ここでは、ホームランを振動から考えてみる方法の1つとして、振動モード形状に着目したバットの振動解析のうち、以下の項目について説明します。
- 計測の準備
- 計測手順の概要(FFTアナライザの設定)
ここでは、ハンマリング試験での伝達関数(周波数応答関数)の計測手順について説明します。
ハンマリングにより伝達関数を計測し、得られた伝達関数の大きさと位相から、簡易的に振動モード形状を作成します。
なお、金属バットのハンマリング試験について体験実習ガイドを想定してまとめていますので、併せてご参照ください。
計測の準備
下図に、ハンマリングに必要な計測機材(FFTアナライザ、インパルスハンマ、加速度センサー)の一例を示します。
伝達関数は、グリップエンドに加速度センサーを固定し、インパルスハンマを使った加振点移動法により計測します。
- バットはグリップエンドを糸で吊り、自由支持としています。
- バットのグリップに巻かれているテープは、取り除きます。
計測手順の概要(FFTアナライザの設定)
計測準備から実際の計測まで、以下について説明します。
①FFTアナライザとセンサの接続
②センサの校正
③周波数レンジの設定
④電圧レンジの調整
⑤トリガの設定
⑥窓関数(ウィンドウ)の設定
⑦平均化の設定
⑧その他の設定(周波数レンジとサンプリング点数)
⑨計測する(ハンマリング)
⑩データの確認
FFTアナライザとセンサの接続
加速度センサーとインパルスハンマをFFTアナライザに接続します。
インパルスハンマをFFTアナライザのチャンネル1、加速度センサーをチャンネル2に接続します。
センサの校正
FFTアナライザの単位、校正値を設定します。
インパルスハンマと加速度センサーの電圧値を各センサの基準値に校正することにより、物理量で読み取ることができます。
具体的には、インパルスハンマ、加速度センサーに付属しているデータシートに記載されている感度をFFTアナライザに設定します。
1ch:インパルスハンマ → 加振力の単位N(ニュートン)
2ch:加速度センサー → 加速度の単位(m/s^2)
周波数レンジの設定
実際にハンマリングしながら、目的に合った周波数レンジに調整します。
電圧レンジの調整
電圧レンジは、実際にハンマリングしながらレンジオーバーしない範囲で調整します。
FFTアナライザに入力される信号に応じ、電圧レンジ内でできるだけ大きな振幅となるよう調整します。言葉を変えると、両チャンネルのLEVELインジケータのLEDが赤く(レンジオーバーしない)ならないように、信号波形をなるべく大きくなる様に設定する必要があります。
インパルスハンマによる加振の際は、対象物を叩くのではなく、「インパルスハンマの自重で落とし、ダブルハンマをしないように、加振後素早くハンマを引き上げる」ように、一定の力で対象物を加振します。
これが意外に難しく、実際に体験させてみるとできない人もいます。何度やっても2回同じようにハンマリングができず平均化処理ができない場合には、体験目的であれば1回のみのデータを使うこともありますが、通常は練習する、数をこなすしかありません。
トリガの設定
トリガの設定をします。
波形の観測をしやすくするため、FFTアナライザのトリガ機能を使い、インパルス加振した波形を停止させます。
これまでの設定で、両チャンネルの信号が、レンジオーバーすることなくFFTアナライザに表示されるようになります。
窓関数(ウィンドウ)の設定
ハンマリング試験の場合、通常は以下の窓関数が使われます。
1ch:インパルスハンマ:レクタンギュラかフォース
2ch:加速度センサー:レクタンギュラか指数
インパルス加振による信号は、単発的な衝撃信号です。加速度計の応答波形(FFTアナライザの時間軸波形)を見て、1フレーム内で収束しているような場合には、両チャンネルともレクタンギュラ(窓関数なし)の設定にします。
平均化の設定
実験(ハンマリング)のばらつきの影響を抑えるため、平均化の設定をします。
平均化の回数
平均化の回数は特に決まっていませんが、ノイズの少ない良い環境であれば3~5回程度で十分です。通常の計測現場などではもう少し多くしますが、一般的には多くても10回程度です。
インパルス加振の難易度が高い場合や、とにかく早く振動モード形状を可視化して確認したい場合には、2~3回の平均化でも目的を達することができます。つまり、平均化の回数は、計測の目的に応じて決定することがポイントとなります。
平均化回数で得られる伝達関数の波形を見て、平均化回数が増えても伝達関数の波形の変化が小さくなります。平均化回数を増やす時間と計測データとのトレードオフで決定します。
