「部品が変形している。」とか「部品にひび(クラック)がある。」といった不具合(クレーム)がくると、現物(不具合品)を確認して、変形やひびの原因を調査します。
一概には言えませんが、外観を観察することで原因を推測できると、再現実験や再現試験をします。
- 再現実験は、不具合品と同じ様な変形やひびを発生させるために行います。
- 再現試験は、部品(製品)仕様に基づく試験を行い、不具合品と同じ様な変形やひびが発生するか確認することです。
日頃、実験と試験や実験とCAEシミュレーションの違いについて、明確に意識して使い分けてはいないようなイメージがありますが、実験と試験は似て非なるものです。
ここでは、再現実験と再現試験、実験と試験の違いについて説明します。
再現実験と再現試験のイメージ
例えば部品の変形による不具合の原因を調べ対策を立てる場合、
- 部品を観察
- 原因を推測
- 再現実験
- 結果の検証
と進め、原因と対策を検討していきます。
CAEシミュレーションを加えると、
- 部品を観察
- 原因を推測
- CAEシミュレーション
- 実験(シミュレーション結果の検証)
- 結果の検証
となります。
不具合対策で「再現実験」をする場合は、
- 通常の使い方(仕様書通りの使い方)であれば発生しない様な不具合(変形や破壊)が起きた場合に、どの様にな使い方をしたら不具合と同じような変形や破壊が発生するか調べて欲しい。
といった不具合というより、変形や破壊の原因調査の依頼の形となることがあります。
同様の不具合で「再現試験」という場合には、
- この様な条件で力を加えると同じ様な変形をする。
ことが明確に分かっている場合であり、変形の検証実験の様なイメージになります。
まとめてみると、
- 変形の原因が明確に分かっている場合には「再現試験」となり、文字通り再現性がある。
- 「再現実験」という場合には、この様な(仕様外、想定外)の条件により変形することがありますよ。(だから、正しい使い方をしてくださいね。)
という意味合いになります。
再現実験と再現試験、難しいのは再現実験
再現試験は、試験方法や基準が明確なので当たり前なのですが、同じ試験方法であったとしても再現実験の方が難しくなります。
再現実験では、原因が分からないので、試行錯誤しながら実験の条件や方法を決めて実験を行い、実験の結果が不具合と似た様な状態になれば、「この様な条件で実験をしたところ、不具合と似たような状態になることを確認しました。」と報告することができます。
つまり、再現実験は、あくまでも推測の範囲で報告するということです。
不具合調査の手段として再現実験をしたのに、あいまいな報告となるのですが、実際の不具合では製造メーカーとしての立場だけでなく、発注者、実際に作業した会社などの利害関係者が複数いるので、事象については明確(具体的)に報告しますが、原因がある程度推測できても、仕様外の使い方である場合などは、製造メーカーとしてはそこまで踏み込まないことが多いようです。
なお、再現試験が簡単だというわけではありません。
例えば、金属材料の引張試験において、試験片の取り付け方でも、試験片の中央が伸びて破断するようにチャッキング(試験片を引張試験機のチャックに固定すること)するのは、観察力と経験(たぶんセンスもある)が必要です。
引張試験については、以下の記事をご参照ください。
英語の実験と試験の意味
参考までに、実験と試験を表す英語は、
- 実験は、experiment
- 試験は、test
- 学校の試験は、examination
であり、実験と試験を明確に使い分けているわけではなさそうです。
CAEシミュレーションも実験も同じ思考過程?
手順の定まった実験(試験に近いイメージ)でも、手順を含めて試行錯誤しながら行う実験でも、次のことを体験することは、言葉では説明できない気づきがあったり、経験を得ることができます。
実験の大きな流れ(思考過程)は、次の通りです。
- 現物や現象を自分の目で観察する。
- 仮説(この実験をしたらこうなるはず)を立てる。
- 仮説に基づく実験を行う。
- 実験結果で仮説を検証する。
2000年代の大学の工学系の研究室でも実験の機会は少なくなっていました。
実験が減っているのは、実験を補う手段として、CAEと呼ばれるシミュレーションを、パソコンで行うことができるようになったことも一因かと思います。
実験ではなくシミュレーションを行う場合でも、
- シミュレーションしたい物(モデル)や現象を設定する。
- 仮説(このシミュレーション条件ならこうなるはず)を立てる。
- 仮説に基づくシミュレーションを行う。
- シミュレーション結果で仮説を検証する。
といったように、実験と同じ様な流れ(思考過程)があります。
実験とシミュレーショには、それぞれ得意な分野があります。
- 実験は基本的に1回限りの一発勝負の傾向が強く、全く同じ実験結果を得るのはは難しいことです。
- 一方、CAEによるシミュレーションは、繰り返しや解析条件(試験条件)を変えたシミュレーション結果を比較することは容易です。
実際の事象(変形や破壊)の原因が分からない場合、実際の事象と同じ様な実験をして観察することがあります。
- シミュレーションは、どの様な試験条件でも設定できるように思われがちですが、あくまでも、設定した試験条件(シミュレーション条件)に対する、解析結果を得ていることには注意が必要です。
- 実験側の視点からみると、実験の条件を限定しようとしても、気づいていない条件も含めた条件かでの実験結果であることに注意が必要です。
実験もCAEシミュレーションも、対象はリアルな現物や現象です。
観察、仮説、実験(シミュレーション)、仮説の検証という順に考えていく思考過程は共通です。
実験とCAEシミュレーションのポイントの例として、
- 実験は、1回限りという特性から、観察すること、実データを分析することがポイントになってきます。
- CAEシミュレーションは、様々な条件を設定し結果を得られることから、目的に対し適切な解析モデル、条件と結果の関係を分析することがポイントになってきます。
といった違いがあります。
結局、実験でもCAEシミュレーションでも「自分の頭で考えてやってみる」ことが、実際のモノづくりをする上で重要な体験となると考えています。
野球の金属バットを対象に、実験による振動解析とFreeCADをつかったFEM(有限要素法)解析による振動解析について、以下のKindle本にまとめています。
冊数でいくとCAEが多いのですが、補足長く実験もお買い上げ頂いています。
紙の本(Kindleペーパーブック)もありますので、ご興味のあるかたはAmazonをのぞいてみてください。
まとめ
「部品が変形している。」とか「部品にひび(クラック)がある。」といった不具合(クレーム)がくると、現物(不具合品)を確認して、変形やひびの原因を調査します。
外観を観察することで原因を推測できると、再現実験や再現試験をします。
- 再現実験は、不具合品と同じ様な変形やひびを発生させるために行います。
- 再現試験は、部品(製品)仕様に基づく試験を行い、不具合品と同じ様な変形やひびが発生するか確認することです。
日頃、実験と試験や実験とCAEシミュレーションの違いについて、明確に意識して使い分けてはいないようなイメージがありますが、実験と試験は似て非なるものです。
ここでは、再現実験と再現試験、実験と試験の違いについて、以下の項目で説明しました。
- 再現実験と再現試験のイメージ
- 再現実験と再現試験、難しいのは再現実験
- 英語の実験と試験の意味
- CAEシミュレーションも実験も同じ思考過程?