ワイパーブレード、自動車のワイパーのことです。
自動車の世界でもワイパーは、むき出しだった時代から空力やデザインを意識するようになり、使わないときにはボディ表面から飛び出さないコンシールドワイパーも採用されるようになっています。
ここでは、米国空軍の輸送機のワイパーの向きを変えることで、空力的な改善(空気抵抗削減)ができたCAEを使った事例を紹介します。
自動車のワイパーについて
まずは、身近に目にすることの多い自動車のワイパーについて、私が好きなポルシェを例に説明します。
下図は、今ではクラシックポルシェと言われていますが、ワイパー周りを見ると、ワイパーがボディ表面に取り付けられています。
図1 自動車のワイパー:ボディ上に露出している例
出典:Pixabayの画像(加工しています)
下図は、最近のポルシェです。
ボンネットの後端とフロントウィンドウとの間にスペース(空間)が設けられ、その空間にワイパーが収納されるようになっています。
コンシールドワイパーと呼ばれたりしています。
図2 自動車のワイパー:収納タイプ
出典:Pixabayの画像(加工しています)
空気抵抗の視点で上図の2枚を比べると、図1に比べ、図2の方が見た目でも空気抵抗が少ないことが分かると思います。
自動車のワイパーは、フロントウィンドウについた雨や雪などを除去して運転手の視界を確保する役割を果たしています。
また、高速走行時には、浮き上がらない様に形状が工夫されています。
基本的な構造や形状は昔から変わっていない、古いけれど信頼性も高いすぐれた部品の例の1つでもあります。
輸送機のワイパー
軍用機の中でも輸送機は、航続距離が長いため燃料費も大きな額となります。
また、輸送機の通常の飛行経路はある程度限定されますので、燃費改善の効果も分かりやすいとい面もあります。
ここでは、米国空軍のWebサイトで試験結果が公開された2020年4月のKC-135ストラトタンカー(Stratotanker)のワイパーの配置による燃費改善試験結果について紹介します。
KC-135ストラトタンカー(Stratotanker)とは
戦域での航空支配という新しい戦い方を実現したのが最新鋭のステルス戦闘機F-22ラプターならば、燃料補給という平坦面での軍用機の運用を変えたのが空中給油機KC-135ストラトタンカー(Stratotanker)です。
- 下図中央の旅客機の様に見えるのがKC-135ストラトタンカーで、KC-135ストラトタンカーの機体後方から伸びた給油ブームを使い、F-22ラプターに空中給油しています。
- 下図左側はF-22ラプター、右奥はF-15イーグルです。
図3 F-22に給油するKC-135ストラトタンカー(Stratotanker)
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
KC-135ストラトタンカーのワイパー
下図は、KC-135ストラトタンカー(Stratotanker)を正面から見た写真です。
図4-1 KC-135ストラトタンカー(Stratotanker):正面
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像
下図は、上図の操縦席部分を拡大したもので、ワイパーを確認できます。
ワイパーブレードが横向きのオーソドックスなレイアウトです。
図4-2 KC-135ストラトタンカー(Stratotanker):ワイパーの配置
出典:USAF(米国空軍)のWebサイト<Home > News > Photos>からの画像(加工しています)
ワイパーブレードの向きによるCAE解析結果
下図は、ワイパーブレードの向きによるCAE解析結果の比較です。
解析は、米国空軍の研究所(Air Force Research Laboratory)とサウスウエスト研究所(Southwest Research Institute)で実施しました。
ここでのCAEは、CFD(Computational fluid dynamics)解析、日本語なら流体解析です。
赤い部分が、空気抵抗の大きい部分です。
下図から、空気抵抗が大きいのは、以下の2か所であることが読み取れます。
- ワイパーブレード
- ワイパー機構の基部(機体表面に対し突起となっている)
ワイパーブレードの向き(配置)については、
- 下図左側の水平配置では、ワイパーブレードが赤く、空気抵抗が大きい。
- 下図右側の垂直配置では、ワイパーブレードの機体前方部分が赤く空気抵抗が大きくなっているが、ワイパーブレード全体としては赤い部分の面積が小さくなっている。つまり、空気抵抗が小さい。
図5 ワイパーブレードの向きによるCAE解析結果(その1)
CFD解析結果からは、次のことが分かりました。
- ワイパーブレードを垂直方向にした方が、ワイパーブレードが受ける空気抵抗が小さい。
このことから、
- ワイパーブレードを垂直に配置した方が、空気抵抗が小さく、燃料消費量を削減することができる。
と考えられます。
KC-135ストラトタンカーによる試験結果の詳細
KC-135ストラトタンカーのワイパーブレードを垂直配置に関する試験について補足します。
ワイパー位置のシミュレーションは、次の2つのことを実施することで可能となりました。
- KC-135の機体を使った地上試験
- CFDを使い、飛行中の機首とフロントガラス状の空気の流れをモデル化
また、CFDモデルにより、以下の成果を得ています。
- 機体上の抵抗が大きい部分がワイパーブレード部分であることを可視化
- ワイパーブレードの垂直配置により、抵抗を0.8%低減
- ワイパーのスリム化により、抵抗を0.2%低減
上記の成果を得るために、数か月の時間と、数千もの飛行設定によるCFD試験を行ったようです。
「合わせて1%の改善は、「わずか1%」ではなく、1%の改善が燃料費の節約に直結することで、浮いた費用を別のことに使うことができる」成果となっているようです。
ワイパーブレード垂直配置による燃費改善効果
垂直にワイパーブレードを取り付けた空力試験により、以下の可能性が確認されたとあります。
- 巡航状態での抵抗を約1%減る。
- 燃料費で年間700万ドルの節約となる。
民間機では、主に貨物機として使われるマクドネル・ダグラスMD-11(McDonnell Douglas MD-11)で初めて実証され、ブレードを垂直に取り付けることで抵抗を1.2%低減できることが証明されているそうです。
また、米国空軍のKC-135が、2019年に消費した燃料は2億6千万ガロン以上で、米国空軍の全航空燃料使用量の約14%を占めています。
大きな視野での取り組みが成果を生む一例だと考えています。
まとめ
ワイパーブレード、自動車のワイパーのことです。自動車の世界でもワイパーは、むき出しだった時代から空力やデザインを意識するようになり、使わないときにはボディ表面から飛び出さないコンシールドワイパーも採用されるようになっています。
ここでは、米国空軍の輸送機のワイパーの向きを変えることで、空力的な改善(空気抵抗削減)ができたCAEを使った事例を以下の項目で紹介しました。
- 自動車のワイパーについて
- 輸送機のワイパー
- KC-135ストラトタンカー(Stratotanker)とは
- KC-135ストラトタンカーのワイパー
- ワイパーブレードの向きによるCAE解析結果
- KC-135ストラトタンカーによる試験結果の詳細
- ワイパーブレード垂直配置による燃費改善効果