2020年代のステルス戦闘機と言えば、F-22ラプターや航空自衛隊にも導入されているF-35で、第5世代の戦闘機となります。
そして、世界初のステルス機として実戦投入されたのがF-117ナイトホークです。現在のステルス機の丸味を帯びた機体形状とは異なり、平面が際立つ独特の機体です。
正式に退役していますが、2021年9月現在訓練で使用されているF-117ナイトホーク(Nighthawk)についてロッキードマーチン社のWebサイトと米国空軍の第144戦闘航空団(144TH FIGHTER WING)のWebサイトの情報からまとめています。
2023年5月のノーザン・エッジ23-1でも飛んでいます。
F-117ナイトホークとは
F-117ナイトホークは、世界で初めて実戦に投入されたステルス機です。
F-117ナイトホークの開発目的は、
- 敵に探知されることなく活動できるジェット戦闘機を求める国家的な緊急課題に応えるため
であり、敵のレーダーに感知されずに行動できるという大胆な要求であると共に、短期間での設計・開発を要求されるものでした。
F-117の開発は、スカンクワークスが担当し、極秘かつ短期間で開発されました。
1970年代に入り、新素材や新技術によりレーダーを回避する「ステルス性」を備えた航空機の設計が可能になりましたが、当時の技術(コンピュータや解析技術)ではF-117のような平面反射を考慮するのが現実的な設計限界でもあったようです。
F-117の特長は、文字にすると次の様な内容になりますが、その外観を見れば一目瞭然です。
- 伝統的な流麗な航空機デザインとは異なり、F-117はレーダー波を反射する平面を組み合わせたユニークなデザインを採用
- 角張ったパネルにレーダー吸収材を外付け、レーダーからはほとんど見えない(観測されない)。
図1 F-117:Bombs over Baghdad
出典:HOLLOMAN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
スカンクワークスについては、以下にまとめています。
1975年:ステルス実証機「ハブ・ブルー」の契約獲得
F-117の開発の始まりは、1975年の夏、米国防総省国防高等研究計画局(DARPA:The Defense Advanced Research Projects Agency)による「ポールオフ(pole-off)」と呼ばれるコンペからです。
ここで提案されたスカンクワークスの設計は、他に類を見ない被発見性(観測性)を示し、やがてF-117ナイトホークにつながステルス実証機「ハブ・ブルー(Have Blue)」の契約を獲得することになりました。
1977年:ステルス実証機ハブ・ブルー(Have Blue)初飛行から納入まで
1977年:Have Blueの初飛行成功
- DARPAは、スカンクワークスにナイトホークの契約を発注します。
1981年、契約締結からわずか31か月後、ナイトホーク初飛行。
1982年、納入開始
契約締結から短期間で納入開始に至ったのは、それまでのスカンクワークスと米国空軍との良好な(歴史的な)パートナーシップによるものです。
F-117ナイトホークの運用開始(極秘運用)
1983年、F-117ナイトホークは初期運用を開始したものの、長い間極秘にされていました。
1988年、ようやくF-117ナイトホークの存在が公式に認められました。
1989年5月の「Aviation Week & Space Technology」誌の表紙にF-117が掲載されましたが、ぼんやりとした低品質の画像だったそうです。
1990年:F-117ナイトホークが正式に表舞台に登場
1990年、初めて成績に公開されました。この時すでに運用開始から7年が経過しています。
初めての一般公開は、米国空軍のネリス空軍基地(Nellis Air Force Base)で開かれています。
2008年:F-117ナイトホーク退役
2008年にF-117ナイトホークは退役しました。(その後訓練用に運用、詳細は後述します。)
現在は、一般公開用のF-117ナイトホークが、ロナルド・レーガン図書館(カリフォルニア州Simi Valley)に設置されています。
2021年:F-117復活?!
