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マイクローベーンによる輸送機C-17グローブマスターIIIの燃費改善

マイクロベーンによる燃費改善C-17グローブマスター 航空機の実機試験

米国空軍では、様々な空力技術(エアロダイナミクス)に関する取り組みをしています。その中の1つに、マイクロベーン(Microvane)を利用した燃費改善があります。

  • マイクロベーンとは、ボルテックス・ジェネレータとも呼ばれ、日本語では渦発生器のことです。

実際に成果がでているようなので、2025年1月現在のマイクロベーンによる燃費改善効果について説明します。

なお、マイクローベーンによる燃費改善については、以下の記事もご参照ください。

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輸送機と燃費改善

航空機の空気抵抗を低減することは、燃料消費量を減らすことにつながり、燃料の使用量が減り、燃料費を削減することができます。

これは、航続距離を延ばしたり、より多くの荷物を運べるようになるということでもあります。

空気抵抗を減らす方法

空気抵抗を減らすために、機首や翼の形状を薄く、滑らかにしていくことが有効です。このため、機体設計や日頃の運用におけるメンテナンス(機体表面の汚れを落とすことを含め)が重要です。

空気抵抗を減らす最新技術の1つに、後述するマイクロベーンを利用する方法があります。

空気抵抗低減による燃費改善メリットが大きい機体

燃料消費量を考えると、小型機よりも多くの燃料を使用する輸送機などの大型機の方が、空気抵抗低減による燃費削減効果によるメリットが大きくなります。

はかせ
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小型機の搭載燃料の1%と大型機の燃料1%とでは、燃料の量が大きく違うためです。

輸送機は、平時から旅客機の様に定期航路による定期運航が主となりますので、燃費改善による効果は大きいといえます。

乱流を利用した空気抵抗低減装置

空気抵抗には、機体や主翼の形状による抵抗とは別に、機体や主翼表面の空気の流れによるものがあります。

主翼を例に説明すると、主翼表面機体表面を流れる空気は、翼端で翼からはがれて渦(乱流)になります。

この翼端の渦による空気抵抗を小さくするために、下図の様に主翼上で小さな渦を発生させ、主翼全体の抵抗を小さくすることができます。

下図の主翼上の小さな突起物は、ボルテックス・ジェネレータ(渦発生器)と呼ばれています。

ボルテックス・ジェネレータの例

ボルテックス・ジェネレータの例

図1 ボルテックス・ジェネレータの例

出典:Pixabayの画像(加工しています)

ボルテックス・ジェネレータを主翼に追加すると、小さな渦(乱流)が発生し空気抵抗が増えます。

しかし、ボルテックス・ジェネレータにより発生させた小さな渦(乱流)は、主翼の乱流による空気抵抗を小さくすることができます。

つまり、ボルテックス・ジェネレータを付けることで、主翼全体の空気抵抗が小さくなるため、燃費改善の効果が得られるということです。

マイクロベーン(Microvane)とは

マイクロベーンは、ボルテックス・ジェネレータと同様の効果を得ることができます。

下図は、C-17グローブマスターIIIの胴体後部に取り付けられたマイクロベーンと呼ばれるフィンのような形状の抗力(空気抵抗)低減装置です。

マイクロベーンにより小さな渦(乱流)を発生させることで、空気抵抗を小さくすることができます。

C-17グローブマスターIIIのマイクロベーン設置場所

下図は、C-17グローブマスターIIIの写真です。

  • マイクロベーンによる空気抵抗低減技術評価は、2023年10月より最終段階に入っています。
  • マイクロベーン空気抗力技術(Microvane drag reduction technology)が正しい名称ですが、ここでは、分かりやすく空気抵抗低減技術とよんでいます。
C-17グローブマスターIII

Microvane Installation at Stewart Air National Guard Base A C-17 Globemaster III with microvanes successfully installed waits on the flight line at Stewart Air National Guard Base. PHOTO BY: SSgt Thaxton VIRIN: 250114-F-QY132-1001

