航空機関連のWebサイト「博士による写真で見る軍用機と関連技術」を立ち上げました。
F-22ラプターの情報は、以下をご参照ください。
F-22ラプターは、ロッキード・マーチン社とボーイング社が共同開発した第5世代のステルス戦闘機です。「F-22誕生までの物語(全7話)」はこちら。
構想から開発までが長くF-117の登場などもありましたが、F-15イーグルが航空優勢(制空権)を獲得する最強の戦闘機とすれば、F-22はより広い範囲の戦域全体を支配するAir Dominance(航空支配)を実現する、F-15とは違う意味で最強の戦闘機と言われるのも伊達ではないようです。
F-22はF-117やF-35と同じ様に、レーダーや赤外線探知装置などからの隠密性が極めて高いステルス戦闘機ですが、次の3つの特徴を持っています。
- 高いステルス性
- アフターバーナーなしでのスーパークルーズ(超音速巡航)
- STOL(短距離離着陸)が可能
ここでは、F-22ラプターの概要について、以下のロッキード・マーチン社のWebサイトの情報に米国空軍の写真を交えて説明します。
F-22ラプターのキャッチフレーズ
ロッキード・マーチン社のWebサイトのキャッチコピーから、F-22ラプターの特長を列挙します。
F-22ラプターは空を支配:Air Dominance(航空支配)
第5世代のステルス戦闘機F-22は、次の様な様々な要求を高次元でバランスよく組み合わせ、戦域の航空支配(Air Dominance)を実現します。
- 機体性能:ステルス(レーダーや赤外線探知機からの隠密性)、スピード、敏捷性
- 情報処理:状況認識(自機及びそれ以外の情報ネットワーク)
- 搭載武装:長距離の空対空ミサイルや空対地の武器
さらっと3行にまとめてしまいましたが、少し補足すると、
- 進化したステルス性
- 敵にほとんど気づかれずに24時間365日のオペレーションを実現可能
- 巡航速度:アフターバーナーなしでマッハ1.5(超音速巡航)
- 燃料消費を抑え、残存率や戦場から高速離脱することで帰還率アップなど
- 高い機動力
- 優れた加速力と鋭い旋回力で相手を圧倒(スラスト・ベクトル・ノズル)
- 情報融合(Information fusion)
- パイロットのための360度の戦場認識
- 統合戦力の実現(Joint force enabler)
- 統合および連合軍のために将来の航空優勢を保証
これらをF-22は1機で実現できるだけでなく、僚機、戦域内で利用できる戦闘機やレーダー警戒機などの航空機、艦艇や基地などのレーダー情報なども利用できます。
つまり、F-22は、ある意味F-15の時代から、戦い方を大きく変えたとも言えます。
また、F-22は、「The Collier Award」を受賞していることから技術的な面でも画期的なものだったのだと推測されます。
F-22の運用(兵站)的なポイント
一般にステルス機の運用において、ステルス性能を維持するためのメンテナンスには、時間とコストだけでなく、技術的にも高度なものが必要とされます。
開発元のロッキード・マーチン社と米国空軍のF-22チームとでは緊密な連携(パートナーシップ)を取り、F-22の稼働率の維持、メンテナンス等への迅速な対応、及び、ライフサイクルコストの低減を図っています。
F-22の支援システムは、サプライチェーンの維持・管理、改修、整備(オーバーホール)、sustaining engineering(維持管理のための工学?)、訓練、パイロット等への現場支援、24時間365日の技術サポートセンターなどを含んでいます。
PBL(Performance-Based Logistics)のコンセプト
PBL(Performance-Based Logistics)の日本語訳が分からないので、ここではPBLと呼びます。
PBLのコンセプトは、維持管理やメンテナンスを中心としたアプローチから、航空機の性能に焦点を当てたアプローチへとシフトさせるものです。
PBLの請負会社は、武器システムの能力や可用性(使えるようにしておくこと)を提供する責任があります。
武器は、兵站あってのものですが、武器のシステム化や複雑化により、稼働率を上げるためには米軍と言えど民間会社の支援が必須となっているという面もあると考えています。
ここで、F-22の維持管理についてもう少し詳しく説明します。
F-22の維持管理作業について
F-22の維持管理には、RAMMPとModernization Lineの2つがあります。
- RAMMP(The Reliability and Maintainability Maturation Program)
- 航空機の可用性を向上させるために、運用現場のデータや技術的な解決策を常に検証する活動
- 信頼性・整備性向上プログラムと意訳しています。
- Modernization Line
- ユタ州ヒル空軍基地のオグデン航空兵站センターにあるF-22近代化ライン(Mod Line)
- 米空軍とロッキード・マーチンが最新のシステム能力を統合し、現在および潜在的な敵に対するF-22の圧倒的な優位性を強化します。
信頼性向上とメンテナンス時間の短縮
F-22は、2016年11月の初号機納入より成熟化が進む中、効率性の向上とコスト削減を図りながら、機体の稼働率向上、整備時間の短縮、信頼性と診断能力の向上に注力しています。
F-22で行われているメンテナンスの約50%は、定期的なメンテナンスのために機体を開放したときに損傷する低観測性(LO)ステルスコーティングの修理に関連しています。
ステルスコーティングの修理のメンテナンスを減らすために、次の様な維持管理プロジェクトに取り組んでいます。
- インレット・コーティング・リペア(ICR:Inlet Coating Repair)スピードライン
- 2016年8月、米空軍はロッキード・マーチンと契約し、ジョージア州マリエッタにF-22 ICRスピードラインを設置し、2016年11月に最初のF-22が到着しました(合計12機のICR作業と関連支援サービス)。