平均化の方法
ここでは、パワースペクトル加算平均としています。
FFTアナライザでの平均化処理は、フレームを単位として行われています。計測誤差を小さくするためには、計測データの平均化処理が有効です。
平均化機能は、時間領域、周波数領域、振幅領域に分類され、様々な平均化処理が可能ですが、よく使われる処理の1つに「パワースペクトル加算平均」があります。
続けてハンマリングする場合の注意点
続けて加振する場合には、応答が干渉しないように、前回の加振による応答が十分減衰してから次の加振を行います。
特に対象物の減衰が小さい場合には、振動が収束するまでに時間がかかるため、平均化の際には、一度対象物に手を触れるなどして対象物の振動状態を抑えてから、次の計測を行います。
その他の設定(周波数レンジとサンプリング点数)
FFTアナライザで解析できる最大周波数(解析周波数レンジ)を設定します。
周波数レンジを決定する要因には、以下のようなものがあります。
- センサ(加速度センサー)の解析周波数範囲内にします。
- 着目する周波数分解能(サンプル点数)
- 同一のサンプリング点数であれば、周波数レンジが低いほど周波数分解能は細かくなります。
- 共振周波数をいくつ(何次)まで見るのか
- 周波数レンジが高いほど、高次モードまで多数の振動モードを見ることができます。
計測する(ハンマリング)
以上の設定が完了してから、ハンマリングにより伝達関数を計測します。
計測中は、インパルスハンマと加速度センサーの波形を見ながら、ダブルハンマ(二度叩き)がないかなどを確認しながら行います。
ハンマリングの手順の一例を以下に示します。
- トリガ機能がONになっていることを確認します。
- 平均化ボタンを押すと、FFTアナライザに信号が入力されると自動的に平均化(アベレージ)処理がスタートします。
- ハンマリングを開始します。
- 平均化処理は、設定した回数分のハンマリング(信号入力)が終了すると自動的に停止します。
データの確認
主なデータの確認方法を列挙します。
コヒーレンス関数を使った確認
- ハンマリングで適切な計測ができたか確認する方法の1つです。
- コヒーレンス関数とは、入力と出力信号の相関度を表す関数のことで、FFTアナライザでは、0~1の範囲のレベルで表示されます。
- コヒーレンス関数はその特性上、平均化しないと計算できないため、2回以上の計測が必要となります。
- 入力・出力間でノイズの混入、ガタなどの非線形要素があると、コヒーレンスが悪くなります。
- コヒーレンスが大きい(1に近い)場合、周波数応答関数の信頼性が高いと判断することができます。
計測点を決めるためのポイント
計測点を決めるためには、まずは振動モード形状をざっくりと大雑把につかむことがポイントになります。
例えば特定の振動モード形状を詳細に観察したい場合には、あらかじめ振動モード形状の全体を確認してから、詳細に観察したい部分の計測点を増やすことにより、全体のモード形状と観察したい部分の振動状態を分析しやすくなります。
計測点が多い場合の計測方法
ここでは、インパルスハンマによる加振をしていますが、計測点が数百点になるような場合や同一形状の部品を繰り返し計測する場合などには、加振器の利用やセンサーを自動的に移動させるトラバース装置の使用することがあります。
計測データによる確認方法
伝達関数の計測で、データが正しく取れているかどうか確認する方法を列挙します。
- インパルスハンマの時間軸波形
- 加速度センサーの時間軸波形
- インパルスハンマのパワースペクトラム
- コヒーレンス
- 平均化の具合
- 例えば3回目の加振をしたら急にスペクトラムの形状が乱れた。
経験による方法
ハンマリングの経験を重ねると、ハンマリング時の打音の変化や加振時の感触などでも、うまく加振できているかどうか判断できるようになります(とは言っても個人差が大きいです)。
いずれにしろ、計測の練度向上(うまくインパルスハンマで加振できる)に伴い、効率よく計測を進めることができるようになります。
計測データによる確認
実験モード解析のように、多点の伝達関数を計測する場合には、例えば、計測点1番~10番目までの計測を完了した後、再度計測点1番の計測を行い、これを1回目の計測点1番のデータと比較することにより、一様に(1回目にハンマリングした時と同様に)加振できたかどうかを判断する場合もあります。
まとめ
ここでは、ホームランを振動から考えてみる方法の1つとして、振動モード形状に着目したバットの振動解析のうち、以下の項目について説明しました。
- 計測の準備
- 計測手順の概要(FFTアナライザの設定)