航空機が音速を超えた時に発生するのが衝撃波、衝撃波が地上(海面)で雷のような音として聞こえるのがソニックブームです。
航空祭(エアショー)の展示飛行などの写真をWebで見ていると、音の壁を突き抜けた現象の写真として、機体の周囲に丸い雲が発生した様な写真を見かけます。これは、ベイパーコーンと呼ばれる現象で、衝撃波とは別の現象です。
- 衝撃波の画像(写真)は、シュリーレン法とよばれる特殊な撮影装置を使います。
ここでは、米国空軍のWebサイトのソニックブームの説明などを参考にして、ソニックブームとベイパーコーンについて説明します。
超音速飛行による衝撃波とソニックブーム
ソニックブームとは、超音速で飛行する航空機により発生した衝撃波が、空気による圧力波となり、地面(海上)に到達した時に発生する雷と似たような衝撃音のことです。
- 音速は、海面では約1,200(km/h)
- 衝撃波は、船が進むことにより船首により発生する波面に似た現象で、波面が伝わる様子がソニックブームのイメージです。
下図は、超音速非行によるソニックブームのイメージです。
- 航空機が音速を超えると衝撃波(下図の赤線)が発生します。
- 航空機が下図左方向に進んでいくと、衝撃波により発生した圧力波(音)が下図右方向に伝わっていきます。
- 発生した圧力波(音)が、地上に伝わると、地上では衝撃音が聞こえますが、航空機はすでに通り過ぎていますので、音だけが聞こえます。
- この衝撃音がソニックブームです。
- 大きい音(衝撃音)は、空気による圧力波なので、窓ガラスなどを割る様なケースもあるようです。
図1 超音速飛行によるソニックブームのイメージ
ソニックブームによる圧力の変化は急激なもので、およそ0.1m2当たり2kg程度です。
- この圧力の変化量は、エレベーターで2回か3回降りる時と同じ程度です。
ソニックブームの波形
ソニックブームの波形は、N波とU波とがあります。
- N波は、定常飛行状態から発生し、これにより発生する圧力波の形がN字型をしている。
- U波は、旋回などの運動をしている状態から発生し、これにより発生する圧力波の形がU字型をしている。
ソニックブームの波形の話は、専門的過ぎて個人的にも理解できていないので、この辺で・・・。
衝撃波により発生した音は、空気により地上に伝わりソニックブームとなります。
ソニックブームの特徴と対策
航空機の超音速飛行により発生した衝撃波が、地上で音として聞こえるソニックブームについて説明します。
ソニックブームの周波数範囲と持続時間
ソニックブームのエネルギー範囲は、周波数では0.1~100(Hz:ヘルツ)の範囲に集中しています。
- 100(Hz)の音は、航空機や工場などの騒音よりもかなり低い音です。
ソニックブームの継続時間は、機体の大きさによりますがとても短いです。
- 戦闘機サイズで100(ms)、0.1秒
- スペースシャトルやコンコルドで500(ms)、0.5秒
ソニックブームの経路と範囲
ソニックブームの経路(進行方向)と範囲は、航空機の機体形状や操縦方法(機体の飛行状態)により変化し、次の様になります。
- 航空機の飛行高度が高くなるほど、より広い範囲に影響が出る。
- 航空機の移動経路の真下が、最も影響が大きい(圧力波が強い)。
例えば、
- 高度9,000(m)で超音速飛行した場合、横方向への広がりは約38(km)となる。
- 一定速度での超音速飛行の場合、ソニックブームも航空機と共に移動する。(カーペットブームという。)
- 飛行条件(加速や旋回運動など)におり、ソニックブームが強くなったり弱くなったりします。
気象条件によるソニックブームへの影響
ソニックブームは、気象条件にも影響を受けます。
- 気象条件により、ソニックブームがゆがむ場合もあります。
ソニックブームによる音を地上で必ず聞くことができるとは限りません。
- 航空機の飛行高度にもよりますが、ソニックブームは上空を通過してから2~60秒後に地上に到達します(音が聞こえます)。
音速は、気温や高度により変化します。
- 標準的な大気条件(気象条件)では、高度が上がると気温は下がります。
