ここでは、ホームランを振動から考えてみる方法の1つとして、振動モード形状に着目したバットの振動解析について、以下の項目について説明します。
- 共振現象と周波数応答関数(伝達関数)
- 実験モード解析
- 実稼動解析
モード解析のシミュレーションは、有限要素法(FEM)の固有値解析になります。
共振現象と周波数応答関数(伝達関数)
ロボットや工作機械のびびり振動、建物の揺れ、自動車や家電製品等の振動・騒音の原因の一つに共振があります。
あらゆる構造物には、それぞれ固有振動数(構造物固有の共振周波数)があり、構造物に加わる振動と固有振動数とが一致すると、構造物は共振し、騒音が発生したり、場合によっては破壊することもあります。
共振による橋の破壊については、タコマナローズ橋の強風による落橋の例があります。ウィキペディアのリンク先を上げておきます。
振動現象の解析方法1つに、インパルスハンマによる対象物の周波数応答関数の計測結果を利用する実験モード解析があります。
インパルスハンマによる加振は、構造物を加振器に取り付ける必要もなく、計測時間も短いので、トラブルシューティングを始めとする現場計測に適しています。
次項で、周波数応答関数(伝達関数)のデータを利用して、振動を可視化できる実験モード解析について説明します。
実験モード解析により構造上の弱点を見つけたり、防振、防音などの対策や設計変更に役立てることができます。
実験モード解析
実験モード解析では、対象となる構造物の形状に計測ポイントを定め、その各々のポイントにおける周波数応答関数(伝達関数)の位相とゲイン(大きさ)の情報から、これらの構造物が共振(振動し易い周波数で振動する)した時の振動モード形を可視化します。
特長を、以下に列挙します。
- 解析対象全体の振動特性を調べる場合に用いる手法
- 共振状態での対象の挙動が可視化されるため、有効な対策を検討しやすくなる。
- 実験モード解析のソフトウェアによっては、構造変更シミュレーション(試作を作成する前に対策の効果を検討できる)の機能を持つものもあります。
実稼動解析
実稼動解析(Operating Deflection Shape)とは、構造物や機械等が実際に使われている状態での振動を可視化し、構造的に弱い(変形しやすい)部分の検証などをすることができます。
実験モード解析では、周波数応答関数(伝達関数)を使用します。
一方、実稼動解析では、運転(実稼動)状態の対象物の応答信号(パワースペクトルとクロススペクトル)を計測し、実際(実稼動状態)の振動形状を可視化しています。
実験モード解析と比べた場合の特長を以下に列挙します。
- 外部から加振できない、加振が難しい場合にも適用できる。
- 通常の運転状態で計測するため加振設備は不要となる。
- 計測時対象の稼動を中断する必要がない。
- 計測データ(応答)は、対象が実際に運転(稼動)している状態を表している。
また、実稼動解析は、使用する計測データの種類により、以下の2つに分類することができます。
- 時間データからの実稼動解析
- 多点同時計測による時間軸データによる実稼動解析
- 非線形、または非定常な条件での計測が可能
- 周波数データからの実稼動解析
- パワースペクトルとクロススペクトルから、各点の振幅および位相を計算し可視化する。
- 1点ごとに計測可能なので、2チャンネルのFFTアナライザでも計測できる。
- 定常現象、または計測データの再現性が必要となる。
まとめ
ここでは、ホームランを振動から考えてみる方法の1つとして、振動モード形状に着目したバットの振動解析について、以下の項目を説明しました。
- 共振現象と周波数応答関数(伝達関数)
- 実験モード解析
- 実稼動解析