差とは、以下規格のことです。
JIS B 0405-1998(ISO 2768-1:1989)
「普通公差-第1部:個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する公差」
JIS B 0405の普通公差の対象は、
- 金属の除去加工(metal removal)(金属を削る加工)
- 板金成形(forming from sheet metal)によって製作した部品の寸法
と書かれており、いわゆる切削加工品と板金成型品のことです。
下表は、JIS B 0405の普通公差から引用した長さ寸法の公差表です。
表1 面取り部分を除く長さ寸法に対する許容差(単位:mm)
公差等級 | 基準寸法の区分 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
記号
|
説明
|
0.5 | 3 | 6 | 30 | 120 | 400 | 1000 | 2000 |
以上 | を超え | を超え | を超え | を超え | を超え | を超え | を超え | ||
3 | 6 | 30 | 120 | 400 | 1000 | 2000 | 4000 | ||
以下 | 以下 | 以下 | 以下 | 以下 | 以下 | 以下 | 以下 | ||
許容差 | |||||||||
f | 精級 | ±0.05 | ±0.05 | ±0.1 | ±0.15 | ±0.2 | ±0.3 | ±0.5 | – |
m | 中級 | ±0.1 | ±0.1 | ±0.2 | ±0.3 | ±0.5 | ±0.8 | ±1.2 | ±2 |
c | 粗級 | ±0.2 | ±0.3 | ±0.5 | ±0.8 | ±1.2 | ±2 | ±3 | ±4 |
v | 極粗級 | – | ±0.5 | ±1 | ±1.5 | ±2.5 | ±4 | ±6 | ±6 |
設計の際は、加工コストなども考慮し、4段階の公差等級のどれを適用するかを決めていきます。
公差等級を上げていくことは、加工精度を高くすることになりますので、当然コストアップにつながります。
設計者の心理としては公差を厳しくしたい(公差等級を上げたい)ところですが、そうすれば加工コストだけでもなく、納期も長くなりがちなので、必要な最低限の加工精度を図面に公差として指定することが必要になります。
複数の部品を組み合わせた組立品(製品)の場合には、1つ1つの部品の公差を厳しくするのではなく、例えば箱に蓋を固定する場合、箱と蓋の穴を丸ではなく楕円にする方法なども検討します。
公差の考え方としては、完成品(製品)として必要な公差を決めることがポイントの1つだと考えています。
組立品(製品)の公差については、設計初心者から受けた質問の例を後述します。
金属製品の公差に関するJIS規格
ここでは、金属製品に関するJIS規格を紹介します。
金属加工品の普通公差に関するJIS規格
金属加工品の普通公差については、JIS B 0405が基本です。
金属プレス加工(打ち抜き、曲げ、絞り加工)、金属せん断加工と、加工方法により公差が違ってきます。
例えば楕円の穴は、ドリルで穴を開ける(切削)するよりも、型を使いプレスで抜いてしまうのが一般的になっていたりする(しかも安くて速い)ので、加工設備を含めた加工コストはモノづくりにおいて重要なポイントの1つです。
規格番号 | 規格名称 |
---|---|
JIS B 0405 | 普通公差-第1部:個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する公差 |
JIS B 0408 | 金属プレス加工品の普通寸法公差 |
JIS B 0410 | 金属板せん断加工品の普通公差 |
鋳造品に関するJIS規格
鋳造品、型(木型、金属型)を作る。型を使って砂型を作る。砂型に溶かした金属を流し込む、型から取り出して加工するのが鋳造品です。
規格番号 | 規格名称 |
---|---|
JIS B 0403 | 鋳造品-寸法公差方式及び削り代方式 |
どんな形状の物だったかは覚えていないのですが、実際に砂型に砂をいれて固め、型を外したら縁が欠けたりして意外に難しかったことを覚えています。今は機械化も進んでいますが、型に砂などノウハウがいっぱいです。
鍛造品に関するJIS規格
自動車の部品など強度や加工精度が必要な部品を大量に生産する場合には鍛造が使われます。
鍛造の公差も、加工方法により違っています。
規格番号 | 規格名称 |
---|---|
JIS B 0415 | 鋼の熱間型鍛造品公差(ハンマ及びプレス加工) |