- マイティタフブーツ(mighty tough boot)
- マイティタフブーツは、機体パネルとパネルの間の縫い目(ブーツ)の強度を高めます。
- 定期的なメンテナンスのためにパネルを取り外した際の縫い目やLOコーティングへのダメージを軽減することができます。
- フォームインプレイス(FIP)。
- マイティタフブーツをベースに、機体パネルを改良することで、LOステルスコーティングにダメージを与えることなく、メンテナンス時の取り外しを容易にします。
- メンテナンス後に機体を再コーティングする必要がなくなり、メンテナンスの時間を削減できます。
- エンジンのメンテナンス。
- P&W製F119エンジンは、6つの一般的なツールを使用した標準的な航空機のメンテナンスができるように設計されています。
- 統合メンテナンス情報システム(IMIS:Integrated Maintenance information System)
- 世界中の整備・修理データを一元化したネットワーク上でのメンテナンス作業を実現
- 整備士は、整備用パソコンをジェット機に接続し、整備が完了したことを記録した後、システムに接続すると、グローバルデータベースにアップロードされ、F-22が世界中のどこに配備されていても、適切で完全なメンテナンス記録の保持を保証
F-22ラプターの諸元
- 全長:18.90 m
- 全高:5.08 m
- 全幅:13.56 m
- 翼面積:78.04 m2
- 尾翼幅::8.84 m
- 空虚重量:19,700 kg
- 最大離陸重量:38,000 kg
- 搭載燃料:8,200 kg
- 外部燃料2基含めると:11,900 kg
- 速度:マッハ2クラス
- アフターバーナーなしでマッハ1.5(超音速巡航)
- 航続距離:(外部燃料タンク有り):2,960 km
- 推力:15,876 kg(2次元スラスト・ベクトル・ノズル付き)
写真でみるF-22ラプター
ここでは、米国空軍のWebサイトの写真を使いF-22ラプターの特長を説明します。
飛行時(機体上面)
まずは、F-22ラプターの上面の写真から。
- 主翼や尾翼の翼端形状がステルス機特有の形をしています。
- 機体上面が滑らかです。
- 垂直尾翼はF-15は垂直ですが、ステルス機では逆ハの字型に配置されています。
図1 F-22:F-16 Viper and F-22 Raptor demo teams refuel with Okies
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
2種類のウェポンベイ
ステルス性を高めるため、通常ミサイル等は機体内に格納され、発射前に機体から出てきます。
胴体側面のウェポンベイにはサイドワインダー、胴体中央部にはAIM-120などが搭載されます。
図2 F-22:2種類のウェポンベイ
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
図3a F-22からAIM-9Xを発射:F-22 fires AIM-9X Sidewinder missile
出典:AIR FORCE MATERIEL COMMAND(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図は、The unit’s weapons load competition(武器搭載の競技会)でF-22にAIM-7サイドワインダーを持ったところです。AIM-120 AFRAAM、AIM-9、チャフ、フレアの搭載をチームで競います。
図3b F-22にAIM-7搭載:Load competition teamwork
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
アフターバーナーなしでの超音速飛行
アフターバーナーを使うと燃料消費量が激増すると言われていますので、これはすごいと思います。
- 見つからずに近づき、ミサイル発射後一気に離脱するといったミッションが可能になります。
図4 F-22:Going supersonic
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
背面飛行
F-22の背面飛行の写真です。
F-22の高い運動能力を示す1枚だと思います。
図5-1 F-22 Raptor Demonstration Team pilot performs during the Singapore Airshow 2020
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像。トリミングしています。
2022年10月30日、オーランド航空宇宙ショーにおけるF-22デモチーム(F-22 Raptor Demonstration Team)の写真です。
- 軽快そうな運動性能だけでなく、突起物のない機体表面の様子が分かります。
図5-1 Radical maneuvers during the Orlando Air and Space Show
出典:EGLIN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像。
コクピット(キャノピー形状)
コクピット(キャノピー)部分の写真です。
飛行前のチェックをしている時の様子です。
- キャノピーの形状がよく分かります。
- キャノピーの周りも突起物の少ない形状となっています。
図6 F-22:F-22 lands at Spangdahlem
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
キャノピーを開いた状態で、ほぼ真横からの写真です。
- 前方の計器類とパイロットとの位置関係が分かります。
- 機体表面に突起が少ない形状となっています。