- 海面温度(高度:0m)が14.4度の場合、高度9,000(m)では-45度
- 空気層の温度変化(温度勾配)により、音の進行方向は上方に曲がります。
- 音速は、高度9,000(m)の場合1,080(km/h)、地上では1,207(km/h)
超音速飛行の制約
航空機の超音速飛行により発生するソニックブームによる地上への影響を防ぐため、米国空軍では次のようなルールとなっています。
- 飛行高度は3,048(m)以上
- 海岸から24(km)以内の外洋上空
- 陸上での超音速飛行は、9,144(m)以上か、特別に指定された区域
ソニックブームの研究例
下図は、NASAによるソニックブームを低減させる航空機設計のための試験飛行の写真です。
- F-15B(Aeronautics Research Test Bed:飛行研究用の試験機)の機首に伸縮可能なブーム(黒い部分)が取り付けられています。
- 伸縮可能なブームの長さとソニックブームによる騒音レベルとの関係を調べる試験飛行です。
図2 NASAのF-15Bによる試験飛行
F-15Eストライクイーグルの詳細については、以下の記事を参考にしてください。
ベイパーコーンとは
航空際(エアショー)での展示飛行の写真で、ベイパーコーン(vapor cone)とよばれる写真を見ることがあります。
音速を超えた衝撃波の写真として紹介されている場合もありますが、衝撃波ではありません。
ベイパーコーンとは、機体表面が低圧になることで発生する水蒸気(雲)のことです。
下図は、F-22ラプターのベイパーコーンの写真です。
- 写真のキャプションには、「Going supersonic」とありますが、音速で飛行しているわけではないと思われます。
- 主翼左右端から後方に細長く伸びているのは飛行機雲です。
図3-1 ベイパーコーン:F-22ラプター
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図は、F-35AライトニングIIのベイパーコーンの写真です。
- 音の壁を突破した様なイメージを受けますが、衝撃波の写真ではありません。
図3-2 ベイパーコーン:F-35AライトニングII
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図は、F/A-18Eスーパーホーネットのベイパーコーンの写真です。
- キャプションには、「breaks the sound barrier」とありますが、音速で飛行しているわけではないと思われます。
図3-3 ベイパーコーン:F/A-18Eスーパーホーネット
出典:US NAVY(米国海軍)のWebサイト<Home > RESOURCES > Photo Gallery>からの画像
下図は、B-1Bランサーのベイパーコーンの写真です。
B-1Bランサーは、可変翼の戦略爆撃機で大型の機体です。
図3-3 ベイパーコーン:B-1Bランサー
出典:ANDERSEN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
参考資料
この記事では、USAF(米国空軍)のWebサイトの以下の記事を参考にしています。
まとめ
航空機が音速を超えた時に発生するのが衝撃波、衝撃波が地上(海面)で雷のような音として聞こえるのがソニックブームです。
航空祭(エアショー)の展示飛行などの写真をWebで見ていると、機体の周囲に丸い雲が発生した様な写真を見かけます。これは、ベイパーコーンと呼ばれる現象で、衝撃波とは別の現象です。
ここでは、米国空軍のWebサイトのソニックブームの説明などを参考にして、ソニックブームとベイパーコーンについて、以下の項目で説明しました。
- 超音速飛行による衝撃波とソニックブーム
- ソニックブームの波形
- ソニックブームの特徴と対策
- ソニックブームの周波数範囲と持続時間
- ソニックブームの経路と範囲
- 気象条件によるソニックブームへの影響
- 超音速飛行の制約
- ソニックブームの研究例
- ベイパーコーンとは
- 参考資料