図2 C-17グローブマスターIII

出典:EGLIN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像

下図は、マイクロベーン設置場所を示した図です。

  • 下図の拡大部分(白い枠)の階段状のパーツがマイクロベーンです。
C-17グローブマスターIIIのマイクロベーン設置位置

Microvane Installation at Stewart Air National Guard Base A C-17 Globemaster III with microvanes successfully installed waits on the flight line at Stewart Air National Guard Base. PHOTO BY: SSgt Thaxton VIRIN: 250114-F-QY132-1001

図3 C-17グローブマスターIIIのマイクロベーン設置位置

出典:EGLIN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像(加工しています。)

C-17グローブマスターIIIのマイクロベーン

C-17グローブマスターIIIに設置されたマイクロベーンについて説明します。

下図は、上図のマイクロベーンを拡大した写真です。

C-17グローブマスターIIIのマイクロベーン

Microvane Installation at Stewart Air National Guard Base Microvanes installed on a C-17 Globemaster III at Stewart Air National Guard Base. PHOTO BY: SSgt Thaxton VIRIN: 250114-F-QY132-1002

図4 C-17グローブマスターIIIのマイクロベーン

出典:EGLIN AIR FORCE BASE(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像

マイクロベーンは、3Dプリンタで作られています。

  • 大きさは約102mmX406mm
  • 合計12個設置
  • 薄い刃の様な形状(thin blade)
  • 強力な接着剤で機体外装に接着

マイクロベーン設置による効果は、次の2点です。

  • 燃料消費を約1%低減
  • 貨物ドア部分の空気抵抗低減による航空機としての能力向上

また、マイクロベーンによる燃料費削減による

なお、燃料消費を1%低減は、わずか1%と思うかもしれませんが、マイクロベーンをC-17の米国空軍の全機種に導入すると、マイクロベーンへの投資額は約7か月で回収でき、年間1,400万ドル以上の節約となります。

C-17グローブマスターIIIについて

C-17グローブマスターIIIは、60トン超の主力戦車M1A2を空輸できる、米国空軍の大型輸送機(cargo aircraft)です。

C-17グローブマスターIIIは、米国陸軍の60トン(60,000kg)超えの主力戦車M1A2エイブラムスを空輸可能な大型の輸送機で、様々なミッションに使用されています。

輸送機は、戦闘機やステルス機を含む様々なミッションを支える兵站の一翼を担っています。

C-17グローバルマスター(Globemaster) III

A U.S. Air Force C-17 Globemaster III heavy-lift transport aircraft flies over Travis Air Force Base, Calif., Mar. 27, 2017. This aircraft was developed for the USAF in the 1980s to the early 1990s by McDonnell Douglas. The C-17 carries forward the name of two previous piston-engined military cargo aircraft, the Douglas C-74 Globemaster and the Douglas C-124 Globemaster II. The C-17 commonly performs strategic airlift missions, transporting troops and cargo throughout the world; additional roles include tactical airlift, medical evacuation and airdrop duties.(U.S. Air Force photo/ Heide Couch)

図5 C-17グローブマスター(Globemaster) III

出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像

C-17グローブマスターIIIの詳細は、以下の記事をご参照ください。

その他の空力的な改善の取り組み

米国空軍では、様々な空力技術(エアロダイナミクス)に関する取り組みをしています。

マイクロベーンの他にも、輸送機のワイパーの向きを変えることで、空力的な改善(空気抵抗削減)をCAE(CFD)と実機で確認した事例は、以下をご参照ください。

  • CFD(Computational fluid dynamics):流体解析

参考リンク(米国空軍のWebサイト)

空力的な改善に関する米国空軍の取り組みについて参考にした記事を紹介します。

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まとめ

米国空軍では様々な空力技術(エアロダイナミクス)に関する取り組みがなされています。

ここでは、米国空軍のWebサイトの記事から、C-17 Globemaster(グローブマスター) IIIに3Dプリンタで作ったマイクロベーン(Microvane)を適用した空気抵抗低減について、以下の項目で説明しました。

  • 空気抵抗を減らす機体形状
  • 乱流を利用した空気抵抗低減
  • マイクロベーン(Microvane)とは
  • C-17グローブマスターIIIを簡単に紹介
  • 参考リンク(米国空軍のWebサイト)
はかせ

サイト管理人で記事も書いているモノづくり会社の品証の人。
振動制御で工学博士なれど、いろいろ経験して半世紀。
はかせの詳細は「はかせ」をクリック

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