JIS B 0416 | 鋼の熱間型鍛造品公差(アプセッタ加工) |
自動車の部品だと1ロット10,000個以上の万単位ですが、1個不良品を出荷してしまうと、全員で全数チェックするそうです。
「全数検査しても不良品は最初に見つかった1個だけです。」といった担当者の方の言葉が耳に残っています。
締結用部品(ボルト、ナット類)に関するJIS規格
ボルト、ナット類についても規格があります。
規格番号 | 規格名称 |
---|---|
JIS B 0421 | 締結用部品の公差-第1部:ボルト,ねじ,植込みボルト及びナット-部品等級A,B及びC |
JIS B 0422 | 締結用部品の公差-ボルト,小ねじ及びナット用の座金-部品等級A,C及びF |
溶融亜鉛めっき品の場合、オーバータップが必要になったりします。
溶融亜鉛めっきの規格(JIS H 8641)とめっき試験の規格(JIS H 0401)が整理され、ISOとの整合が進んでいます。
- JIS H 8641 溶融亜鉛めっき(2021/12/20)
- JIS H 0401 溶融亜鉛めっき試験方法(2021/12/20)
溶融亜鉛めっきのJIS規格改正内容については、以下をご参照ください。
参考:JIS規格の参照先
JIS規格は、登録が必要ですが日本産業標準調査会(JISC)のWebサイトで全文を見ることができます。
日本産業標準調査会(JISC)の「JIS検索」は、以下のリンク先を参照してください。
質問「組立品に、JIS B 0405の普通公差を適用していいのか」
設計初心者の方から、次の様な質問を受けたことがあります。
単一部品ではJIS B 0405の普通公差を適用しています。複数の部品からなる組立品(いわゆる製品としての完成品)にも普通公差を適用してよいのでしょうか?
最初は何を聞かれているのか分からなかったので、話を聞いてみると、どうやら次の内容だと分かりました。
- 単一部品の公差は、部品図で普通公差を適用している。
- 組立品の公差は、組立図で普通公差を適用してよいのか?
具体的な例で説明できないので分かりにくいかもしれませんが、次の様に考えています。
- 基本は、部品図で示した寸法と公差は、組み合わせた場合に組立品(製品)として成立するように設定する。(部品図で示される公差)
- 実際に加工した複数の部品を組み立てた場合、組立品(製品)として必要な寸法や公差を設定する。(組図で示される公差)
つまり、
- 設計者は、部品単体に必要な公差と組立品(製品)に必要な公差を決める。
ということになります。
したがって、「組立品(製品)にJIS B 0405の普通公差を適用してよいのか?」と質問されても、その意味するところが漠然としすぎていて答えようがないというのが正直なところです。
公差とは、設計者が部品や組立品(製品)として機能を発揮するために必要な寸法と公差を加工方法や組立なども考慮して決めるものであり、その結果JIS B 0405の普通公差で十分であればこれを適用するということになると考えています。
かなり抽象的であいまいな内容になってしまいましたが、似たような質問や疑問は意外に耳にしますし、それに対し的確に回答している設計者は多くはないなと言うイメージがあります。
(私の個人的な感想です。)
まとめ
設計初心者が設計知識や経験を積んでいく場合、最初は単一部品で形状もシンプルなものから手掛け、図面を描くこと(CADの操作)に慣れていくと共に、部品の形状を決める、つまり、寸法や公差をどの様に決めていくかが設計者としての課題(仕事)となっていきます。
公差を厳しくする(高い加工後の寸法精度を求る)ことは、加工コストに直結しますので、設計者としては精度が必要な部分を明確に意識して、必要な公差を具体的に図面に指示することになります。
さらに複数の部品を組み合わせた組立品を設計する場合には、CAD上の理想的な形状ではなく、部品の形状や加工方法に加え、組立方法(組立られるか)にも配慮し、公差内に仕上げられた加工後の部品を組み合わせた組立品を具体的にイメージして形状や公差を決めていくことになります。
ここでは、公差に関するJIS規格のうち、金属製品に関する公差について以下の項目で説明しました。
- 金属製品の公差に関する代表的なJIS規格
- 金属製品の公差に関するJIS規格
- 金属加工品の普通公差に関するJIS規格
- 鋳造品に関するJIS規格
- 鍛造品に関するJIS規格
- 締結用部品(ボルト、ナット類)に関するJIS規格
- 参考:JIS規格の参照先
- 質問「組立品に、JIS B 0405の普通公差を適用していいのか」