図7 F-22:15th Wing vice commander completes fini flight
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
正面
F-22を正面から捉えた写真です。
- ステルス性のため全面の面積を小さくするためか、吸気口下部の絞り込み、機首形状も上下方向に分離するような形状となっています。
写真下方をトリミングで削除していますが、元の写真はなかなかの美しさです。
図8 F-22:駐機中
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像。トリミングしています。
機体下面(飛行中)
機体下面の写真です。
- ステルス機特有の主翼や尾翼の形状となっています。
- 機体下面に突起物(武装用のパイロン等)が少ない形状となっています。
- ステルス性を高めるために丸くすればよいものではないことが分かります。
図9 F-22:飛行中の機体下面
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
機体後方(スラスト・ベクトル・ノズル)
F-22の機体後方からの写真です。
- 2基のジェットエンジンのスラスト・ベクトル・ノイズを確認できます。
- F-35の場合は、機体の種類を分けて短距離離陸性能を実現していますが、F-22は1機で実現しています。
- メインの推力方向を変えることで短距離離陸の他、機動性向上も得ています。
図10-1 F-22:機体後方(スラスト・ベクトル・ノズル)(その1)
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
離陸前のF-22のチェック時の写真です。
機体後部のスラスト・ベクトル・ノズルも直線的なデザインとなっていることが分かります。
図10-2 F-22:機体後方(スラスト・ベクトル・ノズル)(その2)
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
フレア投射
フレアを投射した写真です。
フレアは赤外線探知ミサイルに対する偽の目標となるもので、フレア投射後急激な方向変換によりミサイルから逃げます。
チャフは、レーダー波にジャミングをかけるものです。
図11 F-22:フレア投射
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
編隊飛行
F-22ラプター2機とE-3セントリー(Sentry)による編隊飛行の写真です。
E-3セントリーは、ボーイング社が製造した早期警戒管制機(AWACS機)です。機体後部の円板上のものは高性能のレーダーです。
- F-22は、E-3の情報を利用することで、自機のレーダー範囲よりも広範囲の情報を利用することができます。
- 自機だけでなく、AWACSなどの他の航空機などを含めた様々な情報とのデータリンク機能を持っていることがF-22の大きな特長であり強みではないかと考えています。
図12 F-22、E-3:Total Force Airmen demonstrate Alaskan airpower
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
メンテナンス風景から
戦闘機に限りませんが、機能性能が高度化すれば、それを発揮するためには様々なメンテナンス(兵站)が重要です。
F-22の様なステルス機の場合、ステルス性を維持するための機体表面のメンテナンスが最もコストがかかっているようですが、メンテナンス対象はそれだけではありません。
以下は、エンジンの試験(様々な試験項目の1つ)と燃料系のメンテナンス教育の写真です。
この様な基地(サイト)で行うメンテナンスもあれば、場合によっては現場で行う緊急メンテナンスもあります。
図13 F-22:ジェットエンジンのテスト機能チェック
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
一見何かよく分かりませんが、F-22の燃料システムのトレーナーです。燃料システムがどの様なものかを教えるための実機サイズです。
大きいなと思いましたが、他の写真で人と比べての見ると、F-22そのものが結構大きいことが分かります。
図14 F-22 Raptor fuels system trainer
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
上図の写真ではよく分かりませんでしたが、中身の写真です。
燃料システムの仕組みを学ぶ燃料と不活性ガス発生システム(消化システム)訓練コースでの一場面です。
図15 F-22:Refuel
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
まとめ
F-22ラプターは、ロッキード・マーチン社とボーイング社が共同開発した第5世代のステルス戦闘機です。
F-22とF-35について公開情報(Webサイトの情報)を調べました。主観的な感想なのですが、カタログ・スペックでは表せない、使われている技術やステルス機としての性能そのものについてもF-22の方に優位性があると考えています。
ここでは、F-22について以下の項目で説明しました。
- F-22ラプターのキャッチフレーズ
- F-22の運用(兵站)的なポイント
- PBL(Performance-Based Logistics)のコンセプト
- F-22の維持管理作業について
- 信頼性向上とメンテナンス時間の短縮
- F-22ラプターの諸元
- 写真でみるF-22ラプター飛行時(機体上面)
- 背面飛行
- コクピット(キャノピー形状)
- 正面
- 機体下面(飛行中)
- 機体後方(スラスト・ベクトル・ノズル)
- フレア投射
- 編隊飛行
- メンテナンス風景から