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金属バットの制振グッズ設計とゴルフクラブへの応用

CAE(有限要素法)

金属バットの振動解析(リンク)について、「ホームランの振動解析:実験モード解析とFEMによる仮説と検証」で紹介しました。

ここでは、金属バットの振動解析結果を利用した制振グッズ(動吸振器)の設計とゴルフクラブへの応用について考えてみます。

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はじめに

ホームランの振動解析:実験モード解析とFEMによる仮説と検証」では、バットのスイートスポットがバットの振動モード形の節の近傍であるため、

  • スイートスポットで打てばバットは振動することなく、バッティングによるエネルギーが最大限ボールに伝わる。
  • ホームランを打った時に感触がないという経験とも一致する。

ことが分かりました。

ここでは、金属バットの振動対策として、打ち損ねてバットの根元等の振動モードの腹に近傍で打つと手がしびれる対策を考えてみます。

さらに、バットの振動対策をゴルフクラブへの応用について考えてみます。

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金属バットの制振グッズ開発のきっかけ

野球やソフトボールで打ちそこねた時に、手がしびれる経験をしたことがあります。手のしびれがひどいといつまでもびりびり感が手に残ります。

そこで、打ちそこねた際に発生する振動を抑えることにより、手のしびれを小さくする振動対策について考えてみます。

ここでは、振動の大きさが最も大きいバットの1次の振動モードを動吸振器で抑えることにします。

なお、金属バットの打音(キーンといった高い音)は、特に最も近い位置で繰り返し打音を聞くことになるキャッチャーへの影響が大きく、消音対策が施されています。

バットの振動モード形による考察

バットの実験モード解析結果と、FEMの固有値解析結果の例を下図に示します。

  • 両図とも上から1次、2次、3次の振動モード形です。
  • 境界条件(拘束条件)はフリーの状態です。

バットの振動モード形(実験結果)

バットの振動モード形(FEMの固有値解析)

両図から次のことが分かります。

  • バットのスイートスポットと呼ばれる位置が1次の振動モード形の節(実験モード解析の図で4番と5番の間)にある。
  • グリップの上部は、各モードの腹(実験モード解析の図で2番と3番の間)にある。

このことから次のように考えることができます。

  • スイートスポット付近で打った場合には、1次の振動モードの節で打つことになり、スイングによるエネルギーが最大限ボールに伝わりホームランになる。
  • グリップ上端、バットの根元付近で打った時は、各モードの腹に近い部分となるため、手がしびれる。
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制振グッズ(動吸振器)の設計

ここでは、1次の振動モードによる振動を小さくするために動吸振器を使います。

動吸振器の設置位置は、バットの構造上、グリップエンドとします。バットの中は中空なので、グリップエンドに動吸振器を設置することができます。このため、バッティングの邪魔にもなりません。

ここで、バットと動吸振器の力学モデルは、下図のパッシブ型になります。

制振装置の種類

バットの等価質量は1自由度の質量感応法で求めることができます。

質量が分かれば、次の関係式からバットの剛性も定まります。

ω(角振動数)=√(K(剛性)/M(質量))

ω(角振動数)=2πf(周波数 Hz)

式が分かりにくく申し訳ありません。

動吸振器の最適チューニングについては、ここでは割愛します。参考書籍をご参照ください。

バットを握ることによる手の減衰の影響

ここで、バットの減衰について説明します。

下図は、バットを吊った状態と手で握った状態で、バットを加振した際の加速度計の時間応答の一例です。

上図が、バットを吊った状態でハンマリングした時の加速度計の時間応答、下図がバットを握った状態での時間応答の例です。

バットのインパルス応答例

動吸振器を使うことで、さらに制振効果を高め、より短時間で振動が収束していくと考えられます。

MATLAB(マトラボ)やScilab(サイラボ)を使ってシミュレーションを行い、実験で確認する流れとなります。

MATLABとScilabについては、以下のリンク先をご参照ください。

【制御系設計ツール】Scilabについて

補足:減衰と制振効果

減衰と制振効果を考えると、高い周波数には減衰材料や制振材などの利用が効果的です。

一方、1次など低い周波数の固有振動数(振動モード)に対しては、動吸振器などの制振装置の利用が効果的です。

金属バットは、高校野球などのTV中継で聞くこともあると思いますが、「キーン」といった高い打音を発します。

この高い音は、特に打点(ボールにバットが当たった位置)に近く繰り返し聞くことになるキャッチャーへの影響が懸念され、金属バットでは消音材などによる対策がなされています。

金属バットに動吸振器を設置することにより、1次の振動モードの制振と共に、ある程度の減衰を付与する効果も期待できます。

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ゴルフクラブへの応用

これまで説明してきた動吸振器によるバットの制振は、ゴルフクラブにも同様に適用することができます。

ドライバーで打った時に、手ごたえが残らず飛距離が出ている時が、野球でいうホームランの状態に相当します。

同様に、アイアンでダフった場合には手がしびれることが、野球の打ち損ねに相当します。

ゴルフクラブの中は、バット同様中空なので金属バット同様設置場所はグリップエンドが考えられます。

さらに取り外しができるようにすることを考えると工夫が必要になりそうです。

商品企画としてみたゴルフクラブの制振グッズ

実際の商品化を考えてみると、ゴルフクラブではあまり良い企画とはならないようです。

手のしびれは、次のホールにも影響が出るので振動対策をする意味はあると思うのですが、商品として売れるかとなるとゴルフクラブの場合には難しいようです。

なぜなら、

  • ゴルフクラブが売れる売れないかは、ドライバーで決まる。
    • 「飛ぶドライバーは売れる」に尽きるようです。
  • ドライバーの最大の商品力は飛ぶこと

つまり、ゴルフクラブの商品企画のポイントは、

  • ドライバーが飛ぶこと

だからです。

また、動吸振器を利用したゴルフ向けグッズは、ドライバーよりもアイアン系のクラブの方がより効果が大きいというのも、商品化の理由としては少々弱いようです。

まとめ

ここでは、「ホームランの振動解析:実験モード解析とFEMによる仮説と検証」で紹介した金属バットの振動解析結果を利用した制振グッズ(動吸振器)の設計とゴルフクラブへの応用について説明しました。

  • 金属バットの制振グッズ開発のきっかけ
  • バットの振動モード形による考察
  • 制振グッズ(動吸振器)の設計
  • ゴルフクラブへの応用
はかせ

サイト管理人で記事も書いているモノづくり会社の品証の人。
振動制御で工学博士なれど、いろいろ経験して半世紀。
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