正式には退役となっているF-117ナイトホークですが、米国空軍は以下の内容の発表をしたようです。
米国空軍のニュース記事を見つけられなかったので、144TH FIGHTER WING(第144戦闘航空団)のWebサイトから紹介します。
144TH FIGHTER WING(第144戦闘航空団)のミッションとビジョン
以下、第144戦闘航空団のミッションとビジョンをDeepLで翻訳した結果です。
ミッション:グローバルなエアパワーと国家への機動的な支援を迅速に生成、使用、維持できる戦闘準備の整った部隊を維持する。
ビジョン:多様性に富み、包括的で、つながりがあり、国と国家に奉仕するために絶え間なく向上する、最高のプロフェッショナルな戦士のチームとなること。
2021年9月に撮影された訓練中のF-117
以下、144TH FIGHTER WING(第144戦闘航空団)のWebサイトの情報(写真)の紹介です。訓練とはいえ、実際に飛んでいるのはすごいと思います。
出典:144TH FIGHTER WING(米国空軍)のWebサイト<HOME>NEWS>PHOTOS>からの画像。トリミングしています。
写真の説明文:2021年9月15日、カリフォルニア州フレズノ空軍国家警備隊基地にある第144戦闘航空団のフライトラインで、F-117ナイトホークがF-15イーグルを従えて飛行している。F-117ナイトホークは今週、第144戦闘航空団のF-15パイロットとともに、異種空戦訓練ミッションに参加している。(Air National Guard photo by Capt. Jason Sanchez)
図2-1 F-117(2021年):着陸
図2-2 F-117(2021年):F-117とF-15
図2-3 F-117(2021年):2機のF-15と飛行するF-117
図2-4 F-117(2021年):脚を出したF-117
図2-5 F-117(2021年):F-117のコクピット
図2-6 F-117(2021年):駐機場のF-117とF-15
2023年5月、今も飛んでるF-117ナイトホーク
2023年5月10日、米国空軍のノーザン・エッジ23-1(Northern Edge 23-1)で基地に着陸するF-117ナイトホークです。
図3 F-117(2023年):ノーザン・エッジ23-1
出典:<a href=”https://www.af.mil/”>USAF(米国空軍)</a>のWebサイトからの画像
写真で見るF-117ナイトホークの特徴的な機体形状
機体形状は文章説明よりも写真の方が一目瞭然です。
横からみた形状
下図からは、F-117の独特な形状がよくわかります。
- 以下にも航空力学的には不適切な直線的を組み合わせた形状
- 尾翼も独特な形状
パイロットの頭部が見えますが、視認性はかなり悪そうです。
不安定な機体をコンピュータと自動制御の力で安定化させて飛ばせているという感じです。
図3 F-117
出典:HOLLOMAN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像。トリミングしています。
機首とコクピット形状
下図は、F-117の機首部分について、
- 直線的な平面を組み合わせた機首形状
- コクピットのハッチ前方部分がギザギザの形になっている。
- 前輪収納ハッチの前方部分は三角形、後方部分はギザギザになっている。
- ことが分かります。
ハッチを閉めた状態で機体表面に極力凹凸を作らないよういするためではないかと考えています。
図4 F-117:Flight commemorates 250,000 hours for Nighthawks
出典:HOLLOMAN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像。
正面から見ると薄い主翼、平面を組み合わせた形状
下図からは、背景と重なって分かりにくいのですが、F-117の機体形状について、
- 薄い主翼
- 平面を組み合わせた機体形状
- 薄く、逆ハの字型の尾翼
を確認することができます。
図5 F-117:Holloman Air and Space Expo
出典:HOLLOMAN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像。トリミングしています。
フラットな機体下面
下図からは、F-117の機体形状について、
- 主翼が非常に薄い
- F-117の機体下面がフラット
であることが分かります。
また、機体外部にはステルス性を損なうような、武装を取り付けるポイントなどが全くないことが分かります。
図6 F-117:Beginning of the end
出典:HOLLOMAN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像。トリミングしています。
特徴的な尾翼
下図からは、F-117の尾翼について、
- 尾翼が薄い
- 2つの尾翼が逆ハの字に配置されている。
- 2つの尾翼間隔が後方ほど狭くなっている。
ことがわかります。
下図は、展示のための塗装作業をしているところですが、実運用の際はレーダー波を吸収する特殊な塗装だったり、機体表面に凹凸がないようにするなど細心の注意をはらいメンテナンスをしていたのだと考えています。
図7 F-117:Holloman refurbishes retired F-117 Nighthawk
出典:HOLLOMAN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像。
メンテナンスの写真から気づいたこと
下図から、F-117を正面から見た時のパイロットハッチを開いた状態と、閉じた状態を観察してみます。
戦闘機のコクピットが狭いのはある意味当然のことでしょうが、意外なところからメンテしています。
また、機首や機体の平面的なデザインもよく分かります。
メンテナンスの時は、パイロット(操縦席)とのやりとりもあるでしょうが、機体表面の保護やハッチの少なさなどF-117特有の仕様による制約はメンテナンスにも影響があったのかもしれないと考えています。
図8 F-117:Nighthawk talk
出典:HOLLOMAN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像。
下図は、ハッチを閉じた状態です。パイロットは前方の限られた範囲しか外は見えないようです。
また、正面から見えるのはカメラのようですが、レーダーを積まず赤外線などのカメラを利用して機外を観察、作戦行動は基本GPSによるオールクルーズというのも事実の様な感じがします。(機体性能に係ることなので、はっきりと裏付けとなるような情報を得るのは、Google先生では難しいと考えています。)
図9 F-117:Holloman Air and Space Expo
出典:HOLLOMAN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像。
F-177ナイトホークの諸元
諸元には表れてきていませんが、レーダー波を吸収するための塗料やメンテナンスでハッチ等を開閉した際のシーリングなど、日々のメンテナンスには職人さんのような高度な技術を持つ整備員や場合によっては専門の技術者が必要だったのかもしれません。
メンテナンスのためハッチを開ける際に、整備員の方が「あ~あ、またシーリングをするのか」とため息をついていたか、「今度こそ美しく完璧なシーリングをするぞ」とやる気に満ちていたかは分かりませんが、F-22やSR-71などと同様に手間のかかる機体だったことは間違いないと考えています。
- 全長:20.09 m
- 全幅:13.21 m
- 全高:3.78 m
- 最大離陸重量:23,814 kg
- 空虚重量:13,381 kg
- 推力:GE製F404-F1D2 4,808kg(1基当たり) 2基
- 搭乗人員:1名
- 速度:高亜音速(マッハ1未満)
- 最大巡航速度:1,100 km/h
- 航続距離:(空中給油により)無限
- 最大高度:13,716 m
- 武装(機体内に搭載):最大2,267 kg
まとめ
2020年代のステルス戦闘機と言えば、F-22ラプターや航空自衛隊にも導入されているF-35で、第5世代の戦闘機です。
そして、世界初のステルス機として実戦投入されたのがF-117ナイトホークです。現在のステルス機の丸味を帯びた機体形状とは異なり、平面が際立つ独特の機体です。
ここでは、F-117ナイトホークについて、以下の項目で説明しました。
- F-117ナイトホークとは
- 1975年:ステルス実証機「ハブ・ブルー」の契約獲得
- 1977年:ステルス実証機ハブ・ブルー(Have Blue)初飛行から納入まで
- F-117ナイトホークの運用開始(極秘運用)
- 1990年:F-117ナイトホークが正式に表舞台に登場
- 2008年:F-117ナイトホーク退役
- 2021年:F-117復活?!
- 144TH FIGHTER WING(第144戦闘航空団)のミッションとビジョン
- 2021年9月に撮影された訓練中のF-117
- 2023年5月、今も飛んでるF-117ナイトホーク
- 写真で見るF-117ナイトホークの特徴的な機体形状
- 横からみた形状
- 機首とコクピット形状
- 正面から見ると薄い主翼、平面を組み合わせた形状
- フラットな機体下面
- 特徴的な尾翼
- メンテナンスの写真から気づいたこと
- F-177ナイトホークの諸元